FileMakerプラットフォームによる地域連携ネットワークの構築
─DASCH Proから北まるnetへ 
株式会社DBPowers 代表取締役 
有賀 啓之さん

2019-10-29


有賀 啓之さん

システム開発側から見た北まるnet

北まるnetがめざしたもの

2011年、北見市医療福祉情報連携協議会(以下、協議会)は、医療と介護の従事者間で連携し、スムーズな退院支援を実現することを目的とした「北まるnet」を構想していました。そこでは、「継続的な実現」性が特に重要視され、その場限りの単発で終わらない育てていけるシステム、が求められていました。

システムの条件

北まるnetでは、多様な事情を持つ医療、介護機関の参加を想定し、先進的すぎる機能や金銭的な出費を前提とした参加条件を設定することはできませんでした。多少、アナログ的な要素は認めつつ、(1) 多くの組織が参加できること、(2) 複数年の継続参加、継続運用が現実的であること、などがシステム開発に求められました。一方で、国および北海道の予算を利用することから、指定期間に運用を開始しなければならず、また、外部ネットワークを利用する上で情報漏えい対策は必須条件でした。こうした条件をクリアするために、ある程度の運用実績と、転用性・拡張性があることがベンダー選定要素として大きかったことが、後日明らかになりました。

DASCH Proの採用理由

稼働実績と基本機能

2011年当時、弊社のDASCH ProはFileMakerプラットフォームを基本構成に、主たるクライアントをWebクライアントとして、脳卒中疾患を中心に、急性期から回復期の医療機関連携を実現するシステムとして存在していました。その機能は、基本的な利用者認証と、掲示板や関連書類の保管庫などであり、「伝えたいことを伝えるコミュニケーションツール」としての稼働実績がありました。

安定性と拡張性

DASCH ProがFileMakerを中心に構築されていることも、採用に有利に働きました。医療機関には、FileMaker関連アプリケーションを採用しているところも多く、協議会にも自院でFileMakerカスタムAppを運用しているメンバーが複数いました。そのため、開発会社との協業体制さえ整えば拡張性を担保できることを、協議会として容易に理解することができました。また、日常的な利用から、安定性やパフォーマンスといった現実的な稼働イメージを協議会自ら持つことが可能でした。

FileMakerプラットフォームの採用

システム拡張を支えるアイデアの実現

DASCH Proが北まるnetの基盤として採用されて以降、新しい機能が北まるnet発の機能として実装されていきました。「電子お薬手帳」や「救急医療情報Pad」などがそれに相当します。
こうした機能は、まず、協議会のシステム構築専門部会を中心に、iPad上のFileMaker Goなどで動作可能なプロトタイプが作成されます。その場で、利用者ニーズやシステムニーズなどが討議され、システム開発要件定義として精査されます。この要件定義を基に、開発ベンダーである弊社が構築、実装、提供するという形で開発を進めてきました。
このような、現場でプロトタイプが作成可能な利用環境が、システムとしての拡張性を広げています。利用者が必要と考えるものを、実際の運用と同じアプリケーション環境で試作することができ、かつ、それを利用者目線で確認することができる。単に技術的に利便性が高いだけでなく、北まるnetを構成するメンバー自身がアイデアを提案し、北まるnetの継続運用の一助となることが実感でき、チームワークを実現できます。これは図らずも、開発側には本職としての矜持を持つことが要求され、その結果、成果物である運用システムの品質向上に寄与することになります。こうして北まるnet発の開発モジュールは、耐用性・メンテナンス性が加味されて、正規モジュールとして蓄積されています。

多彩な利用環境、運用環境

北まるnetでは、クライアントアクセスはブラウザを基本プラットフォームにしています。基本構成は、カスタムWeb(CWP)としてDASCH Proの基本機能をそのまま利用し、それ以外の追加モジュールにはFileMakerプラットフォームのWeb拡張機能であるFileMaker Web Directを採用しています。いずれも、SSL-VPN認証を経由した上でのネットワーク環境にて運用されています。

おわりに

協議会の要望である「継続的な運用と豊かな拡張性」を実現するためには、今後も課題が出てくると思われます。しかしながら、この仕組みに携わる方々がアイデアを持ち寄って実現してきたこれまでの経験から、必ず何らかの解決策を提示できると感じています。今後の北まるnetのさらなる発展に期待しています。


(ケアビジョン Vol.2(2019年10月1日発行)より転載)
TOP