技術解説(富士フイルムメディカル)

2023年3月号

Cardiac Imaging 2023 CT技術のCutting edge

循環器領域におけるphoton counting detector CTの可能性

角村 卓是[富士フイルムヘルスケア(株)メディカルシステム開発センター]

64列CTの登場以降,CTは循環器領域の画像診断に欠かせないものとなっており,その撮影の簡便性と高い形状再現性を生かした冠動脈検査や心筋の機能検査は,生活習慣病である心筋梗塞の予防に威力を発揮している。その後もCTは,循環器領域を中心に検出器の多列化,スキャン速度の高速化と進化を遂げてきた。
そして近年,次世代のCTとして期待を集めているのがphoton counting detector CT(PCD-CT)である。PCD-CTは,検出器に半導体を用いることでX線フォトン1つ1つを個別に計測することが可能であり,従来では得られなかったさまざまな情報が得られると期待されている。
本稿では,富士フイルムヘルスケアのPCD-CTへの取り組みと循環器領域への可能性について紹介する。

■PCD-CTの原理

現在広く普及しているCTは,検出器にガドリニウムオキシサルファイド(GOS)などのシンチレータを用い,被写体を透過したX線フォトンをシンチレータで光に変換してフォトダイオードで検出する。ある一定時間内に検出器素子に入射したX線フォトンエネルギーの積分値が信号値となって出力されることから,エネルギー積分型CT(energy integrated detector CT:EID-CT)と呼ばれる。
一方,PCD-CTは,検出器素子にテルル化カドミウム(cadmium telluride:CdTe)やテルル化亜鉛カドミウム(cadmium zinc telluride:CZT)などの半導体を採用し,X線フォトンが検出器素子に入射した際に発生する電荷をエネルギーごとにカウントする(図1)。このような原理の違いから,PCD-CTは,EID-CTでは失われていたX線フォトンのエネルギー情報を利用し,これまでにない情報を提供することができると期待されている。

図1 EID-CTとPCD-CTの原理

図1 EID-CTとPCD-CTの原理

 

■循環器画像診断への可能性

1.物質弁別
心臓CT検査の主目的は冠動脈の評価である。心筋梗塞に代表される心疾患は,わが国において死因の第2位となっており,心筋梗塞の原因となる石灰化や冠動脈の狭窄の診断は今後も重要な検査となる。しかし,冠動脈CT検査の難点は,この心筋梗塞の原因となる石灰化と造影剤とが画像上では見分けがつきにくいことである。PCD-CTは,先述したように,X線フォトンをエネルギーごとに計測することができるため,造影剤と石灰化のエネルギーごとのX線吸収率の差を利用して,両者を明確に区別することができる。
図2は,血管と石灰化プラークを模擬したファントム画像である。上段のEID-CTで撮影した画像では,血液と石灰+脂肪のCT値がほぼ同じになっており,画像上では区別することができない。一方,下段のPCD-CT画像では,石灰部分を弁別して除去することにより脂肪のみが描出され,血液と明確に区別することができる。このように,PCD-CTはより正確な冠動脈の形状診断に役立つと考えられる。

図2 石灰化プラークを想定した物質弁別実験画像

図2 石灰化プラークを想定した物質弁別実験画像

 

2.高精細
PCD-CTのもう一つの特徴として,高空間分解能が挙げられる。半導体検出器は,これまでのシンチレータ検出器よりも微細な加工・配列が可能であり,素子の物理サイズは0.3〜0.5mmとEID-CTの半分以下となっている。
図3に,3Dプリンタで造形したファントムを,EID-CTおよびPCD-CTで撮影した画像を示す。ファントムの中心部には直径0.3,0.5,1.0mmの空洞が上下左右に配列されており,濃度の異なるヨード造影剤が封入されている。EID-CTでは0.3mmの微細な構造は正確に描出されておらず,濃度の濃い部分でかろうじて認識できる程度にとどまっている。PCD-CTではCT値の低下は見られるが,低濃度でも0.3mmの構造物が視認でき,高濃度では構造物の輪郭がはっきりとわかる。心臓用再構成フィルタを適用した際のmodulation transfer function(MTF)では,PCD-CTはEID-CTの約1.7倍という結果が得られた(図4)。
心筋梗塞の原因となる石灰化プラークは,発生から破裂までの機序が明らかになりつつあり,破裂リスクを予測する上で,石灰化や脂肪分,線維分の定量的な把握が重要となる。PCD-CTの高精細な画像は,石灰化プラークの性状をより定量的にし,心筋梗塞を事前に防ぐ有用なツールになりうると考える。

図3 空間分解能評価ファントム画像でのEID-CTとPCD-CTとの比較

図3 空間分解能評価ファントム画像でのEID-CTとPCD-CTとの比較

 

図4 EID-CTとPCD-CTのMTF比較

図4 EID-CTとPCD-CTのMTF比較

 

■PCD-CT画像の課題と対応

1.動き補正技術「Cardio StillShot」
これまで,PCD-CTの循環器領域における可能性について述べてきたが,その性能を十分に生かし,臨床の現場に浸透させるためには,検出器以外にも解決しなければならない課題がある。その一つは,臓器の「動き」である。先述のとおり,PCD-CTは,EID-CTより高精細な画像を提供することができるが,それゆえにこれまで画像に現れなかった「動き」も描出してしまう。特に循環器領域では,心臓の動きや呼吸の動きが織り交ざっているため,真に高精細な画像を提供するには動きへの対応が必要となる。
当社では,心臓CT検査において心臓の拍動によるブレを低減する技術Cardio StillShotを開発し,64列CT「SCENARIA View」に搭載した。
Cardio StillShotは,心電図同期撮影により収集されたraw dataから,心臓全体の動き方向と量を四次元的に算出・推定し,動き補正画像再構成処理を行うことで冠動脈や心臓の動きを低減する。実効的な時間分解能は最高28msであり,冠動脈や心臓の動きによるアーチファクトを低減することが可能である。図5に臨床例の一例を示す。通常の心電図同期撮影では高心拍のために時間分解能が足りず,右冠動脈が正しく結像できていないが,Cardio StillShot適用後では右冠動脈のブレが抑えられ,十分な動き低減効果が確認できる。

図5 Cardio StillShotの臨床適用例

図5 Cardio StillShotの臨床適用例

 

本稿では,PCD-CTの特徴と循環器領域への適用について,当社での取り組みを交えながら紹介した。本稿で述べたように,PCD-CTは従来CTにない特徴を有し,循環器領域のCT診断を一つ上のステージへと引き上げるものとして,多くのユーザーの関心を集めている。この期待に応えるべく,PCD-CTをいち早く臨床の場に提供し,循環器CT検査の未来を開けるよう,富士フイルムグループ一体となって努力していく所存である。

販売名:全身用X線CT診断装置 SCENARIA View
認証番号:230ABBZX00027000
SCENARIA,SCENARIA View,StillShotは富士フイルムヘルスケア株式会社の登録商標です。

 

問い合わせ先
富士フイルムヘルスケア株式会社
https://www.fujifilm.com/jp/ja/healthcare/mri-and-ct

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