技術解説(富士フイルムメディカル)

2016年4月号

Abdominal Imagingにおけるモダリティ別技術の到達点

腹部領域におけるコンパクト64列CT装置の臨床的有用性

中澤 哲夫(マーケティング統括本部)

本稿では,コンパクト64列CT装置「Supria Grande」*1に搭載している先端技術の一部を紹介する。このCT装置は0.625mm検出器を64列配置し,スキャンスピードは0.75秒である。本装置の特長の一つに高い設置性が挙げられる。最小設置面積は12.0m2であり,従来の4列CT装置や16列CT装置のスペースがあれば十分に設置可能となっている1)。このように,Supria Grandeは,その高い設置性から中核病院やクリニック向け,つまり地域医療に適した64列CT装置として開発された。Supria Grandeは高い設置性だけでなく,ノイズ低減技術や先端画像処理技術も搭載している。以下,先端技術の一部およびCT装置を用いた仮想大腸内視鏡検査(CT colonoscopy,CT colonography,CTCなどと表記される。以下,CTC)について解説する。

■Supria Grandeによる腹部高速撮影

Supria Grandeは64列検出器を実装しているため,16列CT装置などに比べて非常に高速に撮影が可能である。例えば,胸腹部(約570mm相当)を約7.5秒で撮影可能で,姿勢を保つことが困難な方や長い息止めが困難な方の身体的負担が軽減される。また,0.625mm検出器を64列配置しているため,全身を高速にサブミリ撮影が可能である。図1に示すように1回の息止め(約14秒)で1100mm以上の高精細撮影が可能であり2),広範囲かつ高精細なMPR画像の描出がルーチン検査で可能となる。図2に,当社64列装置「SCENARIA」とSupria Grandeの撮影画像例を示す。左がSCENARIAによる0.5秒スキャンを用いた撮影例であり,右がSupria Grandeによる0.75秒スキャンを用いた胸腹部のMPR画像である。ビームピッチは異なるが,ほぼ同じ撮影条件での撮影例である。全体的に比較すると,心臓以外の肺野や腹部などの部位では,両撮影画像に遜色ない結果が得られている。このようにSupria Grandeは心臓以外の部位,特に撮影範囲の広い胸腹部などの撮影にも適したCT装置と言える。

図1 Supria Grandeの高速撮影

図1 Supria Grandeの高速撮影
1回の息止め約14秒で1100mm以上の高精細撮影が可能。画像は実際の撮影例。

 

図2 SCENARIAとSupria Grandeの画質比較

図2 SCENARIAとSupria Grandeの画質比較
心臓以外ではほぼ同等の画質

 

■最先端技術を搭載

次にノイズ低減処理である“Intelli IP Advanced”を解説する。Intelli IP Advancedは,投影データ空間上でのノイズ成分を,高精度な統計学的モデルに基づき逐次近似法により除去した上で,画像データ空間上で解剖学的情報と統計学的情報を基にノイズ低減を図る処理である。撮影部位や撮影方法などの状況に適応するため,ノイズ低減率の異なる7段階のレベル設定を設けた(図3)。
また,Supria Grandeには,“Intelli EC”と呼ぶ自動線量制御(auto exposure control:AEC)が搭載されている。これは,被検者の体格や部位によるX線減弱の違いに応じて,読影に必要な画質を得られるよう,適切に管電流を制御する機能である。

図3 Intelli IP Advancedのレベルとノイズの関係

図3 Intelli IP Advancedのレベルとノイズの関係

 

■CTC検査に最適

0.625mm検出器を64列搭載したSupria Grandeは,これまで紹介したように高速に広範囲の撮影が可能である。また,前述で解説したようなノイズ低減技術や線量制御技術を搭載している。これらの機能は,CTC検査に適しているとも言える。最近のCTC検査では,大腸を膨らませるために空気ではなくCO2ガス(炭酸ガス)を用いることが多い。CO2ガスは,空気より130倍程度も速く体内に吸収されると報告されており3),被検者は膨満感から早く解放される。その反面,CTC検査を早く実施しないと大腸内に注入したCO2ガスが抜けてしまうことになる。そのため,より高速にCTC検査を実施する必要がある。
また,CTC検査の場合,仰臥位・腹臥位の2体位を撮影するのが一般的である。これは,ポリープなどが残渣・残液などで隠れて見えない場合,異なる体位でCT撮影することでポリープなどの疾患を見落とさないための撮影手法でもある。2体位の撮影を行うため被ばく線量増加が懸念されるので,一方の体位では撮影線量を下げる施設も多い。撮影線量を下げると,画像ノイズが増すため,ノイズ低減処理が必要となる。
Supria Grandeには,CTC検査に必要とされる高速撮影が可能であり,さらに撮影線量を下げた場合に有効なノイズ低減処理であるIntelli IP Advancedを実装しているため,CTC検査に適したコンパクト64列CT装置と言える。
図4に,Supria GrandeによるCTC検査の臨床撮影例を示す。この撮影例では,画像SDが仰臥位13,腹臥位20となるように撮影し,Intelli IP Advancedを適用した。図4 aは,仰臥位での撮影例(DLP=339mGy・cm,実効線量換算5.1mSv),図4 bは腹臥位の撮影例(DLP=130mGy・cm,実効線量換算1.9mSv)であり,腹臥位は仰臥位に比して約63%減の線量で撮影した。図4 bの腹臥位(Level 1)におけるCEV画像では,画像ノイズは目立たないが,図4 aの仰臥位(Level 1)に比してMPR画像の肝臓部位でのノイズの粗さが目立つ(図4 b)。一方,仰臥位(Level 1)と腹臥位(Level 3)では,CEVおよびMPR画像共,ほぼ同等の画質であり,臨床的に読影するに十分な画像を得られているとの評価をいただいている。今後は,さらなる低被ばく化を進めるため,低線量撮影とIntelli IP Advanced処理レベルの最適な組み合わせの検討も進める。

図4 Supria GrandeによるCTC撮影例

図4 Supria GrandeによるCTC撮影例

 

さらに,当社のCTC処理ソフトウエアには隆起性部位を色づけし,パノラマ画像上で強調表示を行う形状解析フィルタ機能も搭載している(図5)。この機能は,大腸内部で襞以外の隆起した部位と他領域を色分け表示するフィルタであり4),読影者に隆起した部位をわかりやすく示す機能である。これにより,CTC検査の問題である読影時間の短縮を期待できる機能でもある。

図5 形状解析フィルタの処理例

図5 形状解析フィルタの処理例
の隆起性部位を色分け表示している。

 

以上,簡単にコンパクト64列CT装置であるSupria Grandeの技術を解説した。解説した機能以外にも,多くの先端技術や処理ソフトウエアを実装しており,Supria Grandeは心臓撮影以外のすべての部位に適したCT装置と言える。また,静音性にも配慮したCT装置であり,被検者にやさしい医療機器として開発した。当社は今後もさらなる技術開発や製品開発を進めていく。

*1 Supria GrandeはSupriaの64列検出器搭載モデルの呼称です。
*2 Supria,Supria Grande,SCENARIA,Intelli IP,IntelliEC,CEVは株式会社日立メディコの登録商標です。

●参考文献
1)高橋 誠・他 : 新型Compact & High Performance64列CT装置“Supria Grande”の開発. MEDIX, 63, 31〜34, 2015.
2)井上幸平 :地域医療に貢献する64列CT導入がもたらす新たな経営的展開. 新医療, 484, 54〜55, 2015.
3)鈴木雅裕・他 : CT Colonographyにおける前処置法の動向. INNERVISION, 25・3, 23〜26, 2010.
4)中澤哲夫・他 : CT Colonoscopyの新機能─形状解析フィルタの特長. MEDIX, 57, 30〜33, 2012.

 

●問い合わせ先
株式会社日立製作所
ヘルスケアビジネスユニット
マーケティング本部
〒110-0015
東京都台東区東上野2-16-1 上野イーストタワー
TEL:03-6284-3100
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