技術解説(富士フイルムメディカル)

2012年11月号

CT最新技術紹介

逐次近似を応用したノイズ低減処理「Intelli IP」と「SCENARIA」の最新技術

萩原久哉(CT・MRマーケティング本部)

2004年にGonzalezによりX線被ばくの影響がLancetで報告され,また2011年の東日本大震災という未曾有の大災害を経験し,国内外のX線被ばくへの関心が高まるとともに,被ばく線量低減の重要性が認識されている。
今回の第16回CTサミットにおいては,64列/128スライスCT「SCENARIA *1」の逐次近似を応用したノイズ低減処理「Intelli IP*1」を中心に,「IntelliCenter*1」や「0.35s/rot Whole Body Scan」などの最新技術を解説した。本稿では,その内容について詳しく述べる。

■Intelli IP(逐次近似を 応用したノイズ低減処理)

われわれは,統計学的モデルを考慮した逐次反復処理によるノイズ低減技術の開発を進めており,最終的には真の逐次近似再構成として,弊社独自の特長を備えたアルゴリズムを用いて大幅なノイズ低減をめざしている。一方で,処理速度を特に重視したIntelli IP*2と,実用的な処理速度において,被ばく低減性能を向上させたIntelli IP(Advanced)*2を開発した。
Intelli IPは,適応型逐次反復処理によって,統計的なデータの信頼性に基づいたノイズ低減処理を投影データと画像データに施すものであり,ノイズ低減度,先鋭度,粒状性などのバランスを,部位ごとに最適化する処理技術である。投影空間では,統計的信頼度に基づき,信頼度の低い投影データに対して選択的,反復的にノイズ低減処理が行われる(図1)。
一方,Intelli IP(Advanced)は,投影空間上でのノイズ成分を高精度な統計学的モデルに基づき逐次近似解法により除去した上で,画像空間上で解剖学的情報と統計学的情報を基に画質のコントロールを行う処理(図1)であり,画像ノイズやストリークアーチファクトを大幅に低減する効果が期待できる。Intelli IP(Advanced)は,Level 1からLevel 7まで7段階の設定があり,数値が大きくなるほどノイズ低減効果が高くなる。

図1 Intelli IP処理概念図

図1 Intelli IP処理概念図

 

35mAsの低線量で撮影した心臓axial像に対して,Intelli IP(Advanced)のLevel 4を適用した例を示す(図2)。従来の再構成画像(filtered back projection:FBP法)と比較すると,Intelli IP(Advanced)により,低線量によるノイズだけでなく,椎体からのストリークアーチファクトが低減していることがわかる。また,通常の肺がん検診の半分程度の線量(17.5mAs)で撮影した肺野MPR像に対してIntelli IP(Advanced)のLevel 7を適用した例を示す(図3)。従来の再構成画像(FBP法)と比較すると,Intelli IP(Advanced)により,肩のストリークアーチファクトや肺尖部のノイズが低減し,気腫性変化が確認しやすいことがわかる。
このように,Intelli IP(Advanced)には,アーチファクトやノイズを低減し画質を向上する効果と,従来検査より低線量で撮影できる可能性を与える2つの効果がある。しかしながら,極端な低線量撮影により,本来得られるべき信号が失われてしまうと,逐次近似処理を適用しても信号は元に戻らないため,撮影部位や検査目的に応じた適切な線量と逐次近似のレベルを選択することが重要である。

図2 Intelli IP適用例(心臓,35mAs)

図2 Intelli IP適用例(心臓,35mAs)

 

図3 Intelli IP適用例(肺野,17.5mAs)

図3 Intelli IP適用例(肺野,17.5mAs)

 

■IntelliCenter(横スライド寝台+「心臓用Bow-tieフィルタ」)

SCENARIAは,従来の標準寝台とは別に,オプションとして横スライド機構を備えた寝台を組み合わせることができる。この横スライド寝台は,ガントリの左右方向に最大80mmの移動が可能である。心臓撮影のように撮影領域が小さい場合には,この機構を使って心臓を撮影中心に移動させ,さらに心臓Bow-tieフィルタを用いてX線を関心領域に絞ることで,被ばくと分解能向上の両方の効果が期待できる。この撮影機能をIntelliCenterと呼ぶ。
寝台横移動なしで標準のBow-tieフィルタを組み合わせた場合に対して,Intelli Centerを使った場合の被ばく低減効果を,仮想ファントムを用いてシミュレーションしたところ,撮影部位全体で24%の被ばく低減となり,さらにFOV外に限った場合では,35%の低減効果があるという結果が得られた(図4)。また,ガントリの左右方向に最大80mmの移動が可能なため,心臓撮影だけでなく,整形領域での活用も期待できる。実際に寝台を70mm移動させて肩を撮影した例を示す(図5)。

図4 IntelliCenterと被ばく低減率

図4 IntelliCenterと被ばく低減率

 

図5 IntelliCenter適用例(肩関節)

図5 IntelliCenter適用例(肩関節)

 

■0.35s/rot Whole Body Scan(全身撮影0.35s/rot)

SCENARIAの基本性能を説明する上で欠かせないのは,データ取り込み速度(ビューレート)の速さである。従来機種でも,検出器単体としてはこれを実現するための性能を有していたが,検出器からのデータ転送や画像再構成システムなどを高速化し,装置全体のバランスを最適化することによって,SCENARIAでこの高速ビューレートを実現した。この技術は,画質とスキャン時間において大きなアドバンテージとなる。ビューレートが高いということは,FOV辺縁の画質劣化が少ないということである。SCENARIAは,0.35s/rotの高速スキャンにおいても1回転あたり1008viewを確保することができるため,体幹部のように大きなFOVでも回転速度を落とさずに撮影することが可能である。
また,SCENARIAでは,独自の三次元画像再構成アルゴリズム“CORE法”を採用している。CORE法は,画素ごとに再構成で使用する収集データ範囲を最適化するアルゴリズムである。実効的なコーン角を狭くすることができるため,コーン角に起因するアーチファクトを低減することが可能になる。また,実効コーン角が小さいことで,高速ピッチを利用することができることも利点である。0.35s/rotと高速ピッチを組み合わせることで,最大180mm/sの撮影スピードを実現した(図6)。

図6 180mm/s(0.35s/rot, BP=1.58)で700mmを3.8sで撮影

図6 180mm/s(0.35s/rot, BP=1.58)で700mmを3.8sで撮影

 

*1 SCENARIA,Intelli IP,IntelliCenterは株式会社日立メディコの日本における登録商標である。
*2 Intelli IPは,NormalモードとAdvancedモードの2つがあるが,本文中ではそれぞれIntelli IP,Intelli IP(Advanced)と記す。

 

【問い合わせ先】 CT・MRマーケティング本部 TEL 03-3526-8305

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