セミナーレポート(富士フイルムメディカル)

日本超音波医学会第91回学術集会が2018年6月8日(金)〜10日(日)の3日間,神戸国際会議場(兵庫県神戸市)などを会場に開催された。8日に行われた株式会社日立製作所共催のランチョンセミナー4では,東京医科歯科大学肝臓病態制御学講座教授の朝比奈靖浩氏を座長に,大阪市立大学医学部肝胆膵病態内科学准教授の森川浩安氏と同講師の打田佐和子氏が,「肝疾患の診断から治療〜進化したElastographyとRVSの活用〜」をテーマに講演した。

2018年9月号

日本超音波医学会第91回学術集会ランチョンセミナー4 肝疾患の診断から治療 〜進化したElastographyとRVSの活用〜

肝疾患の診断から治療 〜進化したRVSの活用〜

打田佐和子(大阪市立大学大学院医学研究科肝胆膵病態内科学)

打田佐和子

わが国では肝がん患者の高齢化が進んでおり,それに伴い,身体への負担が少なく根治度の高い治療が求められている。本講演では,低侵襲治療法であるラジオ波焼灼療法(RFA)を支援する,日立製超音波診断装置のアプリケーション“Real-time Virtual Sonography(RVS)”の進化と有用性について,症例を踏まえて報告する。

肝がんに対する穿刺局所治療の現状

1.RFA治療実施の背景
近年,C型肝炎は薬物療法でウイルスを排除できるようになり,肝がんでも根治術が施行可能な症例については,術後の抗ウイルス治療が可能となった。ウイルス学的著効達成(SVR)後で肝機能が維持されているが肝がんとなる症例も増加しており,これらの症例にはより根治度の高い治療が求められている。
また,当院で2014〜2017年にRFAを施行した患者年齢の中央値は73歳(最高89歳)と高齢化している。より低侵襲な治療を行うためには,事前にRFAの焼灼範囲を予測するなど,十分な検討が必要である。
さらに,CTやMRIなどで小さな肝がんが発見された場合や,再発例の中でも特に局所再発においては,CTやMRIで指摘された病変を超音波で同定して治療する必要がある。

2.RFA治療の課題
当院では,モノポーラの「Cool-tip RFAシステム」(コヴィディエン社製),可変式の「VIVARF System」(STARmed社製),マルチポーラの「CelonPOWER」(オリンパス社製)を用い,患者ごとに腫瘍の数や位置,大きさなどを考慮して最適なデバイスを選択している。しかし,治療時にマージンが不十分であった箇所から再発する例も見られることから,高い局所制御能を得るためには,焼灼範囲を事前にしっかりと予測し,適切な位置に電極針を穿刺する必要がある。
治療装置のうち,モノポーラでは可変式のVIVARF Systemを用いることで,大きさの異なる複数個の腫瘍に対して,1本の電極針で焼灼範囲を変えて治療することができる。また,マルチポーラのCelonPOWERは,複数本の電極針を穿刺することで,広範囲の焼灼や治療時間の短縮が可能である。これらの装置の登場により,焼灼範囲の予測やシミュレーション,複数の電極針とターゲットの三次元的な位置関係の把握,あるいは最適な穿刺経路の把握がこれまで以上に求められるようになったが,従来の超音波画像では困難である。その解決方法として,ナビゲーションによるターゲットへのアプローチや,超音波診断装置上でのリアルタイムのシミュレーション,三次元表示の工夫,任意の針位置における電気的物理量(電場)のシミュレーションなどが可能となれば,RFAの有効性はさらに高まるものと思われる。

RFA治療の課題を解決するRVSの進化

上記の課題を解決する機能を有しているのが,当院が2017年9月に導入した日立製の超音波診断装置「ARIETTA 850」である。ARIETTA 850に搭載されているRVS,“3D Sim-Navigator”“E-field Simulator”について,症例を踏まえて紹介する。

1.RVS
RVSは,CTやMRI,超音波のボリュームデータを超音波診断装置に取り込んで,観察中の超音波画像と同一のMPR像をリアルタイムに再構成して並列表示させる機能である。これにより,超音波検査だけでは発見しづらい小さな病変の検出,あるいはドーム直下で腫瘍の全体像がつかみづらい病変への穿刺(図1)や,治療部位の決定などに有用で,安全かつ正確な治療への貢献が期待される。

図1 RVSによるRFA治療のナビゲーション

図1 RVSによるRFA治療のナビゲーション

 

2.3D Sim-Navigator
3D Sim-Navigatorは,RVSでターゲットへのナビゲーションを行いながら穿刺ラインのシミュレーションが可能な機能である。腫瘍を効果的に焼灼するために,1本もしくは複数本の穿刺針をどの位置・角度から穿刺すればよいかを,CT画像などをガイドとして超音波画像上に表示することができる。複数本の穿刺針や穿刺ルートの履歴登録が可能で,RVSのバーチャル画像や超音波画像上などに穿刺ガイドラインを表示して,
検査中に穿刺ルートを検討できるほか(図2 左上,右),CTなどのボリュームデータから作成した3D Body Mark上に穿刺ルートを表示して,ターゲットと穿刺ラインの三次元的な位置関係を把握することも可能である(図2 左下)。
また,3D Sim-Navigatorでは,穿刺ガイドライン方向から腫瘍を見た断面を表示するC-plane表示が可能である。複数本穿刺の場合,1断面の超音波画像のみでは位置関係を把握しづらいが,C-plane表示にて奥行方向の位置把握が可能となり,複数本の穿刺針を等間隔に留置できるほか,十分なマージンを取った焼灼が可能となる(図3)。

図2 3D Sim-Navigatorによる穿刺ルートの検討と三次元的位置関係の把握

図2 3D Sim-Navigatorによる穿刺ルートの検討と三次元的位置関係の把握

 

図3 3D Sim-NavigatorによるC-plane表示の有用性

図3 3D Sim-NavigatorによるC-plane表示の有用性

 

3.E-field Simulator
RFA治療時に焼灼範囲を予測するのは困難であるが,E-field Simulatorでは,電極の配置から決定される電場をCTなどの画像上に表示することができる。1本穿刺,複数本穿刺のいずれにも対応可能で,穿刺針の種類や電極長に応じた電場の範囲をシミュレートでき,針経路のシミュレーション位置の変更に応じた電場の変化など,電極配置に合わせた電場のシミュレーションが可能である(図4)。これにより,穿刺ラインの検討の自由度が大幅に高まるほか,おおよその焼灼範囲が予測できる。また,複数本穿刺では,針を平行に配置した場合だけでなく,任意の角度に配置した場合の電場もシミュレーション可能である。

図4 E-field Simulatorによる電場の表示

図4 E-field Simulatorによる電場の表示

 

4.症例提示
症例1は,CTで描出される肝がんに対して,RVSを用いて超音波ガイド下にRFAの追加焼灼を行った。治療後の画像を超音波診断装置に取り込んでRVSで確認したところ,ほぼE-field Simulatorで予測したとおりの焼灼野が得られていた(図5)。
症例2は,S8の肝がんである。CT画像では心臓との距離は問題ないと思われたが,RVSに取り込んで確認したところ,心臓のごく近傍に肝がんが認められた。E-field Simulatorにて,Cool-tip 2cm針では十分な焼灼野が得られないが,3cm針で刺入位置を工夫すれば十分な焼灼野が得られ,また,腫瘍から少しずれても門脈を避けて治療可能と考えられたことから,Cool-tip 3cm針で治療を行った。治療後の画像では,予測どおりの十分な焼灼野が得られていることが確認できた(図6)。

図5 症例1:E-field Simulatorで予測した焼灼野の確認

図5 症例1:E-field Simulatorで予測した焼灼野の確認

 

図6 症例2:心臓近傍のS8肝がんへのE-field Simulatorを用いたRFA

図6 症例2:心臓近傍のS8肝がんへのE-field Simulatorを用いたRFA

 

5.小括
3D Sim-Navigatorにより,RVSでターゲットへのナビゲーションをしながら穿刺ラインのシミュレーションが可能となった。また,E-field Simulatorにより焼灼範囲を予測できるため,これらを活用することで確実かつ安全な治療が可能になると考える。

当院でのRVS利用の試み

RVSを治療以外にも役立てたいと考え,当院では教育・学習ツールとして活用している。内部に同じ条件を備えたCT用ファントムと超音波用ファントムを用意し,CT用ファントムを撮影したCT画像を超音波診断装置に取り込んで,RVSで超音波ファントムの画像と同期させる。この状態で超音波診断装置の使い方やプローブの当て方などを学習すると,未経験者でも1時間程度の練習で,CTと超音波で同じ部位を描出可能となる。
また,CT画像上に任意の腫瘍を作成し,それをターゲットとしてRFAの練習もできるため,実際の患者を治療する前の学習用ツールとしても優れている。周囲臓器との位置関係など解剖の理解や,プローブ操作の習得にもきわめて有用である。

まとめ

進化したRVSを活用して,より確実で安全な局所治療が行えるように,これからも取り組んでいきたい。

 

打田佐和子(Uchida-Kobayashi Sawako)
1997年 大阪市立大学医学部卒業。2003年 同大学大学院医学研究科修了。2010年〜同大学大学院医学研究科肝胆膵病態内科学講師。

 

●そのほかのセミナーレポートはこちら(インナビ・アーカイブへ)

【関連コンテンツ】
TOP