セミナーレポート(富士フイルムメディカル)

第105回日本泌尿器科学会総会が2017年4月21日(金)〜23日(日)の3日間,城山観光ホテル(鹿児島市)などを会場に開催された。22日に行われた株式会社日立製作所共催のランチョンセミナー27では,九州大学大学院医学研究院泌尿器科学分野教授の江藤正俊氏を座長に,九州大学病院泌尿器・前立腺・腎臓・副腎外科助教の出嶋 卓氏と九州大学大学院医学研究院先進画像診断・低侵襲治療学共同研究部門教授の浅山良樹氏が,「泌尿器癌に対する新たな診断・治療戦略」をテーマに講演した。

2017年8月号

第105回日本泌尿器科学会総会ランチョンセミナー27 泌尿器癌に対する新たな診断・治療戦略

画像ガイド下凍結療法:現況と将来展望

浅山 良樹(九州大学大学院医学研究院先進画像診断・低侵襲治療学共同研究部門)

浅山 良樹

小径腎癌(T1a:4cm以下)に対する凍結療法は,国内では2011年7月に保険収載(保険点数:52800点)され,当院でも2014年4月に治療を開始した。治療成績は5年全生存率97.8%,5年癌特異的生存率100%と非常に良好で,合併症も6%(輸血を要する出血:1.6%)と安全性も高いことが報告されている1)

腎細胞癌に対する凍結療法

1.凍結療法の特徴と適応
凍結療法は,アルゴンガスを用いて穿刺針の先端を急速冷凍することで腫瘍壊死を得る治療法である。凍結中は低温麻酔効果により痛みが少ないことに加え,体表の傷が小さい,腎機能を温存できる,局所麻酔で行えるといった特長がある。施行時間は2.5〜3時間程度で,入院日数も短期間ですむ。
ガイドライン2)上の適応としては,腫瘍径4cm以下の小径腎細胞癌で,脳血管障害や心機能障害など重篤な合併症がないこと,凝固障害がないことなどがあるが,実際に治療を行ってきた経験からすると,脳血管障害などの合併症があり手術ができない患者には,かえって良い適応ではないかと考えている。また,認知症の患者は治療中に動いてしまい制御できないことがあるため,認知症がないことも重要である。凍結療法の良い適応としては,高齢,単腎,腎門部・埋没型,腎機能低下,多発症例(von Hippel-Lindau病など),合併症(心疾患,肺機能低下など)で手術ができない患者などが考えられる。

2.凍結療法の概要
当院では,凍結手術器「CryoHit」(GALIL MEDICAL社製,日立製作所販売)を用いて,CTガイド下で腎細胞癌の凍結療法を施行している(図1)。治療室内に置いたボンベから,チューブでCryoHitへアルゴンガス(凍結用)とヘリウムガス(解凍用)を供給する。穿刺針(ニードル)は2種類,形は2タイプあり,当院では,穿刺しやすくCT装置に干渉しにくい曲がったタイプの針を使用している。
凍結の原理は,凍結用高圧アルゴンガスを用いてジュール・トムソン効果によりニードル周囲に低温を発生させ,凍結領域(アイスボール)を作り出す。ニードル1本のアイスボールはラグビーボール状であり,短軸は2cm径,長軸はニードルの種類により3cmまたは5cmとなる。治療では,ニードルを複数本組み合わせることで大きなアイスボールを作り,腎細胞癌を凍結させる。ニードル先端は−170°C,凍結される臓器は−20〜−40°Cまで低下する。先端だけでなくチューブにも霜が付くほど低温となるため,清潔な手袋に湯を入れて穿刺部体表に置き,常に交換して凍傷を防ぐ。
細胞死のメカニズムは,細胞質内にアイスクリスタルができることでの直接障害や,凍結による脱水・解凍による膨化を繰り返すことでの細胞死,あるいは血管内凝固症候群を局所的につくることで血管ダメージを引き起こす,ほかにも免疫応答,アポトーシスなどの関与が言われている。治療による肉眼的・組織学的変化としては,直後は外観からは認識できないが,24時間ほど経つと浮腫やうっ血,間質性出血が生じる。24時間〜2日間ほど経つと中心部は完全凝固壊死が明確となり,その周囲に部分壊死の移行部が確認できる。当院では,腫瘍が中心部に完全に入るように,セーフティマージン6mmを目安にして凍結を行っている。1か月ほど経過すると,慢性炎症性変化や糸球体・尿細管の線維化,ヘモジデリン沈着,膠原線維沈着が生じ,その後長期間をかけて収縮していく。
小径腎癌に対する経皮的凍結治療の成績は,根治的腎摘除術や部分切除,RFAなどほかの治療法と比べても遜色はない1),3),4)。腎機能温存により心臓や脳血管のイベントを防ぐ効果や,凍結療法により腎機能を保護することで心血管系の病気の発症を低減できることが,高い5年生存率に関係していると考えられる。また,合併症としては,血尿や膿瘍,血腫などが生じる。そのほか尿管狭窄,尿瘤,凍結による筋損傷,腎機能低下,腸管穿孔が起こりうる5),6)

図1 凍結手術器「CryoHit」外観

図1 凍結手術器「CryoHit」外観

 

九州大学における腎細胞がん凍結療法の現況

1.治療の実施状況と結果
当院で2014年4月〜2017年3月に凍結療法を施行した腎細胞癌103症例(112病変)について,手技的成功率,1次奏効率(初回治療でCRが得られた割合),2次奏効率(追加治療でCRが得られた割合)を評価した。症例の内訳は,30〜90歳(中央値:68歳),男性77例,女性26例,平均腫瘍径2.4cmである。当院では治療と同時に生検を行っており,組織型はclear cell RCCが82結節と最も多かったが,良性の腎血管筋脂肪腫(AML)も1例あった。術前の診断が難しいAMLのような症例もあるため,生検を行うタイミングなどプロトコールの検討も今後必要だろう。また,抗凝固薬や抗血小板薬を使用している症例が26例あり,適宜ヘパリン置換などを併用している。
凍結療法の適応理由については,患者の希望が40例と最も多く,次いで手術ハイリスク(31例),対側腎腫瘍治療後(15例),腎機能低下(5例),高齢(5例),腎門部(3例),片腎(2例),von Hippel-Lindau病(2例)であった。平均eGFRは,61(5〜114)mL/min/1.73m2であった。
手技的成功率は100%,1次奏効率87.5%(98/112),2次奏効率63.6%(7/11)で,全体では93.7%(105/112)であった。奏効を得られなかった症例は,対側腎癌の転移で非常に悪性度が高くコントロール不能であったり,術前評価が十分に行えず,T1aと診断していたものが実際にはT3aであったものである。高悪性度や進行症例では奏効しにくいと考えられるが,T1aの原発性腫瘍であれば,ほぼ100%の奏効率が得られると考えられる。

2.症例提示
症例1(70歳代,男性)は,腎門部のclear cell RCCである。冠状断再構成画像で,3本のニードルとその周囲に黒くアイスボールが認められる(図2)。腫瘍が黒い範囲に入ったことを確認して治療を終了した。経過観察では,黒く描出された腫瘍部が徐々に吸収され,最終的には同定できなくなった(図3)。

図2 症例1:腎門部clear cell RCC(70歳代,男性)

図2 症例1:腎門部clear cell RCC(70歳代,男性)

 

図3 症例1:治療後経過

図3 症例1:治療後経過

 

症例2(60歳代,男性)は両側腎癌で,左腎は部分切除,右腎は凍結療法となった。単純CTではわかりにくかったため,リピオドールマーキングを行って治療を施行した(図4)。治療3か月後の経過観察では,部分切除部は瘢痕化,凍結部は腫瘍濃染が消失し,収縮性変化が認められた(図5)。

図4 症例2:両側腎癌,右腎に対する凍結療法(60歳代,男性)

図4 症例2:両側腎癌,右腎に対する凍結療法(60歳代,男性)

 

図5 症例2:治療3か月後CT

図5 症例2:治療3か月後CT

 

3.合併症
grade3以上では3.8%の症例に合併症が生じ,後腹膜膿瘍が4例,うち2例は結腸穿孔を伴った。grade2以下では,発熱(2例),疼痛,凍傷,気胸,下顎部褥瘡(各1例)が生じている。治療前後のeGFR変化率は,平均6.7±14.4%低下した。
症例3(80歳代,男性)は,腫瘍径3.8cmのclear cell RCCで,糖尿病,慢性腎不全,陳旧性心筋梗塞があり,抗凝固薬3剤服用の手術ハイリスク症例のため凍結療法を施行した。ニードル4本にて治療を行ったが,傷の治りが悪く膿瘍が生じたため,ドレナージと抗菌薬で治療を行っている(図6)。

図6 症例3:合併症 膿瘍(80歳代,男性)

図6 症例3:合併症 膿瘍(80歳代,男性)

 

症例4(70歳代,男性)は,左腎外側の腫瘍が下行結腸に近接していたため,hydrodissection(造影剤を混合した生理食塩水を注入し,結腸-腎臓間の距離を空ける)の上で凍結を行った。しかし,生理食塩水の吸収が早く,結腸も凍結され穿孔が生じた。治療1か月後に左背部に腫瘤を自覚し,膿瘍を造影したところ結腸内腔も造影され,瘻孔部が認められた。その後,改善しなかったため大腸部分切除となった。
このほか,穿刺経路播種も経験し,反省点として記憶にとどめている。合併症は頻度は低いものの重篤となることもあるため,十分に注意が必要である。

凍結療法の将来展望

凍結治療は現在,腎癌骨転移,前立腺癌,副腎腺腫,乳癌,肝癌,肺癌,子宮筋腫など他疾患への適応拡大が検討されている。前立腺癌については,focal therapyで凍結療法を試みる施設が世界的に増えている。focal therapyでは,超音波ガイド下に穿刺を行い,アイスボールが明瞭な低信号となるMRIで確認を行う検討が報告されている。前立腺癌における凍結療法の位置づけについては,いまだ研究段階ではあるが,このような局所療法は今後進歩していくと考えられる。

●参考文献
1)Georgiades, C.S., et al., Cardiovasc. Intervent. Radiol., 37・6, 1494〜1499, 2014.
2)MRIガイドによる小径腎癌に対する経皮的凍結療法のガイドライン(初版). 日本低温医学会,2009.
3)Colombo, J.R. Jr., et al., Urology, 71・6, 1149〜1154, 2008.
4)Zini, L., et al., Cancer, 115・7, 1465〜1474, 2009.
5)Ting, F., et al., Minim. Invasive Surg., 671267, 2015(Epub).
6)Park, H., et al., Korean J. Urol., 51・7, 467〜471, 2010.

 

浅山 良樹(Asayama Yoshiki)
1994年 九州大学医学部卒業。1998年 同大学大学院形態機能病理学。2005年 同臨床放射線科学助手。2006年 アイオワ大学放射線科visiting assistant professor。2010年 九州大学病院助教講師。2014年 同講師。2016年より同大学院医学研究院先進画像診断・低侵襲治療学共同研究部門教授。

 

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