セミナーレポート(富士フイルムメディカル)

日本超音波医学会第88回学術集会など4つの学会・研究会の共催によるUltrasonic Week 2015が5月22日(金)〜24日(日)の3日間,グランドプリンスホテル新高輪(東京都港区)にて開催された。23日(土)に開催された日立アロカメディカル株式会社共催のランチョンセミナー10では,昭和大学病院乳腺外科准教授の明石定子氏を座長に,刈谷豊田総合病院放射線技術科副部長の桑山真紀氏と静岡県立静岡がんセンター生理検査科部長・乳腺画像診断科部長の植松孝悦氏が,「マルチモダリティを活用した乳腺画像診断」をテーマに講演した。

2015年9月号

Ultrasonic Week 2015 ランチョンセミナー10 マルチモダリティを活用した乳腺画像診断

乳腺画像診断におけるマルチモダリティ活用法

植松 孝悦(静岡県立静岡がんセンター生理検査科・乳腺画像診断科)

植松 孝悦(静岡県立静岡がんセンター生理検査科・乳腺画像診断科)

本講演では,乳腺画像診断の目的について再確認した上で,乳がん診断の感度向上をめざしたマルチモダリティの活用法について,また,造影超音波検査に期待される役割について述べる。

乳腺画像診断の目的

乳腺画像診断においてマンモグラフィ(MMG)は最も基本となるモダリティであり,石灰化病変に対する感度は全モダリティの中で最も高く,唯一,死亡率減少効果のエビデンスを有する。一方,課題として,被ばくや,質的診断(特に囊胞の確定診断)が困難,偽陽性(乳腺の重なりによる),偽陰性(dense breastにおける非石灰化病変の評価が困難),過剰診断(淡い石灰化の生検に由来するlow grade DCIS)がある。
こうした課題を補うモダリティとして,超音波(US),MRI,CT,FDG-PET,エラストグラフィ,トモシンセシス,造影US,US画像と他モダリティ画像の同期システム〔日立アロカメディカル社の“Real-time Virtual Sonography(RVS)”〕などが用いられている。

乳がん診断の感度向上をめざしたマルチモダリティの活用法

MMGの感度は乳腺濃度に大きく左右されることから,dense breastに対してどのようなモダリティを用いるべきかが,いま非常に注目されている。追加モダリティとしては,トモシンセシス,US,MRIが最も現実的と思われる。

1.MMG+トモシンセシス
トモシンセシス(3D)は,特に構築の乱れや腫瘤辺縁の評価に優れており,欧米ではトモシンセシスを用いたMMG検診が試験的に行われ,従来の2D MMGに比して乳がん発見率の向上や,偽陽性の減少効果が報告されている。一方,課題として,読影時間の延長とコストの増加,ボリュームデータの保管,2D+3Dの撮影による二重被ばくが挙げられるが,ホロジック社製の「Selenia Dimensions」では,トモシンセシス画像から擬似的な2D画像を作製する技術“C-View”(オプション)により二重被ばくの課題を解決している。

2.MMG+US
MMGにUSを追加することでdense breastにおける感度向上を図り,嚢胞と局所的非対称性陰影(FAD)の鑑別も可能なため,要精検率も低減すると考えられる。日本では現在,最初にMMGで検査を行い,診断困難な高濃度領域の病変をUSで拾い上げるという総合判定により,感度と特異度の向上を図ろうとしている(図1)。例えば,症例1は,dense breastのためMMGで悪性所見は認められないが,USでは境界明瞭粗造で前方境界線断裂が疑われる腫瘤が認められてカテゴリー4となり,要精検となる(図2)。また,症例2は,MMGにてFADが認められたが,USにて正常乳腺と判定できる(図3)。
東野らが,上記の方法にて検診を行い,レトロスペクティブに解析したところ1),US併用検診ではMMGのみの要精検率が低減し,陽性適中率はMMGのみ,およびMMG+USのいずれも向上しており,総合判定を行うことで,感度を下げることなく特異度を向上できることが期待される。

図1 MMGとUSによる総合判定における考え方

図1 MMGとUSによる総合判定における考え方

 

図2 症例1:MMGで悪性所見がなく,US単独の所見が認められた症例

図2 症例1:MMGで悪性所見がなく,US単独の所見が認められた症例

 

図3 症例2:MMGでFADが認められたが,USにて正常乳腺と判定された症例

図3 症例2:MMGでFADが認められたが,USにて正常乳腺と判定された症例

 

3.MMG+MRI
MRIは乳腺画像診断に必須のモダリティであり,特に造影MRIは乳腺濃度に依存しないため感度が非常に高く,浸潤癌であればほぼ100%検出可能である。一方,課題として,高コストであることや長い検査時間,日本ではMRIガイド下バイオプシーが保険適用されておらず普及していないことなどが挙げられる。
これらのうち,検査時間についてはKuhlらが,ハイリスク群以外の乳がん検診に乳房MRIを用いる可能性について,非常に省略したプロトコールでの結果を示し,世界に衝撃を与えている2)。具体的には,単純と造影早期相のみを3分で撮像し,作成したMIP画像のみを見て病変を拾い上げるというもので,読影時間は3秒,なおかつ病変を認め,元画像を見直しても30秒以内で診断可能なことに加え,1000人あたり約18人のMMGとUSで発見できなかった乳がんを検出できており,通常行われるMRIのプロトコールと遜色のない結果が得られたとしている。米国では本法による大規模スタディが始まろうとしており,これが実現可能となれば,コスト面での課題は残るものの,最強の乳がん検診モダリティになると思われる。
ただし,乳房MRIは特異度が低いため,MRIでしか検出できない病変(suspicious lesions identified on MRI alone)への対応が問題となる。そこで,MRI-detected lesionに対してsecond look USを施行するが,それでも描出できない病変にRVSを用いることでMRI-detected lesionの多くが描出可能となることが,近年,複数報告されている。

4.RVSガイド下吸引式乳房組織生検(VAB)の有用性
症例3(図4)は,Bモードのみでは検出できない病変であるが,RVSにてMR画像と同期させることで描出可能である。RVSガイド下VABを行い,病理の結果はlow grade DCISであった。
当院のMRIでしか検出できない病変を持つ24症例に対して日立アロカメディカル社製の「HI VISION Ascendus」「ARIETTA 70」を用いてRVSガイド下VABを施行した結果,7症例(29%)でがんが検出された。これは,これまで報告されているMRIガイド下生検の成績と同等である。また,当院のMRI detected lesions74症例(50症例はsecond look USで描出可能,24症例はRVSガイド下VAB施行)は,MRIガイド下VABを使用することなく,USガイド下VABのみで病理診断された。RVSガイド下VABの手技時間は平均25分であり,合併症も認めなかった。これらより,RVSはMRI-detected lesionのUSによる描出能(感度)を向上できる重要なモダリティと言える3)
現在,MRI-detected lesionの検出におけるRVSなどの有用性を確認する多施設共同前向きコホート研究が進められており4),その結果が期待される。

図4 症例3:MR画像を用いたRVSガイド下USにてDCISを認めた症例

図4 症例3:MR画像を用いたRVSガイド下USにてDCISを認めた症例

 

造影USに期待される役割

ソナゾイドを用いた造影USに期待される役割として,1つ目にUSガイド下VABの施行部位の血流情報の獲得がある。血流の多い組織は,がん細胞のKi-67の値が低いというデータがあり,blood flow-metabolism mismatchと言われているが,これは化学療法前にコアニードル生検を行った場所が悪いことが原因である可能性が考えられる。造影USではその部位の血流をリアルタイムに確認できるため,当院では現在検討を行っている。
2つ目に,術前化学療法の早期効果判定・効果予測がある。ソナゾイドは血管外の間質に漏出することのない真の血流イメージが得られ,特に血管新生阻害剤などの薬物効果判定に非常に有用である。そのため,new biomarker modalityとして用いるべきと考えている。
症例4は,トリプルネガティブの充実腺管癌であるが,造影MRIでは組織および血流情報は不均一であるが(図5 a),ソナゾイド造影USでは約2cmの不整形腫瘤と前方境界線断裂が認められ,一部に強い染まりが見られた(図5 b)。このような情報を基にもっと科学的に生検を行えば,治療効果における新しい知見が生まれてくると思われる。また,USガイド下VABの施行部位の血流情報を見ると,Ki-67は血流の少ないところで50%,多いところで78%とblood flow-metabolism mismatchを呈していないことが判明した(図6)。

図5 症例4:ソナゾイド造影USにより腫瘍内部に不均一な血流情報を認めた症例

図5 症例4:ソナゾイド造影USにより腫瘍内部に不均一な血流情報を認めた症例

 

図6 症例4:ソナゾイド造影USによるUSガイド下VAB施行部位の血流情報

図6 症例4:ソナゾイド造影USによるUSガイド下VAB施行部位の血流情報

 

まとめ

乳腺画像診断は,マルチモダリティを用いて総合的かつ横断的におのおののモダリティを補完して診断することが重要である。しかし,医療コストや検査(予約)時間も考慮して,真に必要な検査を追加することが大切である。
また,近年,乳がん画像診断の新モダリティが短期間に次々と臨床現場に登場してきているが,それらを系統立てて効率良く使いこなしていくことが求められる。

●参考文献
1)Tohno, E., et al. : Effect of adding screening ultrasonography to screening mammography on patient recall and cancer detection rates ; A retrospective study in Japan. Eur. J. Radiol., 82・8, 1227〜1230, 2013.
2)Kuhl, C. K., et al. : Abbreviated breast magnetic resonance imaging(MRI); First postcontrast subtracted images and maximum-intensity projection-a novel approach to breast cancer screening with MRI. J. Clin. Oncol., 32・22, 2304〜2310, 2014.
3)Uematsu, T., et al. : Real-time virtual sonography examination and biopsy for suspicious breast lesions identified on MRI alone. Eur. Radiol., 2015(Epub ahead of print).
4)乳房MRI-detected lesion(MRI偶発造影病変)検出における超音波fusion技術(Real-time virtual sonography / Volume navigation)の有用性の確認(多施設共同前向きコホート研究).
https://upload.umin.ac.jp/cgi-open-bin/ctr/ctr.cgi?function=brows&action=brows&type=summary&language=J&recptno=R000017394

 

植松 孝悦(Uematsu Takayoshi)
1992年 新潟大学医学部医学科卒業。同医学部附属病院放射線科,新潟県立がんセンタ-新潟病院放射線科,静岡県立静岡がんセンター生理検査科を経て,2013年〜同科部長。2014年〜乳腺画像診断科部長併任。日本乳癌学会理事。日本医学放射線学会教育委員会委員。

 

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