技術解説(キヤノンメディカルシステムズ)

2024年6月号

Dual Energy CTの進化と深化

新生Area Detector CTによる「Spectral Imaging System」の進化

千葉 雄高[キヤノンメディカルシステムズ(株)国内営業本部 CT営業部]

dual energy CTは形態評価のみならず,ヨード強調表示や電子密度,実効原子番号などの定量値を用いた鑑別診断などの新たな診断価値を見いだせる技術として臨床応用が進んでいる。当社は2019年にディープラーニング技術を応用した「Spectral Imaging System」を開発し,virtual monochromatic image(VMI)を用いたヨード検出能向上や造影剤低減,ヨードマップによる肺塞栓症の灌流評価,骨抑制画像による骨髄浮腫や出血評価などに活用されている。dual energy技術の共通課題として,エネルギーごとのフォトンカウントを担保させることが重要である。Spectral Imaging Systemでは,ディープラーニングを応用した画像再構成を用いることで,エネルギーごとに全ビューのデータを最大限活用し,画質向上を図っている。本稿では,ハードウエアを一新したArea Detector CT「Aquilion ONE / INSIGHT Edition」におけるSpectral Imaging System,および新たに加わった解析ワークステーションの特長について述べる。

Spectral Imaging Systemについて

Spectral Imaging Systemは,ディープラーニングを応用したdual energy CTの技術で,「Spectral Scan」と「Spectral Reconstruction」から構成される(図1)
Spectral Scanとは,異なる2種の管電圧を高速で切り替えながら撮影するrapid kV switching方式(図2)を採用し,自動照射制御機構(auto exposure control:AEC)の併用が可能な撮影法である。また,1回転で最大160mmを撮影できるSpectral Volume Scanと,広範囲を連続撮影可能なSpectral Helical Scanがあり,部位に応じて適切な撮影モードを選択することができる。
Spectral Reconstructionは,ディープラーニングを用いて設計された画像再構成法であり,Spectral Scanによって収集された投影データすべてを活用し,dual energy解析に必要な基準物質画像を作成する。さらに,ディープラーニングを用いて設計した画像再構成技術「Advanced intelligent Clear-IQ Engine(AiCE)」で培った技術を応用し,さまざまなノイズ量の投影データを学習することで,高いノイズ低減効果も得られる。
臨床現場では,高画質と低被ばくの両立が重要となるが,Spectral Imaging Systemでは,rapid kV switchingとAECを併用することができ,撮影部位に合わせた適切な線量での撮影が可能となる。図3では,Spectral Reconstructionにより,single energyと比較して同程度の線量で同等の画質を得られていることが確認できる。

図1 Spectral Imaging System概要図

図1 Spectral Imaging System概要図

 

図2 Rapid kV switching方式

図2 Rapid kV switching方式

 

図3 Single energy(AiCE)とSpectral Imaging Systemの画像比較 (画像ご提供:国立がん研究センター中央病院様)

図3 Single energy(AiCE)とSpectral Imaging Systemの画像比較
(画像ご提供:国立がん研究センター中央病院様)

 

新たなArea Detector CT Aquilion ONE / INSIGHT Editionの開発

Spectral Imaging Systemは,single energyと同様に,低線量撮影や大柄な患者,腕下ろしでの撮影のようなケースにおいて,カウント不足へのさらなる対策が必要となる。特に,低管電圧で出力されるX線は,被写体透過後に検出器に到達できるフォトンの量が少なくなるため,カウント不足による画質低下の影響を受けやすい。このような課題解決のために,新型検出器と新型X線管によるX線光学技術「PUREINSIGHT Optics」を開発し,新たなフラッグシップArea Detector CT Aquilion ONE / INSIGHT Edition(図4)に搭載した。

図4 Aquilion ONE / INSIGHT Edition装置外観

図4 Aquilion ONE / INSIGHT Edition装置外観

 

新X線光学技術PUREINSIGHT Opticsの搭載

Spectral Scanでは,高・低の2種の管電圧で線量のバランスを担保することが重要である。PUREINSIGHT Opticsは,CTで重要なキーコンポーネントとなるX線管と検出器を一新し,線量の確保と低カウント領域のノイズ低減により,質の高い検査の提供が可能となる。

1.新型X線管「CoolNovus」
X線管の動作原理として,陰極(フィラメント)から放出された熱電子が,陰極・陽極間の電位差により加速・集束されて陽極(ターゲット)に衝突し,X線が発生する。電子線が当たるターゲットは2000℃以上に上昇し,CTに搭載されるX線管は陽極を回転させることで熱を分散させている。このように,回転陽極X線管は,熱を分散させることで管電流を増やすことができるが,CTの場合,X線管自体も回転するため強い軸保持設計が要求される。CoolNovusは,従来のボールベアリングから液体金属軸受を採用することで,ターゲット回転速度を従来と比較して約40%向上させた。さらに,独自の高エミッション電子銃により,70kVの適用および1400mAという大出力を実現している。また,高速回転下でも安定したパフォーマンスを発揮する耐G性能も強化している(図5)。CoolNovusにより,大きな被写体を撮影する場合やSpectral Scanにおいても線量担保につながり,体格,体位を選ばない検査を提供できると期待される。

図5 CoolNovus要素技術

図5 CoolNovus要素技術

 

2.新型検出器「PUREINSIGHT Detector」
検出器,data acquisition system(DAS)は,熱や暗電流などの影響により,X線入射がない場合においても電気系ノイズとして信号出力されることがある。画像ノイズはフォトンノイズとこのような電気系ノイズの影響を受けており,十分な線量が確保できる状況ではフォトンノイズが支配的なため電気系ノイズはほぼ無視できるが,大きな被写体を撮影する場合や低線量で撮影する場合は検出器に到達するフォトンが少なく,相対的に電気系ノイズが支配的となり(図6),画像ノイズの増加やアーチファクト発生の原因となる。PUREINSIGHT Detectorは,電気系ノイズを従来システムよりも40%低減し,低カウント領域における画像SD改善,すなわち低線量撮影時のさらなる画質向上に寄与する。Spectral Scanにおいても,線量低減を行う場合や大きな被写体を撮影した場合に発生するノイズの低減,画質改善にも期待できる。
Aquilion ONE / INSIGHT Editionでは,薄いスライス厚でもフォトン不足になりがちな低keV画像でのノイズ増加が抑えられていることが確認でき(図7),Spectral Scanがより臨床活用しやすくなると考える。

図6 線量と電気系ノイズの関係 低線量(低カウント)になるほど電気系ノイズが支配的となる。

図6 線量と電気系ノイズの関係
低線量(低カウント)になるほど電気系ノイズが支配的となる。

 

図7 Aquilion ONE / INSIGHT Editionにおける70keVと50keVの画像比較 (画像ご提供:甲南医療センター様)

図7 Aquilion ONE / INSIGHT Editionにおける70keVと50keVの画像比較
(画像ご提供:甲南医療センター様)

 

解析ワークフロー「Spectral Analysis」

dual energyの臨床応用として,頭部血栓回収術後の出血とヨードの鑑別や,肺塞栓症の灌流評価など,ヨード成分を強調または抑制表示する活用が報告されている。一方,カルシウム(Ca)成分を抑制表示するVirtual Non Ca(VNCa)を活用した骨抑制画像は,骨内に生じる骨髄浮腫や血腫の検出が可能となり1),脊椎圧迫骨折の新鮮出血の評価などにも用いられている。Aquilion ONE / INSIGHT Editionでは,5種類の異なるkeVのVMI画像をスキャン連動で作成でき,仮想単純画像や骨抑制画像も同時に作成することが可能である。プロトコールに組み込むことで,各種画像の任意の断面を自動転送設定ができ,臨床においてもワークフローを阻害することなく使用できる。
医用画像処理ワークステーション「Vitrea」では,電子密度画像や実効原子番号画像の作成,ヒストグラムなどの詳細な解析を自由に行うことができる。また,医用画像処理ワークステーション「AZE Virtual Place」の最新バージョンにおいても,Vitrea同様にSpectral Analysisが可能となった(図8)。脊椎圧迫骨折の評価には,single energy相当のVMI画像に加え,VNCa画像も求められるが,患者年齢や骨密度などに合わせた解析パラメータの最適化が必要となる。AZE Virtual Placeでは,material decomposition解析におけるパラメータ変更の結果が表示断面に対してリアルタイムに反映され,視覚的な調整が可能となり,病変が最も描出される最適な骨抑制画像を容易に作成できる(図9)
近年,次世代CTとしてフォトンカウンティングCTの開発が進んでいる。当社はこれまで実現してきたArea Detector CTや高精細CT,ディープラーニング技術,Spectral Imaging Systemの技術を生かしたユニークな装置開発および製品化を進めている。国内外の共同研究施設からは,複数の学会発表や研究報告がなされており,高いノイズ低減効果,高い空間分解能のほか,物質弁別精度においてはdual energyで課題であったヨードと骨のような近いX線減弱特性を示す物質の弁別も高精度で解析できていることが示されている。当社はこれまでのCT開発における高精細,低被ばく技術を踏襲し,フォトンカウンティングCTの臨床価値を創出すべく,引き続き製品化に向けた開発を行う。

図8 AZE Virtual PlaceにおけるSpectral Analysis画面 (画像ご提供:甲南医療センター様)

図8 AZE Virtual PlaceにおけるSpectral Analysis画面
(画像ご提供:甲南医療センター様)

 

図9 Material decomposition解析におけるリアルタイム調整 (画像ご提供:甲南医療センター様)

図9 Material decomposition解析におけるリアルタイム調整
(画像ご提供:甲南医療センター様)

 

*設計の段階でAI技術を使用しており,本システムは自己学習機能を有しておりません。

●参考文献
1)Diekhoff, T., Engelhard, N., Hermann, K.G.A., et al. : Single-source dual-energy computed tomography for the assessment of bone marrow oedema in vertebral compression fractures :
A prospective diagnostic accuracy study. Eur. Radiol., 29(1): 31-39, 2019.

一般的名称:全身用X線CT診断装置
販売名:CTスキャナ Aquilion ONE TSX-306A
認証番号:301ADBZX00028000

一般的名称:全身用X線CT診断装置
販売名:CTスキャナ Aquilion ONE TSX-308A
認証番号:305ACBZX00005000

一般的名称:汎用画像診断装置ワークステーション
販売名:医用画像処理ワークステーション Vitrea VWS-001SA
認証番号:224ACBZX00045000

一般的名称:汎用画像診断装置ワークステーションプログラム
販売名:AZE バーチャルプレイス AVP-001A
認証番号:22000BZX00379000

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