技術解説(キヤノンメディカルシステムズ)
2023年3月号
Cardiac Imaging 2023 CT技術のCutting edge
循環器領域におけるディープラーニングを応用した最新技術の可能性
中島 沙記[キヤノンメディカルシステムズ(株)国内営業本部CT営業部]
心臓CT検査は,64列CT装置が登場して以降,虚血性心疾患の診断ツールとして広く臨床現場に普及しており,冠動脈疾患の存在と重症度診断における有用性が示されている1)。当社は2007年,当時最多列であった64列CT装置の5倍の撮影幅を有する320列Area Detector CT(ADCT)「Aquilion ONE」を開発した。Aquilion ONEにより,寝台移動することなく「1心拍」「1回転」で心臓全体の撮影が可能となった。本稿では,Aquilion ONEの最新モデルである「Aquilion ONE / PRISM Edition」に搭載されているディープラーニングを応用した最新CTの循環器領域における有用性について述べる。
■新たなdual energy技術「Spectral Imaging System」
Spectral Imaging Systemは,「Spectral Scan」と「Spectral Reconstruction」から構成される。また,医用画像処理ワークステーション「Vitrea」のソフトウエアである「Spectral Analysis」にて,さまざまな解析が可能である。
1.1回転で心臓全体のdual energy撮影が可能なSpectral Scan
Spectral Scanは,rapid kV switchingと自動照射制御(auto exposure control:AEC)の連動が可能であり,高低2種類の管電圧(dual energy)で撮影したデータを,ほぼ同時相かつ対象部位に適した線量で収集できる。「Spectral Volume Scan」は,1回転で160mmの幅をdual energy撮影することができ,心電図同期撮影にも対応している。図1は,心電図同期下で冠動脈を1心拍で撮影した画像である。CTDIvol 6.0mGyの線量で,冠動脈内腔がブレなく明瞭に描出できている。
2.金属アーチファクト低減技術とも併用可能なSpectral Reconstruction
Spectral Reconstructionは,ディープラーニングを用いて設計された画像再構成法である。Spectral Scanによって得られたすべての投影データを活用し,物質情報に基づく基準物質画像を作成することができる。また,金属アーチファクト低減技術の「Single Energy Metal Artifact Reduction(SEMAR)」との併用も可能である。
図2は,心室頻拍の患者において,不整脈発生起源の評価目的で遅延造影撮影した画像である。SEMARを併用することにより,リードからのアーチファクトが低減され,右室接合部に近接する遅延造影を確認することができている(図2 →)。
3.高速ワークフローと診断への付加情報を提供するSpectral Analysis
Spectral Analysisは,Spectral Reconstructionから得られた基準物質画像を用いて解析するソフトウエアで,医用画像処理ワークステーションVitreaに搭載されている。仮想単色X線画像などの作成や物質弁別など,検査目的に応じた画像作成,解析,測定が可能である。スキャンと連動してVitreaへ画像を転送し,プリセットしたレイアウトで解析結果を表示することができ,高速ワークフローと併せて従来の診断画像にさらなる付加情報を提供する。
仮想単色X線画像は,35〜200keVまでの画像を作成することができる。低エネルギーの画像では造影剤濃度強調による視認性の向上,高エネルギーの画像ではステントや石灰化などによるビームハードニングアーチファクトの低減効果が期待できる。図3は,3.5mm径ステント挿入後の冠動脈画像であるが, 100keVなどの高エネルギー画像ではステントのビームハードニングアーチファクトが低減され,内腔の視認性が向上している。また,Spectral HUカーブのグラフから,冠動脈の石灰化やヨード,プラークのX線減弱特性を半定量的に確認することができる。図4は,冠動脈プラーク性状評価と遅延相による心筋虚血評価を目的に,Spectral Scanを撮影し,解析した画像である。Spectral HUカーブで解析した結果,脂質性プラークの特性を表しており,MRAのhigh intensity plaqueの所見とも一致していた。
■超解像画像再構成技術「Precise IQ Engine(PIQE)」
PIQEはディープラーニングを応用し,超解像処理を行う新たな画像再構成法である。PIQEにより,ADCTが持つ空間分解能を,従来の再構成法よりもさらに引き出すことができる。ディープラーニングを用いたPIQEの画像再構成アルゴリズムの構築においては,高精細CT「Aquilion Precision」のSHR(アイソセンタで0.25mm)のデータを教師データとして活用している。入力データには,SHRデータから従来の解像度(アイソセンタで0.5mm)相当となるNRデータを高精度なシミュレーション2)で生成し,かつさまざまなノイズパターンを付加したデータを用いている。これら教師データと入力データにより,超解像効果およびノイズ低減効果をdeep convolutional neural network(DCNN)に学習させている。学習されたDCNNを用い,ADCTで収集されたデータを再構成することで,従来よりも高精細な160mmボリューム画像の取得が可能となる。図5は2.5mm径のステントが留置された症例で,PIQEではブルーミングアーチファクトが低減され,ステント内腔を明瞭に描出できている。図6は心筋梗塞症例で,PIQEでは左室や右室の境界,心筋内の腱索,弁の形態が明瞭に描出できており,粒状性や心内腔のCT値の均一性が向上している。PIQEは冠動脈の高分解能化のみならず,心筋や弁の視認性向上にも期待できる。
◎
本稿では,Aquilion ONE / PRISM Editionに搭載されたディープラーニングを応用した最新技術であるSpectral Imaging SystemとPIQEの循環器領域における可能性を紹介した。本技術が日常診療に役立てば幸いである。
●参考文献
1)Miller, J.M., et al. : Diagnostic Performance of Coronary Angiography by 64-Row CT. N. Engl. J. Med., 359(22): 2324-2336, 2008.
2)Hernandez, A.M., et al. : Validation of synthesized normal-resolution image data generated from high-resolution acquisitions on a commercial CT scanner. Med. Phys., 47(10): 4775-4785, 2020.
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