技術解説(キヤノンメディカルシステムズ)

2021年5月号

循環器領域におけるMRIの技術の到達点

心臓MRIの“新標準”をめざした最新技術の紹介

飛岡佑太朗[キヤノンメディカルシステムズ(株)MRI営業部アプリケーション担当]

心臓MRIは心臓の形態・機能,そして心筋組織の性状など,さまざまな情報を得られるモダリティであり,検査数は年々増加している。今日,世界的に猛威を振るっている新型コロナウイルス感染症(以下,COVID-19)であるが,COVID-19から回復後の患者に対し心臓MRIを実施したところ,78%に心筋症の所見が認められたとの報告1)がある。今後,「アフターCOVID-19」の時代において,さらに心臓MRIの検査ニーズの高まりによる検査数の増大が懸念され,より多くの検査を限られた時間内で行わなければならないため,検査時間の短縮化が課題となる。心臓MRIは,手技や解析方法が煩雑であり,検査時間が長く,検査枠を圧迫するといった問題が残されている。
本稿では,上述した課題を解決し,従来の心臓MRIへのイメージを一新する当社の最新技術について紹介する。

■‌“Advanced intelligent Clear-IQ Engine(AiCE)”による新標準の高画質

キヤノンメディカルシステムズでは,人工知能(AI)を用いた再構成技術であるAdvanced intelligent Clear–IQ Engine(以下,AiCE)をいち早く臨床で実用化し,現在多くの施設で使用されている。AiCEは,ディープラーニングを用いて低SNRの入力画像からノイズを除去し,高SNR画像として出力するSNR向上技術であり,あらかじめ高周波成分であるノイズのみを学習することで,ほぼすべてのシーケンスへ適用が可能である。循環器領域においてはシネMRIをはじめ,MR coronary angiography(以下,MRCA),遅延造影(late gadolinium enhancement:LGE)などの高画質・高分解能化を目的に活用されている。図1に,シネMRIおよびMRCAへのAiCE適用画像(a)とLGEのAiCE適用画像(b)を示す。
従来,MRCAの形態評価は冠動脈CTAに及ばないとされていたが,MRCAにAiCEを適用することによりSNRの高い高分解能の画像が得られ,より詳細な形態評価が期待できる。LGEでは,AiCEを適用することにより高画質・高分解能の画像が得られるため,病変部の視認性が向上する。症例によっては,淡い造影効果で判別が難しい場合など,ノイズ低減によって造影部分を鮮明に描出することができるため,診断能向上が期待される。

図1 心臓MRIにAiCEを適用した画像 a:シネMRI,MRCAへのAiCE適用例(ボランティア画像) b:下壁心筋梗塞症例におけるLGEのAiCE適用例(画像ご提供:杏林大学医学部付属病院様)

図1 心臓MRIにAiCEを適用した画像
a:シネMRI,MRCAへのAiCE適用例(ボランティア画像)
b:下壁心筋梗塞症例におけるLGEのAiCE適用例(画像ご提供:杏林大学医学部付属病院様)

 

■‌独自の高速化技術による撮像時間の新標準

1.k-t SPEEDER
“k-t SPEEDER”は,時系列を対象としたパラレルイメージング法であり,低周波成分は弱い折り返し信号を含んだデータから直接コイルの感度を推定し,高周波成分は低周波成分の情報よりコイル感度を推定することで,トレーニングスキャンレスでの信号収集が可能となり,最大8倍の高倍速率を実現している。k-t SPEEDERはこの高倍速率を生かして,シネMRIを自由呼吸下で撮像が可能であり,息止めが難しい高齢者や小児の負担軽減が可能である。
また,AiCEと組み合わせて使用することで,さらに撮像の時間短縮・高画質化が可能で,不整脈の影響や心拍変動による画質劣化のリスク低減が期待できる。

2.Fast 3D mode
MRCAの撮像は,横隔膜同期を用いた自由呼吸下での撮像が行われるため,被検者の呼吸状態によっては撮像時間が延長し,画質が低下するケースが多くある。診断に適した画像を得るために再撮像を行えば,検査時間のさらなる延長が生じ,患者負担が大きくなり,検査効率も低下する。
“Fast 3D mode”は,k-spaceの充填方法を工夫して撮像時間を短縮する当社独自の3D高速化技術である。Fast 3D modeを用いたMRCA撮像は,撮像時間を従来の約半分に短縮でき,冠動脈描出能についても従来法と比較して大きな劣化は見られない。さらに,AiCEと組み合わせることで,高速化に伴って増加したノイズを除去することができ,短時間撮像と高画質の両立が実現可能である。図2に,従来法とFast 3D mode+AiCEを適用した画像を示す。

図2 従来法とFast 3D mode+AiCEの適用例の比較

図2 従来法とFast 3D mode+AiCEの適用例の比較

 

■‌左右心室の同時プラン・同時解析の新標準ワークフロー

1.CardioLine+
心臓MRIの適応は近年広がっており,structural heart disease(SHD)や右心系疾患などに対しても施行され,検査目的の多様化により撮像断面設定も複雑化している。従来は,心臓の断面設定には複数の位置決め画像を駆使して設定を行うため,必要な断面が多いほど本撮像までの撮像回数が多くなり,検査時間も延長していた。
“CardioLine+”は,断面設定をアシストする機能で,1回の撮像で得られた画像から右室・弁を含む14断面を自動検出することで,位置決めにかかる時間を短縮する。これにより,操作者の技量による依存が少なく,高い再現性の下に断面設定が可能である。経験の浅い操作者が検査しても検査時間の延長を軽減できるメリットがあり,検査時間を約35%改善可能なアプリケーションである。

2.心筋ストレイン解析
これまで,心エコーによる心筋ストレイン解析が盛んに行われてきたが,患者依存や操作者依存によって,特に右室自由壁の描出・評価が困難なケースがあり,解析の精度や再現性にバラツキが生じる問題があった。また,操作者の習熟度によって解析の結果に差が生じるという報告2)もある。一方,MRIを用いたストレイン解析では,シネMRIから解析が可能で,右室自由壁を死角なく評価可能であり,患者依存による画質のバラツキも少ない。
当社の医用画像解析処理ワークステーション「Vitrea」は,2020年の機能アップグレードで,ストレイン解析の対象が右室および心房へも拡張され,“MR Multi Chamber Wall Motion Tracking(以下,MC-WMT)”として,より多くの症例への適応が期待される。右室の解析は従来,手動トレースで行っており,手技が煩雑で手間と時間がかかったが,高精度の自動描出が可能になり,それらも大幅に低減される。
左右心房の解析では,左心房のストレインが左室駆出率の保たれた心不全(HFpEF)の病態把握に役立つ3),右心房の容量解析が肺高血圧症において右心室同様に有用である4)など,今後多くの疾患での病態解明が期待される。
前述のCardioLine+による断面の自動検出と,MC-WMTの自動描出を組み合わせることで,患者依存・操作者のプランニングによる断面のバラツキや解析精度のバラツキを軽減できる。この新標準のワークフローにより,簡便に高い再現性・精度かつ素早く左右心室の同時解析が可能になった(図3)。

図3 VitreaでのMC-WMT LV/RVのストレイン解析例

図3 VitreaでのMC-WMT LV/RVのストレイン解析例

 

本稿では,当社の心臓MRIにおける,高画質化技術であるAiCEの臨床活用,高速化技術であるk-t SPEEDERとFast 3D mode,右室・心房とストレイン解析の適応が広がったMC-WMTについて紹介した。これらの技術によって検査を受ける患者,検査・解析を行う技師,診断を行う医師らの負担を軽減し,心臓MRIの普及と検査・診断の一助になれば幸いである。

*当社実測値

●参考文献
1)Puntmann, V.O., et al. : Outcomes of Cardiovascular Magnetic Resonance Imaging in Patients Recently Recovered From Coronavirus Disease 2019(COVID-19). JAMA Cardiol., 5(11): 1265-1273, 2020.
2)Negishi, T., et al. : Effect of Experience and Training on the Concordance and Precision of Strain Measurements. JACC Cardiovasc. Imaging, 10(5): 518-522, 2017.
3)Thomas, L., et al. : Left Atrial Structure and Function, and Left Ventricular Diastolic Dysfunction : JACC State-of-the-Art Review. J. Am. Coll. Cardiol., 73 : 1961-1977, 2019.
4)Sato, T., et al. : Right atrial volume and phasic function in pulmonary hypertension. Int. J. Cardiol., 168 : 420-426, 2013.

 

●問い合わせ先
キヤノンメディカルシステムズ(株)
広報室
TEL 0287-26-5100
https://jp.medical.canon/

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