技術解説(キヤノンメディカルシステムズ)

2021年4月号

循環器領域におけるCTの技術の到達点

新世代エリアディテクタCT「Aquilion ONE/PRISM Edition」の循環器領域における可能性

中島 沙記[キヤノンメディカルシステムズ(株)国内営業本部CT営業部]

「Aquilion ONE」は,16cmの幅を撮影できる320列面検出器(エリアディテクタ)を搭載しており,寝台移動することなく“1心拍”“1回転”で心臓全体の撮影が可能である。また,連続撮影することにより,形態情報だけでなく血流動態などの機能情報も可視化できる。
本稿では,新世代エリアディテクタCTとして,ディープラーニングを応用した画像再構成技術および新たなdual energy技術を搭載した「Aquilion ONE/PRISM Edition」の循環器領域における可能性について述べる。

■ ディープラーニングを用いて設計された再構成技術“AiCE”

Advanced intelligent Clear-IQ Engine(以下,AiCE)は,deep convolutional neural network(DCNN)を用いて,ノイズ成分とシグナル成分を識別する処理をCTの画像再構成に適用した技術である。低線量領域でも安定した画質が得られるため,低管電圧とAiCEを併用することにより,造影剤使用量と被ばくを抑えた撮影が可能となる。図1は,腎機能低下患者を経カテーテル的大動脈弁留置術(TAVI)術前評価目的で撮影した画像である。バリアブルピッチヘリカルスキャン(vHP)による広範囲短時間撮影(12s)と低管電圧(80kVp)を組み合わせて170mgI/kg(30mL)の少量造影剤で撮影し,さらにAiCEで画像再構成をすることにより,頸部〜大動脈を十分なCT値を保った状態で描出できている。
また,AiCEは,複数のGPUを用いることにより画像再構成の高速化を実現しており,ワークフローも改善している。

図1 ‌低管電圧(80kVp)撮影+AiCE使用例

図1 ‌低管電圧(80kVp)撮影+AiCE使用例
腎機能低下患者のTAVI術前評価。造影剤使用量30mL
(画像ご提供:熊本大学病院様)

 

■‌ 新たなdual energy技術 “Spectral Imaging System”

Spectral Imaging Systemは,“Spectral Scan”“Spectral Reconstruction”“Spectral Analysis”の3つの要素で構成される。

1.1回転で心臓のdual energy撮影が可能なSpectral Scan
Spectral Scanは,rapid kV Switchingと自動照射制御(auto exposure control:AEC)の連動が可能であり,低エネルギーと高エネルギーのデータを同時相かつ対象部位に最適な線量で収集できる。
Spectral Volume Scanは心電図同期に対応しており,1回転で心臓全体の撮影が可能である。図2は,心電図同期を用いて冠動脈を1心拍で撮影した画像である。CTDIvol 6mGy程度の被ばく線量で撮影できており,冠動脈内腔がブレなく明瞭に描出されている。図3の高体重症例(104kg,BMI30.4)においても,同様に冠動脈内腔が描出できている。このように,Spectral Scanはsingle energyと同様に,低線量や高体重症例に対応した心臓撮影が可能である。

図2 Spectral Volume Scanで撮影した1volume冠動脈CT画像(画像ご提供:藤田医科大学病院様)

図2 Spectral Volume Scanで撮影した1volume冠動脈CT画像
(画像ご提供:藤田医科大学病院様)

 

図3 Spectral Volume Scanで撮影した1volume冠動脈CT画像:高体重症例(104kg,BMI 30.4)

図3 Spectral Volume Scanで撮影した1volume冠動脈CT画像:高体重症例(104kg,BMI 30.4)

 

2.金属アーチファクト低減技術との併用も可能なSpectral Reconstruction
Spectral Reconstructionは,ディープラーニングを用いて設計された画像再構成法である。Spectral Scanで得られた全投影データを活用して基準物質画像を作成することができるため,高いエネルギー弁別能が得られる。また,金属アーチファクト低減技術の“Single Energy Metal Artifact Reduction(以下,SEMAR)”との併用が可能である。図4では,SEMARを併用することによりリードからのアーチファクトが低減され,冠動脈などの視認性が改善している。

図4 Spectral ReconstructionとSEMAR併用例

図4 Spectral ReconstructionとSEMAR併用例

 

3.Spectral Analysis
Spectral Analysisは,医用画像処理ワークステーション「Vitrea」に搭載される専用の解析ソフトウエアである。Spectral Scan(心電図同期条件での撮影も含む)で得られた基準物質画像から,仮想単色X線画像などの作成や物質弁別など,さまざまな解析が可能である。スキャンと連動して画像転送や解析結果を表示することができ,高速ワークフローと併せ,従来の診断画像にさらなる付加情報を提供する。
仮想単色X線画像では,さまざまなkeVの画像を作成することができ,低keV画像では造影剤濃度強調による視認性の向上,高keV画像ではステントや石灰化などによるビームハードニングアーチファクトの低減効果が期待できる(図5)。また,スペクトラルカーブを活用することで,冠動脈の石灰化やヨード,プラークのX線減弱特性を確認することが可能である(図6)。

図5 仮想単色X線画像例(画像ご提供:藤田医科大学病院様)

図5 仮想単色X線画像例
(画像ご提供:藤田医科大学病院様)

 

図6 スペクトラルカーブ活用例

図6 スペクトラルカーブ活用例

 

本稿では,Aquilion ONE/PRISM Editionに搭載されたAiCEとSpectral Imaging Systemの循環器領域における可能性を紹介した。これらの技術を活用することで,ワークフローの改善や診断の確信度向上に期待ができると考える。

 

●問い合わせ先
キヤノンメディカルシステムズ株式会社
広報室
TEL 0287-26-5100
https://jp.medical.canon

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