技術解説(キヤノンメディカルシステムズ)
2019年11月号
Cardiac Solution No.1[NM]
心筋SPECT検査における3検出器型ガンマカメラ「GCA-9300R」の特長
キヤノンメディカルシステムズ株式会社国内営業本部核医学営業部 高階 慶人
■はじめに
心臓および頭部のSPECT検査は,SPECT検査全体の約70%を占めている。これは,虚血性心疾患や脳血管障害,または認知症における診断と治療方針の決定において,SPECT検査の有用性が高いことが背景にある。
本稿では,心臓SPECT検査において卓越した画像を提供する3検出器型ガンマカメラ「GCA-9300R」の特長について,最新技術の紹介を交えて概説する(図1)。
■3検出器×LMEGPコリメータによって,すべての心筋SPECT検査で高画質を実現
360°分のデータを得るために,汎用2検出器型SPECT装置では検出器を180°回転させるのに対して,3検出器型SPECT装置では検出器を120°回転させるだけですむため,同じ収集時間では1.5倍の収集効率で高画質な画像が得られる(図2)。また,収集時間もしくは投与量を2/3に低減しても同等の画質を得ることができる。
コリメータにも大きな特長がある。標準装備である低中エネルギー汎用パラレルホールコリメータ(LMEGP)は,感度,位置分解能,ペネトレーションのバランスを取り,心筋SPECT検査に最適化している。
低エネルギー高分解能パラレルホールコリメータ(LEHR)と比較して約1.8倍の感度があるため,心電同期収集や99mTc製剤に比して投与量の少ない201Tl製剤でも,統計ノイズが少ない高画質な画像が得られる。
また,123I核種に見られる529keV由来の散乱線成分の混入を抑え,心縦隔比(H/M比)の定量性を改善する(図3)。
3検出器による収集効率向上と心臓SPECT検査に最適化したコリメータの組み合わせにより,高画質な画像を提供する。
■SSPAC法を用いた減弱アーチファクトの低減
心筋SPECT検査において,生体内での吸収・散乱の影響により,下壁・中隔領域のカウントが相対的に低下することが知られている。このカウント低下を補正するには,体内での減弱の影響を示す減弱マップが必要であり,最近ではCT画像を基に減弱マップを作成する方法が検討されている。しかし,数秒の短時間で撮影するCT画像と,長時間の自由呼吸下で撮像するSPECT画像では,臓器の位置関係がミスマッチになる課題がある。これは,同一寝台で撮像可能なSPECT/CT装置においても解消されていない1)。この問題を解決するために,Segmentation with Scatter and Photopeak window data for Attenuation Correction(SSPAC)法が前田らによって開発された2)。
SSPAC法は,被検者に投与された心筋血流製剤から放出されるガンマ線の情報を用いて減弱マップを作成する手法で,フォトピークウィンドウデータとコンプトン散乱領域のサブウィンドウのデータを利用して,SPECT画像から減弱マップを作成する。データ収集のエネルギーウィンドウ設定は,散乱線補正法(TEW法)と同じである(図4)。
SSPAC法による減弱マップ作成の流れを図5に示す。
最初にサブウィンドウ再構成画像から体輪郭および肺外縁の抽出を行い,モデル縦隔を伸長させ合成する。次に,フォトピークウィンドウ再構成画像から心筋および肝臓を抽出し,モデル胸椎とともに同様に合成する。最後に,部位ごとに得られた減弱係数の割り付け,SPECT位置分解能と同等の分解能となるようスムージングフィルタ処理を行うことで,各スライス面での減弱マップを得る。
一方,SSPAC法はCTを用いた手法で課題となる臓器のミスマッチを解消するが,被検者の体型や使用核種・収集条件によるカウント不足,再構成画像中の高カウント領域の影響,天板による減弱の影響などが原因となり,体輪郭抽出に失敗するケースも報告されている3)。
そこで,この問題を解決するためにアルゴリズムの改善を図った。今回,新たに追加された体輪郭補正機能を図6に示す。これにより,従来問題となっていた体輪郭の抽出が容易となり,SSPAC法による減弱マップ作成の成功率が大幅に向上した。
図7に,SPECT/CT装置で心筋SPECTの減弱補正を行った場合と,SSPAC法を用いた場合を比較した結果を示す。補正なし(図7 a)では存在しない心尖部の画素値低下が,SPECT/CT装置を用いた補正(図7 b)で認められるのに対し,SSPAC法(図7 c)では認められない。これは,前者ではSPECT画像と減弱マップの間に位置ズレが存在するのに対して,後者ではこれが存在しないためと考えられた。
■冠動脈CT画像と心筋SPECTのフュージョン“NM Cardiac Fusion”
近年,ソフトウエアの進歩により,冠動脈の形態的評価を行う冠動脈CT画像と機能的評価を行う心筋血流SPECTをフュージョンさせる手法が開発されており,その融合画像は臨床の場で高く評価されている4),5)。
GCA-9300Rに搭載される“NM Cardiac Fusion”も画像フュージョン用アプリケーションの一つで,冠動脈CT画像とSPECT画像の3Dフュージョン表示が可能である。冠動脈の状態(走行・狭窄や石灰化の有無)と心筋血流の状態(虚血・梗塞の有無)を同時に観察することで,責任血管の判定・治療方針の決定・被検者への説明に効果が期待できる(図8)。
また,本アプリケーションではポーラーマップ解析画像も冠動脈CT画像とフュージョン可能で,被検者自身の冠動脈CT画像をオーバーレイ表示することで,複雑な血管走行をポーラーマップ解析画像上でも容易に把握できる。もちろん,ポーラーマップ解析はreversibilityやwashoutといった各種の解析に対応している。
■まとめ
GCA-9300Rは,3検出器+LMEGPコリメータによる高画質,SSPACによる減弱アーチファクトの補正,冠動脈CT画像とのフュージョンによる心筋血流評価という3つの特長から,心臓検査における診断能向上に大きく寄与できていると考える。
*“NM Cardiac Fusion”はオプション機能です。
●参考文献
1)McQuaid, S.J., et al. : Sources of attenuation-correction artefacts in cardiac PET/CT and SPECT/CT. Eur. J. Nucl. Med. Mol. Imaging, 35・6, 1117~1123, 2008.
2)前田壽登 : 心筋SPECTにおける減弱補正─散乱・フォトピ-クデ-タからの減弱係数マップ作成および減弱補正. メディカルレビュー, 90, 2003.
3)Kanzaki,T.,et al.:Improvements in Segmentation Using Scatter and Photopeak Window Data for Attenuation Correction in Myocardial SPECT.Annals of Nuclear Cardiology,2・1,38〜43,2016.
4)Matsuo, S., Nakajima, K., et al. : Clinical usefulness of novel cardiac MDCT/CT fusion image. Ann. Nucl. Med., 23・6, 579〜586, 2009.
5)Slart, R.H., et al. : Diagnostic pathway of integrated SPECT/CT for coronary artery disease. Eur. J. Nucl. Med. Mol. Imaging, 36・11, 1829〜1834, 2009.