技術解説(キヤノンメディカルシステムズ)

2019年1月号

Breast Solution No.1[XR]マンモグラフィ 最新技術解説

DBTの画像処理技術の進歩と今後の動向について

キヤノンメディカルシステムズ株式会社X線開発部 金光 愼吾

マンモグラフィにおけるデジタル移行が進む中,近年は従来のデジタルマンモグラフィ(二次元投影像:以下,2D)だけでなく,デジタルブレストトモシンセシス(以下,DBT)が製品化され,正常乳腺に埋もれた病変組織を分離識別できる可能性があることから臨床への適用が広がっている。DBTの画像処理技術の発展経緯と今後の動向を,当社装置での事例を含め解説する。

■DBTにおける再構成法実装の経緯

トモシンセシスの実現や再構成方式の発展には,近年のハードウエアの発展が大きな役割を果たしている。DBTでは大量のデータが発生するため,収集系の実現にはメモリやCPUの能力が飛躍的に発展することが不可欠であった。一方で,再構成処理にかかる時間を実用的なレベルに抑えるために,計算量を左右する再構成手法の選択が制限されていたが,近年,3Dゲームの画像描写などに活用されているグラフィックボードに搭載されるGPUの機能向上により計算時間の短縮が図られ,計算負荷の高い再構成手法の採用が可能となった。
例えば,DBTでは2D撮影と比べ,撮影によるデータ収集量が数倍〜25倍(収集枚数に関してはメーカーにもよるが数枚〜最大25枚),再構成画像の発生で約50倍(乳房厚さ50mmを1mmスライスで再構成する場合),合わせて75倍程度の画像データを扱うことになる(ただし,ノンビニング処理の場合)。また,再構成処理方法については,過去に使われていた単純バックプロジェクション(SBP)より,その後に開発されたフィルタードバックプロジェクション(FBP)や逐次近似再構成処理(IR)が有利だが,計算ボリュームは増大する。表1に各アルゴリズムの計算量比較を示す。
最初のデジタルマンモグラフィ装置は2000年に商品化され,DBTは約10年後に商品化されているが,2000年以降の並行処理技術や通信速度の向上といった技術的な進歩がCPU・GPUの発展につながっている。
特に汎用GPUと呼ばれる製品が開発されることにより,FBPや逐次近似法と呼ばれる計算量の大きなアルゴリズムを撮影装置に搭載することが可能になった。

表1 各再構成法による計算量の相対比較

表1 各再構成法による計算量の相対比較

 

■プロジェクション画像(投影像)の改良

各種の再構成法による特徴を引き出すためには,プロジェクション画像においても2D画像同様に,欠陥補正はじめ各種の画像処理は不可避である。
このプロジェクション画像において,当社独自のSNRF処理を行うことで再構成画像の画質が向上することをファントムにて確認している(図1)。
通常の2D画像であれば1枚の画像にSNRF処理をかけることになるが,DBTにおいては複数のプロジェクション画像にすべてSNRF処理を行っており,この処理自体も再構成同様,GPUの高速処理により適用が可能となった技術である。
さらに,実際の臨床画像に当社独自のSNRF処理を適用することで,再構成後のスライス画像のノイズは大幅に低減でき,85μmの解像度とあいまって,乳腺やスピキュラが明瞭に描出されていることがわかる(図2)。

図1 ACR156ファントムの投影像へのSNRF有無の差

図1 ACR156ファントムの投影像へのSNRF有無の差

 

図2 臨床画像における投影像へのSNRF有無の差

図2 臨床画像における投影像へのSNRF有無の差

 

■z軸(深さ)分離能力の改良

DBTにおいてはz軸(深さ)方向の分離能力が重要であるが,当社独自のZ-Filterによる処理を行っている。これは,当社が透視DR装置などで採用している逐次近似解像度補正をDBTに応用したもので,ここにもGPUの高速処理による逐次近似手法を用いている。
図3に示すように,スライス面ごとに対象物の補正処理が行われ,z軸分離能力を改善している。

図3 Z-Filterの効果

図3 Z-Filterの効果

 

■逐次近似再構成処理(IR)

IRの概念を図4に示す。“仮の3Dデータ”から投影データを算出後,“実際の投影データ”との比を取って,近似用投影データを各方向で算出する。この近似用投影データを逆投影して得た補正用3Dデータを元の“仮の3Dデータ”に乗じて,“1回目補正3Dデータ”を作成する(これで1回計算)。次に,“1回目補正3Dデータ”から投影データを算出後,“実際の投影データ”との比を取って,次の近似用投影データを各方向で算出する。この“近似用投影データ”を逆投影して得た補正用3Dデータを“1回目補正3Dデータ”に乗じて,“2回目補正3Dデータ”を作成する(これで2回計算)。
以降,同様に繰り返し計算させて,実際の投影データとの比を収束させていく。
当社DBTの再構成処理においては,前述のSNRF・逐次近似解像度補正・IRを合わせた多重処理を搭載している。
以上のように実際の製品では,図5に示す赤字部分にGPUによる計算処理を採用している。

図4 逐次近似再構成処理(IR)の概念

図4 逐次近似再構成処理(IR)の概念

 

図5 DBTの画像収集と再構成の概念図

図5 DBTの画像収集と再構成の概念図

 

■今後の技術動向

GPUの発展によって,今後さらに計算時間の短縮や計算量の大きなアルゴリズムを使用できるようになると考えられる。例えば,CTやMRIで用いられるデータのスパース性を利用した再構成技術の採用である。
これらの手法が再構成アルゴリズムに加えられることで,さらなるアーチファクトの低減,ノイズの低減が可能になり,S/Nの向上した画像を得られると期待される。
一方で,これらの再構成手法の開発・改良において今注目されているディープラーニング(DL)が有効と考えられているが,DLによる開発自体もGPUの発展の恩恵を得ており,大量の学習用データを用いた学習時間を短縮したり,学習結果を用いた推論結果を短時間で提示することにより,開発効率の向上が見込まれている。

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