技術解説(キヤノンメディカルシステムズ)
2016年4月号
Abdominal Imagingにおけるモダリティ別技術の到達点
軀幹部の高度な診断を可能にする最新アプリケーション─「Vitrea」におけるIVIM解析,脂肪率測定
甲斐 征八(MRI営業部)
画像診断における解析技術が,ますます重要な時代になりつつある。東芝メディカルシステムズはワークステーション「Vitreaバージョン7 powered by Olea」に,Angio,CT,MRIの各モダリティに対応したアプリケーションを搭載し,最先端の解析を可能としている。本稿ではまず“Vitrea for MRI”の概説を行う。次に,搭載されたさまざまなアプリケーションの中から,腹部領域における機能解析アプリケーションである“MR IVIM解析”および,“MR Metabolic解析”について説明する。
■Vitrea for MRI─MRIの可能性を新次元へ導く
Vitreaには,高い評価を得ている臨床アプリケーションが多数搭載されており,わかりやすく,簡単なワークフローで全身の解析を行うことが可能である。われわれは2015年10月に世界中のトップクラスの研究・顧客ネットワークを有するOlea Medical社を買収し,協調・連携を図っており,Vitreaのプラットフォーム上でOlea Medical社のMRI医療画像処理ソフトウエアが使用可能である。また,心臓・血管の医用画像を解析する医用画像分析のためのソリューションを提供するMedis Medical Imaging systems社などの著名企業のソフトウエアも搭載し,信頼性の高い解析を行うことが可能である。これらVitreaに搭載されたさまざまなアプリケーションは,画像の閲覧から解析,レポートまでの日々の診療をトータルサポートする。
■MR IVIM解析
MR IVIM解析は,肝臓や前立腺などにおける拡散強調画像を用いたintravoxel incoherent motion(以下,IVIM)解析を行う診療アプリケーションである。まず,IVIM解析について概説する。
人体内部における水分子の動きは,比較的大きな血管などにおけるcoherentな動きと,毛細血管レベルの微小灌流や細胞内外の拡散現象といったincoherentな動きに分類される。このうち,1ボクセル内における後者の動きは特にIVIMと呼ばれる。IVIMは,ボクセル内におけるランダムな水分子のプロトンの微小灌流および拡散現象の両者を含めた総称であり,この両者を分離解析し,拡散強調画像に含まれる灌流情報を活用する試みをIVIM解析と呼ぶ。Vitreaでは,Olea Medical社が持つDenis Le Bihan博士らをはじめとした研究・顧客ネットワークから構築されたMR画像におけるIVIM解析を,非常に簡単な操作で行うことができる。
通常,日常診療で使用する拡散強調画像では,拡散強調画像から見かけの拡散係数(apparent diffusion coefficient:ADC)を導出する。ADCは異なる2つのb値の画像から求める係数であり,片対数グラフにおける拡散強調画像の信号強度をmono-exponential model(直線による近似モデル)で想定したものである。しかしながら,複数のb値(b=0,10,20,30,50……,1000など)を用いて撮像を行う場合,拡散強調画像の信号強度変化はきれいな直線変化とはならない。これは,拡散強調画像の信号強度に主として寄与するものが,b値が低い部分では毛細血管レベルの微小灌流,b値が高い部分では細胞内外の拡散現象であるためとされており,IVIM解析ではこの両者を区別したbi-exponential model(2直線による近似モデル)を用いる。複数のb値を用いて撮像された拡散強調画像から,それぞれの直線の傾きである,灌流を拡散と見なして定義した疑似拡散係数(D*),および真の拡散係数(以下,D),そして1ボクセル内の微小灌流に寄与する水分子のプロトンの割合(以下,f)を求める(図1)。
IVIM解析を用いた臨床検討は,数多く報告されている。肝線維化とIVIMパラメータの検討では,線維化が進むとf,Dが低値となることが示唆されている1)。このほか,肝細胞がんにおけるグレード(Edomondson-Steiner分類)とIVIMパラメータの検討において,ADCおよびDが鑑別に有用とする報告2)や,前立腺がんにおける低グレード(Gleason score≦6)と高グレード(Gleason score>6)の識別に,ADCとDが有用とする報告3)もなされている。
従来,組織の拡散の程度を示す指標としてADCが用いられてきたが,今後はIVIM解析により得られる組織内の灌流情報も新たな指標として加味され,臨床における新知見が出てくることが期待されている。
Vitreaでは,このIVIM解析を非常に簡単に行うことができる。解析を行うスタディを選択後,MR IVIM解析のアプリケーションを起動する。アプリケーションの起動時,使用するデータシリーズの選択を行うが,Vitreaには日々の検査を効率化するための学習機能が搭載されている。初回は手動で選択する必要があるが,数回の解析以降はこれまでのユーザーの解析履歴より自動でシリーズ選択を行う。そのため,日常診療における実際の解析においてはシリーズ選択が省略され,アプリケーション起動後そのまま解析画面に移動する(図2)。解析画面では,バックグラウンド調整,モーション補正,拡散モデル(mono-exponential model/bi-exponential model/stretched model)の選択が可能である。さらに,これらの画像を用いて異なるb値の画像を計算的に求めるcDWIの作成も可能である。これらの解析結果は画面キャプチャ,DICOM出力ができるほか,そのままレポートの参照画像として用いることもできる。また,前立腺では特に“Prostate Imaging Reporting and Data System(PI-RADS)”に則した読影項目があらかじめ用意されており,読影時には項目を選択するだけでレポートが完了する仕組みとなっている(図3)。このように,Vitreaには画像の閲覧から解析,レポートまでをトータルでサポートする環境が整っており,IVIM解析によって得られる付加情報を加味した診断が可能である。
■MR Metabolic解析
MR Metabolic解析は,FE3D法による水脂肪分離イメージング手法であるwater fat separation(WFS)法を利用し脂肪含有率(fat fraction)をマッピングする技術である。
WFS法は異なるTEで同時収集した画像から,水と脂肪を分離した画像を作成するアルゴリズムである。画像再構成時,逐次近似を応用したアルゴリズムにより位相ズレを補正しており,in-phase画像,out of phase画像,水画像,脂肪画像の4種類から画像出力の選択が可能である。MR Metabolic解析ではWFS法の収集で得られる,水画像と脂肪画像または,in-phase画像とout of phase画像を用いて脂肪含有率を解析する。
VitreaでのMR Metabolic解析手順は,MR IVIM解析と同様に対象スタディを選択し,アプリケーションを起動するだけである。得られた脂肪含有率マップ上では,ROI内の平均の値計測,値のヒストグラム表示などを簡単に行うことができ,もちろんこれらのDICOM出力およびレポートへの添付が可能である(図4)。1回のスキャンで4コントラストを出力可能であるWFS法によってルーチン検査時間は短縮し,かつ脂肪含有率という付加情報を含めた効率的な診断を可能にする。
◎
本稿では,軀幹部領域におけるVitreaのアプリケーションを中心に紹介した。Vitreaは全身のさまざまな部位における画像閲覧,解析,レポートに対応したワークステーションであり,薬機法認証の下で研究レベルの高度な解析を行うことが可能である。東芝メディカルシステムズは,自社の持つグローバルな開発チームとOlea Medical社との企業連携により,画像診断領域において今後ますます重要性が高まるMRIにおける画像解析システムの発展,そしてCTなどのほかの画像診断システムの医療画像処理ソフトウエアとの融合を図るマルチモダリティ・ソリューションを生かした,さらなるワークフローの改善に取り組む。
●参考文献
1)Dyvorne, H.A., et al. : Diffusion-weighted Imaging of the Liver with Multiple b Values ; Effect of diffusio gradient polarity and breathing acquisition on image qality and intravoxel Coherent Motion Parameters─A Pilot Study. Radiology, 266, 2013.
2)Sungmin, W,. et at. : Intravoxel Incoherent Motion Diffusion-weighted MR Imaging of Hepatocellular Carcinoma ; Correlation with Enhancement Degree and Histologic Grade. Radiology, 270・3, 2014.
3)Zhang, Y.D., et al. : The Histogram Analysis of Diffusion-Weighted Intravoxel Incoherent Motion(IVIM)Imaging for Differentiating the Gleason grade of Prostate Cancer. Eur. Radiol., 25・4, 2015.
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