技術解説(キヤノンメディカルシステムズ)
2015年9月号
MRI技術開発の最前線
東芝MRIの技術開発─最近のトピックスから
葛西 由守(東芝メディカルシステムズ(株) MRI開発部)
東芝はエネルギー,ストレージとともにヘルスケアを3つ目の事業の柱として加え,より豊かに生き生きと暮らせるHuman Smart Communityの実現をめざし,新たな価値をもたらすための技術開発を行っている。その中で,MRIの技術開発は次なるステージに向けて挑戦を続けている。本稿では,東芝が取り組んでいる新しい技術開発について概要を述べる。
■UTE技術の進展
ultrashort TE(以下,UTE)技術は,RFパルス直後からの信号収集を行いTEを大幅に短縮することで,従来見えなかったT2*の短い構造物を描出するための2つの要素技術(1) 非選択励起,もしくは非常に弱い選択励起傾斜磁場,(2) RFパルス直後からの収集を行うためのラディアル収集とその再構成技術から構成される。TEの短縮によるT2/T2*の短い組織の観察が可能になるほかに,流れによる信号のリフェーズが起きにくいなどの特徴を持つ。一方,傾斜磁場波形の高精度な制御と補正が必要となるなどの技術課題があり,今回,新たに拡張性の高いシーケンス開発プラットフォームを活用すると同時に,再構成速度の高速化によりUTEを実用化した。
高分解能撮像が可能になることを生かし,図1に示すようにT2*の短い組織が多い胸部での応用1)として,呼気と吸気の描出能を比較し,呼気の描出能が優れることを確認している。また,関節系やブレストのインプラント膜の描出などの新たな臨床応用についても検討中である。
さらに,複数のTEで撮像を行うことで,T2*減衰からR2*を求める取り組み2)を行っている。シングルエコーの形態画像に比べると分解能は犠牲になるものの,パルスシーケンスを複数エコー収集化し,複数TE(100μs/1.2ms)の画像を得る。加えて,収集開始点のdelayを400μs加えてTEを延長した500μs/1.6msと,800μs加えた900μs/2.0msの収集を行っている。これらの多点TEのデータから,指数減衰フィッティングで肺野のR2*を求める試みにより,2つの時定数での定量化で良い結果が得られた。肺野信号には2つのR2*成分が混在しているという仮説の下,肺野の部位,体位(仰臥位と腹臥位)などによりそれらが変化しているかを検討中である。高分解能の形態画像にR2*の情報を付加することで,新しい臨床価値が得られることが期待される。
■計算画像によるDWIの進歩
現在,ほとんどの臨床現場ではT1WI,T2WIなどの強調画像(weighted imaging:WI)が用いられている。近年,「定量画像を用いて計算でWI」を求める手法が,実収集よりも高速,パラメータの事後設定が可能,良質な画像を提供可能な方法として注目されている。その手法を拡散強調画像(以下,DWI)へ応用した。DWIは脳神経系のみならず,ほかの部位でも腫瘍細胞のように密度が大きいと拡散が小さいため,正常組織に比べ高信号に描出されるという特異性を生かして腫瘍検出に用いられており,臨床的な価値が高い。
一方,DWIでは,拡散による位相分散を強調する(単位はb値)ための大きなmotion probing gradient(以下,MPG)を印加するためにハードウエアへの負荷が大きく,シングルショット化のため読み出し部分にecho planar imaging(以下,EPI)を用いることで磁場不均一性や渦電流による歪みも発生する。また,振幅画像を用いることによるバイアスノイズ(rician noise)のためSNRが低下するという問題がある。その改善法として,比較的低い2段階以上のb値のDWI収集から求めたADCから高いb値のDWIを計算で生成するcomputed DWI(以下,cDWI)が前立腺などで評価されている3)~5)。しかしながら,DWIはb=1000(s/mm2)のMPGを印加するため,TE=80ms程度のT2WIであり,長いT2の組織と病変との鑑別が困難という“T2 shine through effects”が問題となる。
この対策として,新たに開発した“multi b-value DWI”と傾斜磁場システムの最適設計によるTE短縮化により,T2 shine through effectsの低減を図っている。さらに,「定量画像を用いて計算でWI」を求める手法の変法として,MPGのない短いTEのプロトン密度強調画像を加え最低3点から任意の(TE,b)を有するDWIを生成するshort TE cDWI(以下,sTE-cDWI)を適用する6)(図2)。sTE-cDWIでは,ノイズ伝搬の影響を受けて同一TE実収集DWIよりノイズは増大するものの,特に対象組織が背景組織よりT2が短く,かつADCが小さい場合にはCNRが向上する。また,sTE-cDWIでは,定量マップとしてADCマップに加えT2マップも生成可能である。さらに,TRを変えた画像を加えればT1マップも追加でき,任意(TR/TI,TE,b)のDWIを生成可能である。基礎実験では,脳白質に対してMPGを線維走行方向に直交して印加した場合,線維部分のCNRが増大した。また,従来のcDWIでも脳脊髄液などADCの大きい組織のT2 shine through effectsはb値を十分大きくすれば低下するが,sTE-cDWIではさほどb値を大きくしなくても低減可能であった(図3)。今後,ほかのパラメータを加えた検討などを含め,本手法の成熟と臨床評価が期待される。
■FASE法DWIによる難部位撮像と静音化技術
DWI撮像の技術的な問題点の一つとして,上記で触れたEPI収集による画像歪みがある。読み出し部分にシングルショットの高速スピンエコー法を用いてこれらの歪みをなくすことができるfast advanced spin-echo法DWI(以下,FASE-DWI)7)は,EPIでは難しかった頸部7)(図4)や肺野のDWIに用いられている。
一方,低騒音化の見地で現状の頭部プロトコールを俯瞰すると,制約条件としてDWI撮像がある。EPIによる傾斜磁場の高速スイッチングによる騒音は,従来からのハードウエア静音化技術を適用することで大きく減らせるが,加えてソフトウエア静音化技術が有効なFASE-DWIにより,騒音レベルをさらに減らし患者の負担を軽減するアプローチについて検討を進めている。EPI-DWIとFASE-DWIの比較が図5である。EPI-DWIに比べFASE-DWIでの低騒音化が確認できる。全体的な音圧が下がるだけでなく,周波数スペクトラム分布が低周波側にシフトすることで体感での騒音レベルが減少し,プロトコール全体として患者の負担を減らすことができる。
◎
当社は,さらなる基本性能の向上や従来のMRI装置では困難な新たな画像コントラストを提供する。また,別項(インナービジョン誌2015年9月号25~27ページ)で詳述した非造影技術を今後も先駆者としてよりいっそう進化させ,人にやさしいMRI装置をめざして患者への負担を減らす取り組みを続けていく。
*本稿で紹介する技術は医薬品医療機器等法未承認のため,販売・授与できません。
●参考文献
1)Lu, A., 宮崎美津恵, 梅田匡朗・他 : Respiration effects on Ultra-short TE(UTE)Pulmonary MR Imaging. 第42回日本磁気共鳴医学会大会抄録誌, 201, 2014.
2)Lu, A., Zhou, X., 宮崎美津恵・他 : Multiple T2 Environments in Lung Parenchyma using a 3D Multi-Echo Radial sequence. 第43回日本磁気共鳴医学会大会抄録誌(In Press).
3)Blackledge, M.D., Leach, M.O., Collins, D.J., et al. : Computed Diffusion-weighted MR Imaging May Improve Tumor Detection. Radiology, 261, 573〜581, 2011.
4)Ueno, Y., Takahashi, S., Kitajima, K., et al. :
Computed diffusion-weighted imaging using 3-T magnetic resonance imaging for prostate cancer diagnosis. Eur. Radiol., 23, 3509〜3516, 2013.
5)Kimura, T., Machii, Y. : Computed Diffusion Weighted Imaging under Rician Noise. Proc. of 20th ISMRM, 3574, 2012.
6)Kimura, T., Machii, Y., Sakashita, N. : A Short TE Computed Diffusion Weighted Imaging. Proc. of 23th ISMRM, 2929, 2015.
7)Tsuchiya, K., Katase, S., Fujikawa, A. et al. : Diffusion-weighted MRI of the cervical spine code using a single-shot fast spin echo technique ; Findings in normal subjects and in myelomalacia. Neuroradiology, 45, 90〜94, 2003.
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