技術解説(キヤノンメディカルシステムズ)
2012年9月号
Step up MRI 2012-MRI技術開発の最前線
ワンボタンで心臓6断面の決定をアシストする“CardioLine(カーディオライン)”の紹介
竹本周平(MRI営業部 営業技術担当)
MRIにおける冠動脈描出や心筋ダイナミックパーフュージョン,心筋遅延造影などの撮像技術の進歩に伴い,循環器画像診断における心臓MRI検査(以下,CMR検査)の果たす役割は大きくなってきている。心筋遅延造影がイベント発生の予後予測にきわめて有用であり1),また被ばくの影響がなく,安全な検査が施行できる2),などのメリットから,CMR検査需要は国内・世界市場において増えている。
国内における実績では,「2010年循環器疾患診療実態調査」(JCRACデータセンター,2012年発表)によると,CMR検査数が対前年度比で約20%増加する結果となり,ますますCMR検査の需要は増加する傾向である(図1)。
●技術開発の背景
実際にCMR検査を施行する前には,患者様への負担が少ないスムーズなCMR検査を行うため,ご施設に院内外にて膨大なトレーニング時間を割いていただいている。これは,CMR検査の知識もさることながら,各モジュールと呼ばれる検査メニューの多さ,さらには本番で迷うことなく観察する断面を3,4断面取得する訓練が不可欠なためである。
CMR検査を頻繁に行わない施設において,安定した検査結果を提供するということが難しい,と検査を運用していく方々からの悩みをうかがうことがある。CardioLine開発の背景は,前述の「CMR検査」イコール「難しい検査」という障壁を払拭することであった。
●ワンボタンで心臓断面設定をアシスト
弊社装置に搭載される新ソフトウエア“M-Power V2(エムパワー バージョン2)”で,世界初となる心臓撮像の基準6断面の位置決めをアシストする新機能CardioLineをリリースした。これは必要なデータを取得した後にワンボタンで心臓断面決定をアシストし,不慣れなほど延長してしまう位置決めに要する時間を軽減する機能である。
本機能の特徴を示す。
(1) 左室機能の画像診断における基準的な6断面をすばやくアシストする(図2)。
(2) 特徴部位認識技術を採用し,心臓特有の弁や心穿部などの位置や形状をソフトウエア自ら認識し,断面をアシストする(図3)。
(3) 類似形態や体格差を記憶させる学習機能によって算出エラーを軽減し,多種多様な症例に精度高く対応する。
本機能で設定できる6断面は,Society for Cardiovascular Magnetic Resonance(SCMR)によるCMR検査標準化プロトコールを用いているため,世界共通で扱うことができる。これには核医学検査などで扱われる長軸や短軸像,四腔像のほか,超音波検査で必須とされている三腔像も含まれている。特徴部位認識技術は,すでにパソコンやテレビ,スマートフォンなどのマルチメディアで扱われている技術を採用している。顔・人物検出やジェスチャー認識機能などで応用されている画像認識の技術,および高画質化技術の1つである超解像などの画像処理技術を,心臓MRIの断面設定に応用したものである。マルチメディアにおいても,高速画像処理が必要不可欠であるが,本機能においても例外ではなく,断面を算出するまでの計算時間は,データ取得後わずか1.5秒であり,実臨床で十分活躍できる(図4 a)。学習機能は,算出の再現性を確実にするために必要な技術であり,すでに日本および米国における臨床例を学習している。地域における体格差のほか,性別や症例の違いなどさまざまなバリエーションに対応するためのキーテクノロジーである。
●スキャンミス,ワークフロー 軽減に寄与
スキャンミスの軽減措置として,MRI特有のエリアジングアーチファクト(折り返しアーチファクト)を回避する機能によりヒューマンエラーにおけるプランミスを軽減できる(図4 b)。単純撮像を想定した検査時間の測定を行ったところ,従来よりも38%の時間短縮が可能であった。本機能を使用することで,検査ワークフローを軽減でき,患者様への負担軽減にも寄与する。
●断面の検出精度
弊社と(株)東芝研究開発センター マルチメディアラボラトリーならびに杏林大学医学部付属病院放射線医学教室・似鳥俊明教授らとの産学共同研究で臨床例における正確度の研究を実施した3)~5)。対象としたCMR検査の40症例すべてにおいて,断面設定のアシストが可能であった。放射線診断医2名の視覚的評価では,高いスコアで目的断面の設定が可能であり,臨床例においても算出精度が高い結果が得られた6)(表1,2)。
●さらなる進化と今後の展望
さらなる進化として,より円滑に検査を進められるよう,CardioLineの計算モードに術者が断面設定を意識することなく,バックグラウンドで処理可能な断面算出機能を搭載した。また,操作性簡素化に向けてインターフェイス改良も行った。リファレンスマップとシム補正情報取得の簡易化,同期インターバル読み込みや時相数設定などの簡易化も改良され,より術者に扱いやすい操作性を実現した。
CMR検査は,CardioLineにより,もはや他領域の検査と同様に日常的に扱えるようになった。CMR検査をより多くの施設でシンプルにかつ円滑に行えるツールとして本機能をお使いいただきたい。今後は3T MRIへの応用,さらには幅広い検査需要に対応できるアプリケーションとしての展開が期待できる。
●参考文献
1) Circulation, 120・1, 2009.
2) J. Am. Coll. Cardiol., 54・15, 2009.
3) Nitta, S., et al. : Improvement of knowledge-based automatic slice-alignment method for cardiac magnetic resonance imaging. J.Cardiovasc. Magn. Reson., 14(Suppl.1), 272, 2012.
4) Yokoyama, K., et al. : Early Clinical Experience with New Automatic Slice-Alignment Method for Cardiac Magnetic Resonance Imaging. RSNA2011.
5) Imai, M., et al. : Clinical evaluation of new automatic slice-alignment method for cardiac magnetic resonance imaging. ESMRMB2011.
6) 横山健一・他 : 心臓MRIにおけるKnowledge-based Automatic Slice Alignment Methodの臨床例での検討. JSMRM2011.
●問い合わせ先
キヤノンメディカルシステムズ(株)
広報室
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