Aquilion ONE / INSIGHT Editionの循環器領域への技術進展 
芳賀 喜裕(仙台厚生病院 放射線部)
CT Session

2024-6-25


芳賀 喜裕(仙台厚生病院 放射線部)

心臓CT検査は,検査が煩雑なほか,ステントや高度石灰化の評価が困難,高心拍や息止め不良な患者の動きの抑制が困難,検査に時間を要するなどの課題がある。
仙台厚生病院では,2023年9月にキヤノンメディカルシステムズの最新CT装置である「Aquilion ONE / INSIGHT Edition」を先行導入したところ,心臓CT検査においてワークフローや画質の改善を認め,検査件数も増加傾向にある。本講演では,Aquilion ONE / INSIGHT Editionの特長を述べた上で,循環器領域への技術進展について,症例を踏まえて報告する。

Aquilion ONE / INSIGHT Editionの特長

1.検査ワークフローの改善
Aquilion ONE / INSIGHT Editionで採用された新コンソールでは,人工知能(AI)を活用した自動化技術「INSTINX」が搭載され,画面レイアウトが一新された。CT検査のワークフローが時系列で表示されるため,左から右へ順に設定していくことで直感的な操作が可能となる。

2.3D Landmark Scan
ポジショニングなどの自動化機能である「3D Landmark Scan」は,ヘリカルスキャンで位置決めデータ収集を行うことで,従来のスキャノグラムと異なり,本スキャン前の画像確認が可能,自動露出機構(AEC)の効果向上,単純CT撮影が不要,被ばく低減,造影CTとのサブトラクションに利用可能,などの利点がある。これらのうち,AECの効果について,3D Landmark Scanと2種のスキャノグラムを用いて,スライス厚5mm(SD 15)の設定でファントムのSDを評価したところ,3D Landmark Scanの平均
SDが設定値(SD 15)に最も近かった。また,3D Landmark Scanには「SilverBeam Filter」が搭載されているため,被ばくの大幅な低減が可能となる。

3.ガントリ回転速度の高速化
Aquilion ONE / INSIGHT Editionでは,ガントリの回転速度も同社従来CTの最速0.275s/rotから0.24s/rotに向上しており,高心拍の患者においてもブレの少ない冠動脈CT画像の取得が可能である(図1 a)。当院にて,心拍数の異なる33症例の右冠動脈(RCA),左前下行枝(LAD),左回旋枝(LCX)について,0.24s/rotと0.275s/rotでそれぞれ冠動脈CTを撮影し,4段階での目視評価を行ったところ,高心拍を含むすべての心拍で0.24s/rotのスコアが高かった。また,心拍数と,画像再構成における最適位相との関係を見ると,0.275s/rotでは拡張期のハーフ再構成に次いで収縮期のセグメント再構成の割合が多いが,0.24s/rotでは収縮期のセグメント再構成の割合が減り,拡張期のハーフ再構成が多く選択されていた(図1 b)。さらに,図1 bの色分けを拡張期と収縮期の2つに変更したところ,0.275s/rotでは75bpmを超えると半数以上の症例で収縮期が選択されるのに対し,0.24s/rotでは約6割で拡張期が選択されていた(図1 c)。これは,Aquilion ONE / INSIGHT Editionでは従来CTよりも心拍抑制が向上していることを示している。この結果を受け,当院ではβ遮断薬(コアベータ)の使用を,従来は70bpm以上としていたが,Aquilion ONE / INSIGHT Editionにおいては80bpm以上に運用を変更している。

図1 高心拍症例の冠動脈CT画像と画像再構成における最適位相 a:冠動脈CPR画像(ハーフ再構成) b:心拍数と画像再構成における最適位相の相関 c:bを拡張期と収縮期で色分けしたグラフ

図1 高心拍症例の冠動脈CT画像と画像再構成における最適位相
a:冠動脈CPR画像(ハーフ再構成)
b:心拍数と画像再構成における最適位相の相関
c:bを拡張期と収縮期で色分けしたグラフ

 

Precise IQ Engine(PIQE)の基礎的検討

空間分解能の検討として,「Adaptive Iterative Dose Reduction 3D(AIDR 3D)」「Advanced intelligent Clear-IQ Engine(AiCE)」,PIQEのTTFを測定したところ,PIQEの値が最も高かった。特に,10%MTFは,AIDR 3Dの0.82,AiCEの1.26に対し,PIQEは1.51と有意に高かった。次に,NPSについて検討したところ,PIQEが最も低い値を示した。また,CNRはPIQEが最も高く,同一患者における比較では,PIQEはAIDR 3Dの約1.6倍向上していた。

循環器領域への技術進展

1.急性冠症候群(ACS)
ACS症例の冠動脈CTについて,AIDR 3DとPIQEの描出能を比較した。PIQEを用いることで分解能が向上し,AIDR 3Dでは1つにつながって見える石灰化も,PIQEでは明瞭に分離して描出されるほか,血管壁やプラーク辺縁がより鮮明となる。複数の症例について,AIDR 3D,AiCE,PIQEのプロファイルカーブを比較したところ,PIQEでは石灰化や血管壁の動脈硬化,造影剤などのCT値が最も上昇していた。

2.高度石灰化
89歳,男性,Agatstonスコア1165の高度石灰化の症例を提示する。近位部の血管(図2 aは,AIDR 3Dでは石灰化により内腔の評価が困難であるが,PIQEでは血管径が保たれていることが確認でき,内腔の評価も容易である。また,AIDR 3Dでは不明瞭な石灰化(図2 aが,PIQEでは鮮明に描出されている。病変部のプロファイルカーブでも,PIQEでは石灰化と造影剤部分がCT値差を持って描出されていた(図2 b)

図2 高度石灰化症例の冠動脈CT画像とプロファイルカーブ a:AIDR 3DとPIQEの比較 b:プロファイルカーブ

図2 高度石灰化症例の冠動脈CT画像とプロファイルカーブ
a:AIDR 3DとPIQEの比較
b:プロファイルカーブ

 

3.ステント内腔の評価
冠動脈CTにおける3mm,2.5mm,2.25mmのステントの描出能について,AIDR 3DとPIQEを比較したところ,いずれもPIQEの方が明瞭であった。特に,2.25mmステントは,AIDR 3Dでは内腔が不明瞭であるが,PIQEでは十分に描出できている(図3 a)。「慢性冠動脈疾患診断ガイドライン (2018年改正版)」においては現状,CTによる3mm以下のステントの内腔評価は推奨されていないが,当院の検討では,PIQEを用いることで3mm以上は100%,3mm以下でも90%以上で内腔評価が可能であった。今後,超解像技術の普及に伴い,ガイドラインが変更されていく可能性がある。
ステントのプロファイルカーブを見ると,AIDR 3DやAiCEと比較しPIQEではステント部分のCT値がより高く,一方,造影剤のCT値は同等の値を示した(図3 b)。また,電子密度ファントムを用いて,AIDR 3DとPIQEのCT値を検討したところ,プラーク・軟部組織と造影剤はほぼ同等の値であったが,高吸収域である石灰化や金属についてはCT値にバラツキが見られた。原因としてパーシャルボリューム効果の影響などが考えられるが,PIQEではより真の値に近づいているものと思われる。実際の画像でも,PIQEでは石灰化病変のわずかなCT値差を視覚的に評価できるため,経カテーテル大動脈弁置換術(TAVI)術前のリスク管理に有用と考えられる。また,軟部組織の境界も明瞭となるため,病変部をより正確に把握することができる。

図3 冠動脈CTによるステント内腔評価とプロファイルカーブ a:2.25mmのステントにおけるAIDR 3DとPIQEの比較 b:プロファイルカーブ

図3 冠動脈CTによるステント内腔評価とプロファイルカーブ
a:2.25mmのステントにおけるAIDR 3DとPIQEの比較
b:プロファイルカーブ

 

まとめ

Aquilion ONE / INSIGHT Editionは,検査ワークフローの改善により,短時間で効率的な検査が可能である。ガントリ回転速度の高速化により,心拍数の制御に期待が持てる。また,PIQEを用いることで3mm以下のステントや石灰化病変も良好に描出されるため,今後はTAVI術前評価のようなリスク判定にも有用性を発揮することが期待される。

* 記事内容はご経験や知見による,ご本人のご意見や感想が含まれます。
* 本記事中のAI技術については設計の段階で用いたものであり,本システムが自己学習することはありません。

一般的名称:全身用X線CT診断装置
販売名:CTスキャナ Aquilion ONE TSX-308A
認証番号:305ACBZX00005000

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