循環器内科医が求める高精細・PIQEイメージング 〜世界初のキヤノンADCT臨床応用からの15年間〜 
髙橋 茂清(中部国際医療センター循環器病センター循環器内科)
Session 1 高精細イメージング・超解像ADCT

2023-12-25


髙橋 茂清(中部国際医療センター循環器病センター循環器内科)

当センターではキヤノンメディカルシステムズのCT装置が4台稼働しており,それらのうち高精細CT「Aquilion Precision」とArea Detector CT(ADCT)「Aquilion ONE / PRISM Edition」の2台を循環器領域の診療に用いている。初代Aquilion ONEが導入された2008年に心臓CT検査を開始し,15年が経過した2023年現在,年間の検査数は1600件を超える。Aquilion ONE / PRISM Editionでは,主に冠動脈および大動脈の評価や,triple rule out,下肢動脈の評価,アブレーション術前評価,心筋評価などを行い,Aquilion Precisionでは,心拍数のコントロールが行われた症例の冠動脈の評価やステント留置後の評価,高度石灰化の評価を行っている。本講演では,循環器領域における,それぞれの装置の臨床的有用性を述べる。

■Aquilion Precisionの臨床的有用性

Aquilion Precisionは,0.25mm×160列の検出器を搭載し,スライス厚0.5mmのNRモード(マトリックス:512×512)とHRモード(マトリックス:1024×1024,2048×2048),0.25mmスライス厚のSHRモード(マトリックス:1024×1024,2048×2048)の3つのスキャンモードがある。従来,冠動脈は0.5mmスライス厚・512マトリックスのthin slice画像で評価していたが,Aquilion PrecisionのSHRモード(1024マトリックス)を用いることで血管走行がより明瞭となった。循環器領域の中でも細い血管である下肢動脈では,スライス幅が薄くなったことでサブトラクションの精度が向上したほか,慢性下肢動脈閉塞症の術前評価では微細な側幅血行路が明瞭に描出され,術前ストラテジーの構築にも有用である。
Aquilion Precisionを用いた冠動脈CTの評価では,直径2.5mmの細径ステントの約80%を診断可能であることや,石灰化病変のアーチファクトが視覚的に減少することなどが報告されている1)。そのため,当センターでは,多くの症例でステント留置後の再評価にCTを用いている。また,CTではステントのストラットの評価も可能であるなど,血管造影検査と比較して得られる情報量が多いため,当センターでは現在,血管造影検査は腎機能低下例などに絞って行っている。
さらに,サイズや材質の異なるステントが複数留置されている場合の形状や見え方の違い,ステントが重なっている部分なども,SHRモードにて詳細に評価することができる(図1)。図2は,右冠動脈末梢の後下行枝(#4PD)に2.25mm,房室結節枝(#4AV)に3mmのバルーンを用いて,kissing balloon technique(KBT)にて分岐部を拡張した際のSHRモードの画像である。ステントストラットの拡張状況を詳細に描出できるため(図2 ),従来用いてきた光干渉断層撮影(OCT)を代替できる可能性がある。

図1 材質や径の異なるステントやステントの重なりの評価 60歳代,50kg,3.5mmのプラチナ合金ステントと2.5mmのコバルトクロム合金薬剤溶出ステント(DES)留置例。ステントの径や材質の違いも表現されており,ステントが重なっている部分(▲)も明瞭である。

図1 材質や径の異なるステントやステントの重なりの評価
60歳代,50kg,3.5mmのプラチナ合金ステントと2.5mmのコバルトクロム合金薬剤溶出ステント(DES)留置例。ステントの径や材質の違いも表現されており,ステントが重なっている部分()も明瞭である。

 

図2 ステントストラットの拡張状況の評価 60歳代,60kg,2.25mmのプラチナ合金DES留置例

図2 ステントストラットの拡張状況の評価
60歳代,60kg,2.25mmのプラチナ合金DES留置例

 

■Aquilion ONE / PRISM Editionの臨床的有用性

Aquilion ONE / PRISM Editionは,ガントリ回転速度が0.275秒と高速であるほか,Deep Learning Reconstruction(DLR)「Advanced intelligent Clear-IQ Engine(AiCE)」や,超解像画像再構成「Precise IQ Engine(PIQE)」,dual energy技術「Spectral Imaging System」などが搭載されており,冠動脈サブトラクションや心筋dynamic perfusionなどが可能である。
PIQEは,Aquilion PrecisionのSHRモードの画像を教師としてdeep convolutional neural network(DCNN)をトレーニングしたDLRで,ADCTの画像を高分解能化する技術である。PIQEを用いることで,Aquilion ONE / PRISM Editionで撮影した画像がより高精細となり,冠動脈ステントのストラットの構造やステントが重なっている部分の内腔の評価がより詳細に可能となった。従来のCTではアーチファクトによって正確な評価が難しかった石灰化も,PIQEを用いることで分布がより明瞭となり,内膜プラークもより詳細に評価できる(図3)。さらに,不整脈症例においては,PIQEを用いることで,わずか10mLの造影剤量で冠動脈と左心房の明瞭な画像が得られ,アブレーション術前の評価が可能となる。
また,Aquilion ONE導入当初より,被ばくや造影剤の低減のため,1回の造影検査で肺塞栓,心臓,大動脈を評価できないかと考えており,320列CTでそれを実現できている。当センターのtriple rule outプロトコールは,まず100列のヘリカルスキャンで静脈相(肺動脈)を取得した後,心電図同期にて冠動脈のボリュームスキャンを行い,テーブル移動後に100列のヘリカルスキャンで大動脈を撮影している。画像再構成に当たっては,肺動脈と大動脈にはAiCEを,心臓にはPIQEを適用している。
triple rule outの適応となった症例を提示する。50歳代,90kg,冠動脈形成術後の症例で,胸痛のため当センターを受診した。心筋逸脱酵素の上昇はなく(トロポニンT陰性),心電図にも異常を認めないためtriple rule out撮影を行った。volume rendering(VR)画像では肺塞栓や大動脈瘤,大動脈解離は認めなかったが(図4),冠動脈CTを見ると♯3のステントから閉塞しており(図5 a),末梢は側副血行路にて灌流されていた。側副血行を供給する前下行枝(LAD)には,ステントの近位部,内腔,遠位部に狭窄を認め(図5 c),それらによる虚血イベントであることが1回の検査で評価可能であった。冠動脈造影検査(CAG)でも同様の所見が得られた(図5 b,d)。
急性冠症候群の鑑別疾患のうち,緊急の診断・治療が求められるものとして急性大動脈解離と急性肺血栓塞栓症がある。現状,「急性冠症候群ガイドライン」にCT検査の項目はないが,検査の環境などが整えば,triple rule out撮影は診断に有用なため,ぜひ取り入れていただきたい。

図3 PIQEによる石灰化プラークの評価

図3 PIQEによる石灰化プラークの評価

 

図4 Triple rule out適応症例(50歳代,90kg)のVR画像

図4 Triple rule out適応症例(50歳代,90kg)のVR画像

 

図5 Triple rule out撮影における冠動脈の評価(PIQE適用)

図5 Triple rule out撮影における冠動脈の評価(PIQE適用)

 

■まとめ

Aquilion PrecisionのSHRモードの画像では,2.25mmの細径ステントでもステント内腔やプラーク,ステントストラットの形状などを詳細に評価可能である。また,Aquilion ONE / PRISM Editionを用いることで,被ばく量や造影剤量を低減しつつ,心臓CTはもとよりtriple rule outによる大動脈や肺動脈の評価,および下肢動脈の評価などの複合検査が可能となる。両装置とも,循環器領域の臨床現場において,きわめて有用である。

*記事内容はご経験や知見による,ご本人のご意見や感想が含まれる場合があります。

*AiCE,PIQE,Spectral Imaging Systemは画像再構成処理の設計段階でAI技術を用いており,本システム自体に自己学習機能は有しておりません。

●参考文献
1)Motoyama, S., et al., Circ. J., 82(7) : 1844-1851, 2018.

一般的名称:全身用X線CT診断装置
販売名:CTスキャナ Aquilion Precision TSX-304A
認証番号:228ACBZX00019000

一般的名称:全身用X線CT診断装置
販売名:CTスキャナ Aquilion ONE TSX-306A
認証番号:301ADBZX00028000

 

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