AI画像解析によるがんのフォローアップ診断支援 
藤本 晃司(京都大学大学院医学研究科 リアルワールドデータ研究開発講座)
Session(1): Healthcare IT

2023-6-26


藤本 晃司(京都大学大学院医学研究科 リアルワールドデータ研究開発講座)

本講演では,キヤノンメディカルシステムズの読影支援ソリューション「Abierto Reading Support Solution(Abierto RSS)」上で稼働する骨経時差分技術「Temporal Subtraction For Bone」と,画像処理ワークステーション用プログラム「Vitrea」の「Region Tracking」によるがんのフォローアップ診断支援の検討結果について報告する。

Abierto RSSの概要

Abierto RSSは,画像解析用サーバ「Automation Platform」と,解析進捗リストである「Worklist」,画像解析用ビューワの「Findings Workflow」をコアとして構成される。モダリティから送られた画像をAutomation Platformで受けて各種の解析アプリケーション(アプリ)で解析し,その結果をFindings Workflowで参照,解析結果をPACSに送信するのが基本的な流れである。Automation Platformにはパートナー各社のアプリが搭載可能で,他社のPACSにも接続できるオープンなアーキテクチャになっているのが特長である。

骨経時差分技術を用いた骨転移の検出支援

1.骨経時差分の技術的な背景
CTでの骨転移の検索は,がん術後のフォローアップで依頼されることがあるが,2D画像で全身の骨をチェックすることは時間のかかる作業であり,見逃しのリスクも高い。CTでの骨転移検出をサポートする技術として,京都大学とキヤノン(株)の産学連携プロジェクト(CKプロジェクト)の中で「画像診断支援技術開発」として,放射線診断科の坂本 亮氏が中心になって開発されたのが変形位置合わせによる骨経時差分技術である。
骨経時差分では,同一患者の日付の異なるCT画像を差分して変化が起きた部分を抽出するが,単純に差分しただけでは位置合わせのエラーによって骨に起こった変化を把握できない。そこで2枚のCT画像に対して,剛体変形と非剛体変形を組み合わせることで正確な位置合わせを可能にした。非剛体変形には,large deformation diffeomorphic metric mapping(LDDMM)法が用いられている。LDDMM法は,脳神経領域のMR画像用のレジストレーションアルゴリズムとして開発されたもので,これを坂本氏が全身のCT画像に応用した。実際に骨転移症例に対して行った検討では,溶骨型,硬化型,混合型などのさまざまな骨転移の描出が可能であった1)。CTの骨経時差分画像と骨シンチグラフィとの検出能の比較では,病変・患者単位のいずれも骨経時差分画像を用いて読影を行った方が感度が向上した2)。また,読影時の差分画像の有無で検出能を比較した検討では,経時差分画像を加えて読影を行った方が病変・患者単位とも感度は向上し,偽陽性数は増えるものの読影時間は変わらないと報告されている3)

2.Temporal Subtraction For Bone
Temporal Subtraction For Boneでは,LDDMM法のほかに骨領域強調処理,適応的差分処理(Adaptive Voxel Matching:AdVM)など,前処理,後処理にさまざまな技術を組み合わせた経時差分部分を強調表示し,骨の性状変化の検出を支援する(図1)。

図1 Temporal Subtraction For Boneの位置合わせ処理 〔画像提供:キヤノンメディカルシステムズ(株)〕

図1 Temporal Subtraction For Boneの位置合わせ処理
〔画像提供:キヤノンメディカルシステムズ(株)〕

 

1)Findings Workflowによるわかりやすい表示
Findings Workflowは,さまざまなアプリの解析結果を参照するプログラムである。参照するプログラムがない場合,解析結果をセカンダリーキャプチャ(DICOM SC)としてPACSに送信して読影ビューワでの確認が必要で,この場合にはSC画像を1枚1枚確認することが必要になり,追加の計測や結果の修正などもできない。Findings Workflowでは,画面左にチェックすべき画像のリスト,右側に2D画像,3D画像が表示され,解析結果が一目で把握できる画面構成となっている(図2)。アプリが異なっても同様の画面表示で一貫したレイアウトで参照でき,インタラクティブな確認や解析結果の修正も可能である。

図2 Findings Workflowでの結果表示 左椎弓根の造骨性変化(→)が一目で確認できる。

図2 Findings Workflowでの結果表示
左椎弓根の造骨性変化()が一目で確認できる。

 

2)過去画像の自動取得
差分画像の作成には,当日の画像だけでなく過去画像の準備が必要となる。Automation Platformには,過去画像の自動取得機能が搭載されており,現在画像のDICOM附帯情報を基に過去画像をPACSから自動で取得できる。今回の画像の再構成関数,撮像部位,スライス厚などの情報から類似度の重み付けを行い,最も近似する過去画像を検索して取得する。

3)結果の通知
骨経時差分などのアプリによる画像解析処理は,画像データがPACSに登録され放射線科医が読影を始めるのと同時並行で行われる。したがって,解析結果についての進捗状況や検知の有無などを,読影者に適切なタイミングで提供することが重要になる。Abierto RSSでは,Worklist上とWindowsの通知機能の2つの方法で通知される(図3)。

図3 Abierto RSSの解析進捗リスト 〔画像提供:キヤノンメディカルシステムズ(株)〕

図3 Abierto RSSの解析進捗リスト
〔画像提供:キヤノンメディカルシステムズ(株)〕

 

Region Tracking

次に,AI技術を活用したRegion Trackingについて,医師が観察した腫瘍の経時変化のトラッキングと,RECISTレポート作成支援を紹介する。
固形がんの治療効果判定のためのガイドラインであるRECISTでは,ルールに則った計測,解析,判定が求められる。読影依頼にRECIST評価が加わることで,腫瘍径の計測や前回検査との比較,増加率や縮小率の計算,それに基づいた評価と総合判定が必要となり,読影の負担が増大する。症例1(画像非提示)は,膵がん,多発肝転移,リンパ節転移の症例で,膵尾部に59mmの原発巣,20mmと21mmの肝転移があり,左鎖骨上窩と腹部傍大動脈領域のリンパ節を標的病変と判断した。本症例では,治験終了までに9回のCT検査を行ったが,すべての検査で計測や解析結果の評価,判定が必要となり,大変な労力を要した。このような症例において,Region Trackingは,RECIST1.1に準拠したワークフローに沿った計測を支援することができる。

1.関心領域のセグメンテーション&計測
症例2(図4)は大腸がんの肝転移だが,大きな腫瘍で三次元に広がる腫瘍の最大径を計測するのは手間のかかる作業である。Region Trackingでは,計測したい関心領域をクリックすることで領域抽出と長径/短径の自動計測が約1.5秒で行える。1回のクリックでカバーできない場合には複数回クリックして全体を選択する。この症例では5回のクリックが必要だったが,Region Trackingでは複数選択した領域を1つのROIに統合した上で最大長径を計測できた。

図4 症例2:Region Trackingによる関心領域のセグメンテーションと計測

図4 症例2:Region Trackingによる関心領域のセグメンテーションと計測

 

2.指定された関心領域のペアリング&変化率の計測
症例3(図5)は,別の大腸がん肝転移の症例だが,病変が複数あってもワンクリックで前回画像の同じ関心領域とペアリングして長径の計測を自動で行える。さらに,最大径の計測だけでなく,すべての関心領域の径の和(径和)を求めて増加率や縮小率を求めることができる。増加率が20%を超えると赤色で,30%以上縮小していれば緑色で表示され,読影者のガイドラインに沿った判定を支援する。
症例1の膵尾部の原発巣について,手動での計測結果とRegion Trackingの計測結果を比較したところ,径和の差は3〜5mmで,総合評価はカルテ記載と一致していた。また,当院のレポートシステムに記録されている読影時間を基に,読影に要した時間を比較した。放射線科医によるRECIST評価では13〜25分かかっていたが,Region Trackingでの解析時間はおおむね5分以内で終了しており,読影時間の短縮が期待される。

図5 症例3:関心領域のペアリングと径和の増加率の算出

図5 症例3:関心領域のペアリングと径和の増加率の算出

 

3.計測結果の出力・レポート
Region Trackingでは,RECIST評価の計測結果をグラフやアイコン,サムネイル画像を使って見やすくわかりやすいレポートを作成することができる。

まとめ

Temporal Subtraction For Boneについては,比較読影のサポートとして骨だけでなく他の領域への拡大を期待したい。また,Region Trackingでは現在はワンクリックが必要だが,これがゼロクリックになればAutomation Platformでの自動処理が可能になり,さらなる自動化や業務の効率化が可能になると期待している。

*記事内容はご経験や知見による,ご本人のご意見や感想が含まれます。
*Region Trackingは設計段階でAI技術を用いており,自己学習機能を有しません。
*本記事のソフトウエアは病変や腫瘍といった領域の自動検出や判定をするものではありません。

●参考文献
1)Sakamoto, R., et al., Radiology, 285(2):629-639, 2017.
2)Onoue, K., et al., Eur. Radiol., 29(10):5673-5681, 2019.
3)Onoue, K., et al., Scientific Reports, 18422, 2021.

一般的名称:汎用画像診断装置ワークステーション用プログラム
販売名:汎用画像診断ワークステーション用プログラム Abierto SCAI-1AP
認証番号:302ABBZX00004000

一般的名称:汎用画像診断装置ワークステーション用プログラム
販売名:汎用画像診断ワークステーション用プログラム RapideyeCore SVAS-01
認証番号:229ABBZX00002000

 

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