循環器領域におけるDLRを用いた高精細CT,超解像DLRを用いた320列CTの使用経験
折居 誠(岩手医科大学医学部放射線医学講座)
Session2 高精細CTのエビデンスと臨床活用
2022-11-25
岩手医科大学とキヤノンメディカルシステムズは,冠動脈CTについて長期にわたって共同研究などを行っており,CTの多列化に伴う冠動脈CT画像の進歩に貢献してきた。本講演では,循環器領域におけるDeep Learning Reconstruction(DLR)を用いた高精細CT,および超解像DLRを用いた320列CTの使用経験をテーマに,冠動脈CT画像のさらなる進歩について報告する。
■冠動脈CTの課題と高精細CTがもたらす進歩
日本循環器学会が専門施設を対象に行った「循環器疾患診療実態調査報告書」の統計を見ると,2018年に冠動脈CTの実施件数が冠動脈造影検査の件数を初めて上回り,その後,差は徐々に広がっている。冠動脈CTは今後,実施件数が世界的により増加することが予想されるため,さらなる進歩を遂げる必要があると考える。
冠動脈CTには,(1)定量性,(2)偽陽性,(3)冠動脈ステント評価における小径ステントの評価,(4)検査スループット(画像再構成時間),(5)高度石灰化病変の描出に課題がある。高精細CTは,これらのうち定量性,偽陽性,小径ステントの描出という3つの課題の解決に貢献してきた。
キヤノンメディカルシステムズの高精細CT「Aquilion Precision」は,0.25mm×160列の検出器を搭載し,従来CTの検出器(0.5mm)の半分のスライス幅を実現している。これにより,病変を詳細に評価可能となり,高精細CTを用いて定量的冠動脈造影法(quantitative coronary angiography:QCA)と同等の定量性にて冠動脈狭窄病変の評価が可能となった(図1)。冠動脈CTは,初期には陰性適中率の高い検査として認識されていたが,高精細CTでは陽性適中率が向上し1),病変が有意狭窄であるかどうかを定量的に評価可能な検査として進歩を遂げた。
また,高精細CTは,320列Area Detector CT(ADCT)と比較し,冠動脈ステント内腔の描出能も向上している。従来の冠動脈CTでは,3mm未満の小径ステントの評価は困難とされてきたが,高精細CTのスライス厚0.25mmの画像では,2.5mm径のステントの描出能が著明に改善し,内腔の評価が可能である(図2)。
■DLRが冠動脈CTにもたらす効果
一方,高精細CTにおいても,検査スループットと高度石灰化病変の描出に課題が残されている。
1.検査スループットの改善
当院における高精細CTによる冠動脈CTの適応は,(1)不整脈への対応が難しいため,洞調律かつ撮影時の心拍数が60bpm以下であること,(2)ノイズの観点から高体重患者は不適であり,BMI 27以下,もしくは体重70kg以下であること,(3)被ばくへの配慮から若年者への適応が難しいため55歳以上であること,としており,実施に当たっては制限がある。また,高精細CTでは,1回の冠動脈CT撮影で発生するデータ量が1GBと通常の約8倍に上り,容量負担が大きいほか,model based iterative reconstruction(MBIR)である“Forward projected model-based Iterative Reconstruction SoluTion(FIRST)”では画像再構成に60〜70分を要するため,検査スループットに大きな影響を与えている。
検査スループットの課題を解決する一つの方法として,画像再構成法の進歩が挙げられる。キヤノンメディカルシステムズでは,hybrid IRである“Adaptive Iterative Dose Reduction 3D(AIDR 3D)”,MBIRであるFIRSTに続いて,DLRであるAdvanced intelligent Clear-IQ Engine(AiCE)”が開発された。AiCEは,MBIRで再構成した高品質な画像をDeep Convolutional Neural Network(DCNN)の学習に用いることで,低品質な画像の画質を改善する技術であり,高精細CTでも使用可能である。実際に,高精細CTで撮影し,AIDR 3D,FIRST,AiCEで再構成した冠動脈CT画像を比較したところ,AiCEではFIRSTと遜色のない冠動脈内腔の描出能が得られていた(図3)。
当院では,62症例を対象とした検討の結果,FIRSTからAiCEへの切り替えは可能と判断し,現在,高精細CTの画像再構成にはAiCEを用いている。AiCEでは2分以下で画像再構成が可能なため,検査スループットが大幅に改善するほか,SNRやCNRもFIRSTと比較し有意差を持って向上するなど,きわめて有用である。
2.高度石灰化病変の描出能の向上
さらに,AiCEは,冠動脈CTのもう一つの課題であった高度石灰化病変の描出においても有用性を発揮する。
図4は,左前下行枝に高度石灰化が散見される症例の高精細CT画像であるが,AIDR 3D(a)やFIRST(b)と比較し,AiCE(c)では血管内腔や石灰化病変の描出が良好であり,長年の課題であった石灰化病変に対しても大きな効果が得られることが期待される。
■さらなる課題の解決に貢献する超解像DLR“PIQE”
DLRは,高精細CTを用いた冠動脈CTの検査スループットの向上に大きく貢献したが,320列ADCTと比較し高精細CTでは検査対象が洞調律に限られることや,被ばく線量が増大するなどの課題が残されている。そこで登場したのが超解像DLR“Precise IQ Engine(PIQE)”である。PIQEは,高精細CTのデータにFIRSTやAiCEで培ったモデルベースの高分解能かつ低ノイズな画像をDCNNの学習に使用することで,320列ADCTの画像を高分解能化する技術である。実際に,左前下行枝の高度狭窄病変について,320列ADCTで撮影しFIRSTおよびPIQEで再構成した画像を冠動脈造影画像と比較したところ,内腔の視認性や短軸像におけるプラーク辺縁の描出はFIRSTよりもPIQEの方が優れていた(図5)。
そこで,320列ADCTを用いた冠動脈CTの連続50症例を対象に,FIRSTからPIQEに切り替え可能か検討を行った。その結果,PIQEは再構成時間がFIRSTより短く,物理評価(SNR,CNR)や画質定性評価の結果もFIRSTを上回っていた。また,高精細CTの大きな武器の一つである3mm未満の小径ステントの評価においても,PIQEでは内腔はもとより,ステントの細かいストラットまで描出可能であった(図6)。さらに,前述の連続50症例のうち,ステント留置されていた症例の10本のステントについて評価を行った。10本中6本は3mm未満の小径ステントであるが,PIQEではFIRSTと比較しステントと内腔の輝度差が大きく,ステントはよりシャープに描出されていた。以上より,PIQEはFIRSTを置き換え可能と判断し,当院では現在,冠動脈CTにPIQEを用いている。
■まとめ
高精細CTは,冠動脈CTの診断精度の向上に貢献したが,AiCEを併用することでFIRSTを上回る高画質の取得と,検査スループットの改善が得られる。また,PIQEの登場により,320列ADCTでも高精細画像の取得が可能となった。このような検出器や画像再構成法の進歩によって,循環器領域(冠動脈)CTのさらなる進歩が期待される。
*記事内容はご経験や知見による,ご本人のご意見や感想が含まれる場合があります。
*AiCE,PIQEは画像再構成処理の設計段階でAI技術を用いており,本システム自体に自己学習機能は有しておりません。
●参考文献
1)Takagi, H., et al., Eur. J. Radiol., 101 : 30-37, 2008.
一般的名称:全身用X線CT診断装置
販売名:CTスキャナ Aquilion Precision TSX-304A
認証番号:228ACBZX00019000
一般的名称:全身用X線CT診断装置
販売名:CTスキャナ Aquilion ONE TSX-306A
認証番号:301ADBZX00028000
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