腹部領域(膵がん)におけるAquilion Precisionによるイメージングの重要性
是恒 悠司(大阪大学大学院医学系研究科放射線統合医学講座放射線医学教室)
Session2 高精細CTのエビデンスと臨床活用
2022-11-25
本講演では,CTで検出が難しいとされる早期膵がんを中心に,その現況や画像診断について述べた上で,膵がんにおけるキヤノンメディカルシステムズの高精細CT「Aquilion Precision」の重要性について報告する。
■早期膵がんの画像診断
1.膵がんの現況
膵がんの罹患数,死亡数は年々増加し,現在は年間約4万人以上が罹患している。また,膵がんは予後がきわめて悪いことで知られ,診断時に切除可能な病変は15〜20%1),5年生存率は全がん種が58.8%であるのに対して,膵がんは8.7%2)と報告されている。
ただし,ほかのがん種と同様に,早期に診断することができれば予後は大きく改善する。上皮内癌〔high grade pancreatic intraepithelial neoplasia(PanIN:膵上皮内腫瘍性病変),膵局所進展度:Tis〕で診断した場合の5年生存率は85.8%,10mm以下(T1a,T1b)で診断した場合は80.4%,10〜20mm(T1c)では大きく下がるものの50%を維持することから3),膵がんにおいて早期発見がいかに重要であるかがわかる。早期膵がんに厳密な定義はないが,本講演では5年生存率を基に20mm以下の膵がん〔high grade PanIN,および20mm以下(できれば10mm以下)の浸潤癌〕を早期膵がんと位置づけて説明する。
2.早期膵がんの検出率
早期膵がんの検出率について,20mm以下4)の膵がんでは造影CTで50%,超音波内視鏡(EUS)で94.4%,さらに小さい10mm以下5)の膵がんでは造影CTで33〜50%,EUSで80%以上と報告されている。しかし,日常臨床でAquilion Precisionを用いて膵がんを見ている経験から,Aquilion Precisionであれば検出率はもっと高いのではないかと考えた。
そこで,2018年4月〜2021年12月に前勤務先の国立がん研究センター中央病院でAquilion Precisionで撮影された症例について,早期膵がんの検出率を検討した。EUSによる測定で腫瘍径20mm以下,組織学的にadenocarcinoma(腺癌)と診断された78症例を対象に,演者を除く2名の放射線診断専門医が読影を行った。患者背景としては,平均年齢70歳(38〜86歳),男性44名/女性34名,腫瘍径中央値15mm(5〜20mm),腫瘍の局在は膵頭部38例/膵体部21例/膵尾部19例である。
読影の結果,膵がんの検出率は87.2%(n=68/78),10mm以下の膵がんの検出率は63%(n=5/8)であった。過去に報告された造影CTの検出率(20mm以下:50%,10mm以下:33〜50%)4),5)と比べ,Aquilion Precisionの早期膵がんの検出率は高い結果となった。
■早期膵がんの臨床画像
Aquilion Precisionで撮影した膵がん症例の画像を提示する。
1.症例1:約20mmの膵がん
図1は症例1(70歳代,男性)の画像で,aはSHRモード(0.25mm×0.25mm)で撮影して1024×1024マトリックスで再構成した画像,bはaの画像を基にシミュレーションで作成したNRモード(0.5mm×0.5mm)撮影,512×512マトリックス再構成の画像(NRsim)である。また,図1 cに,aを基にした解剖情報を図示する。本症例は約20mmの比較的大きな膵がんで,膵体尾部の境界領域に腫瘍が認められる。NRsimに比べSHRモードでは,拡張した上流膵管(MPD)や背側に走行する脾動脈(SpA)と腫瘍の接触の様子をより明瞭に視認でき,腫瘍の境界領域,前方浸潤,後方浸潤の状態を把握しやすい。
2.症例2:10mm弱の膵がん
症例2(80歳代,女性)は膵鉤部の10mm弱の膵がんで,図2 aにSHRモード,bにNRsim,cにaを基にした解剖情報を示す。膵がんの手術可否の判断においては,腫瘍と門脈系・動脈系との接触,浸潤の程度が重要となる。本症例は,腫瘍の腹側に上腸間膜静脈(SMV)が走行しており,SHRモードでは腫瘍とSMVの接触はごく一部(30°〜40°)に限られresectable(切除可能)と思われるが,NRsimでは腫瘍がSMV背側を半周弱覆っているようにも見え,borderline resectableとの区別がやや難しくなる(図2 d)。高い空間分解能を有するSHRモードは,膵がんの局所進展の評価にきわめて有用と考えられる。
3.症例3:CTでの指摘困難例
Aquilion Precisionでも腫瘍の指摘が困難な症例もあるが,このような症例においては副次的な所見を確認することが重要である。症例3(60歳代,男性)はCTで指摘困難な微小な膵がん症例で,画像では膵がん自体を指摘することはできないが,膵尾部における主膵管の拡張と,膵尾部の主膵管が途絶している部位に一致して限局的な膵臓の萎縮(くびれ)が確認できる(図3 a)。また,膵尾部の主膵管の途絶部位に一致してごく淡い遷延性の増強効果が認められ(図3 b),このような所見からEUSでの精査を推奨した。EUSでは主膵管の拡張部に乳頭状増殖が認められ,手術の結果,上皮内癌(high grade PanIN)と診断された。
このように,膵がんを視認できない場合にも,早期膵がんを示唆する所見をいかに発見するかが重要となる。
4.膵がんの存在を示唆する所見
膵がんの存在を示唆するCT所見としては,膵実質の限局的な萎縮(くびれ)や主膵管の拡張(図4 a)のほか,主膵管の途絶部位における遷延性の淡い造影効果(図4 b)が報告されており,これは膵がんがあることで周囲の膵実質に線維化を来し生じる変化と考えられている。また,主膵管が途絶している部位においては,視認できない膵がんの周囲に小さな囊胞を形成している症例がある(図4 c)。これは,膵がんがあることで末梢分枝膵管が閉塞して生じる所見と言われている。
前出のAquilion Precisionによる早期膵がんの検出率の検討において,Aquilion Precisionで同定困難であった10例について,膵がんの存在を示唆する所見の有無を確認した(表1)。腫瘍径による所見の傾向は見られなかったが,10例中8例は1つ以上の所見が確認されたことから,このような副次的な所見を見逃さないことが,日常臨床において重要であると考える。
■まとめ
高精細CTのAquilion Precisionは,早期膵がんの検出や膵がんの局所浸潤評価に有用である可能性が示唆された。また,早期膵がんのヒントとなる副次的な所見を見逃さないことが,日常臨床においては非常に重要である。
*記事内容はご経験や知見による,ご本人のご意見や感想が含まれる場合があります。
*病変・疾病の記載は医師による診断結果に基づきます。装置やソフトウエアが判断するものではありません。
●参考文献
1)Ryan, D.P., et al., N. Engl. J. Med., 371(11):1039-1049, 2014.
2)公益財団法人がん研究振興財団:がんの統計2021 がん診療連携拠点病院等における5年生存率.
3)Egawa, S., et al., Pancreas, 41(7):985-992, 2012.
4)Sakamoto, H., et al., Ultrasound Med. Biol., 34(4):525-532, 2008.
5)Yamaguchi, K., et al., Pancreas, 46(5):595-604, 2017.
一般的名称:全身用X線CT診断装置
販売名:CTスキャナ Aquilion Precision TSX-304A
認証番号:228ACBZX00019000
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