脳血管障害・頭蓋底外科シミュレーション画像の進歩
三上 毅(北海道公立大学法人札幌医科大学脳神経外科)
Session2 高精細CTのエビデンスと臨床活用
2022-11-25
当院にマルチディテクタCT(MDCT)が導入されてから20年以上が経過した。この間,更新ごとに最新機種が導入され,現在はキヤノンメディカルシステムズの高精細CT「Aquilion Precision」を含め4台が稼働している。手術シミュレーション画像の本質は,状況認識(最善と危機管理)と期待値の推定だと考える。これを念頭に置き,診療放射線技師の協力を得ながら試行錯誤しつつ経験を積み重ねてきた。
本講演では,高精細CTによる脳動静脈奇形(AVM),動脈瘤,神経血管減圧術(microvascular decompression:MVD)のシミュレーション画像について述べる。
■AVM
当院におけるAVMの画像支援と治療は,術前の3D CTAプランニング画像だけでなく,ICG,ナビゲーションシステム,塞栓術,ハイブリッド手術,fMRIなどの機能画像,顕微鏡などで大きく進歩してきた。その中でもMDCTを用いたCTAプランニングは初期の頃から力を入れてきた。当初から重視したのが骨透過イメージと流入血管イメージであり,術前に全体像の把握と流入血管の走行を容易にイメージすることができる。高精細CTでは,検出器のチャンネル数の増加で精度の高いデータの取得が可能になり,クリアなイメージが得られるようになったことが大きな進化である。
高精細CTによる症例を提示する。症例1(図1)は20歳代,男性で,左前頭葉運動野のAVM(a,b→)である。骨透過イメージ(図1 c)では全体構造が把握できるとともに,開頭やアプローチ,髄液排出部位を想定することができる。流入血管イメージ(図1 d)では,血管を色分けして表示し,どの血管から流入しているかが一目でわかるようにしている。脳や異常血管塊(nidus),流出静脈を透過することで流入血管を抽出でき,実際の術野はおおむねプランニング画像どおりで安全に手術を終了できた。
治療戦略においても,3D CTAは重要な役割を担っている。近年,術前塞栓術が増加しており,自験例でも2015年以降は70%の症例で術前塞栓術を施行している。術前塞栓術が可能かの評価も3D CTAに課せられた役割の一つである。症例2(図2)は60歳代,女性で,出血発症の左頭頂葉のAVMである。高精細CTによる3D CTAでは,流入血管がnidusをパッシングして(passing artery)正常脳へ向かう様子が明瞭に描出され,塞栓術なしで手術を行った。
過去13年のAVM66例の経験を振り返ると,Grade 3以下がほとんどを占め,治療成績はガイドラインと同等で良好だったが,ハイグレード病変については神経学的リスクが高く,術中モニタリングの新たな展開が必要と考えている。術前術中の血管評価に用いられるCTA,術中DSA,ICGは,それぞれが相補的な役割を担っているが,将来的にCTAが術中評価としてより簡便かつリアルタイムに実施できるようになり,術中DSAが不要になることを期待している。
■動脈瘤
当院の過去15年(2007年〜現在)の脳動脈瘤の治療件数(265件,指導例を含む)の1/5は,大・巨大動脈瘤や解離性脳動脈瘤などの治療戦略が複雑な動脈瘤である。複雑な動脈瘤に対する治療戦略では,血行再建術か,頭蓋底外科手技の併用かを判断することが重要となる。そのためには,穿通枝を含めた血管解剖と頭蓋底解剖の情報が必要で,それに基づいて最終的にクリッピングとトラッピングのどちらを選択するかを検討する。特に穿通枝障害は予後に大きな影響を及ぼす。なかでもanterior choroidal artery(前脈絡叢動脈)は,側頭葉内側,視索,大脳脚,外側膝状体,内包などを灌流し,閉塞により片麻痺,感覚障害,半盲を来す1)。内頸動脈(ICA)から1,2本が分枝し,10〜12%の頻度で合併症を来すという報告もある2),3)。MEPなどのモニタリング,ICG,内視鏡による確認を行うが,術前評価としてプランニング画像で走行を確認しておくことが重要となる。
症例3(図3)は,50歳代,女性の内頸動脈瘤である。高精細CTでは,前脈絡叢動脈(ピンク),後交通動脈(Pcom,グリーン)の穿通枝が明瞭に描出されており,動脈瘤の内側に張り付くように走行していることを確認できる(図3 a)。前脈絡叢動脈はもちろん,Pcomの梗塞でも高次脳機能障害が生じうることから,これらの穿通枝を温存して治療を進めることが重要である。また,静脈展開については,本症例では主に下吻合静脈方向に灌流していることがわかる(図3 b)。ある程度の大きさの動脈瘤では,頸部確保が必要な状況に備えて頸部血管も同時に撮影している(図3 c)。プランニング画像(図3 d)では,視神経との関係をMRIとのフュージョン画像で作成し,血管や動脈瘤との位置関係,圧迫や癒着の強い部分を認識しやすく表示している。術野から見たイメージは,脳実質や前床突起を透過させることで周囲を理解しやすくなる。実際の手技では,想定どおりにPcomが認識でき,サクションデコンプレッション法で動脈瘤を収縮させてクリッピングした。ICG,内視鏡にて前脈絡叢動脈の温存を確認して手術を終了した。
症例4(図4)は,60歳代,男性で,脳底動脈巨大紡錘状動脈瘤である。まれな症例だが,破裂によるクモ膜下出血,血栓化や圧迫による脳幹障害を来す。治療法としては,血管内治療,バイパス術による血行再建,クリッピング,コイル塞栓術など外科的あるいは血管内治療が試みられるが,確立したものはなく脳神経外科の中でも最もチャレンジングな疾患の一つである。解離から始まり経過観察を続ける間に動脈瘤が拡大しドーム状を呈した(図4 a)。血管造影では動脈瘤内部の乱流の影響を受けて穿通枝の描出は難しい(図4 b)。高精細CTではドームの一部から分枝していると思われる穿通枝(前脊髄動脈:anterior spinal artery)が確認できた(図4 c↑)。
■MVD
MVDは,顔面痙攣や三叉神経痛などに対して後頭部に500円玉程度の開頭をして神経を圧迫している部分(root exit zone:REZ)の血管を移動させて固定することで症状を改善させる手技である。REZは,root exit point(RExP),attached segment(AS),root detachment point(RDP)の3つの領域がほとんどだが,まれ(3%)にcisternal portion(CP)と呼ばれる神経の末梢部分を圧迫するパターンがあり,自験例でも7例経験している。
CPの圧迫例は,前下小脳動脈(AICA)の圧迫例が多くを占める4)〜6)。AICAが圧迫血管の場合,内耳や神経に向かう穿通枝が出ているため,MVDに伴う穿通枝障害によって合併症の頻度が高くなる。血管の移動が難しく,症状の改善率が低く再発率も高い6),7)。症例5(図5)は60歳代,女性で,顔面痙攣のAICAによる圧迫症例である。図5 aではAICAが第Ⅶと第Ⅷ脳神経の間を貫通していることがわかる。プランニング画像(図5 b)では内耳道に向かって戻る部分で第Ⅶ,第Ⅷ脳神経を貫通しており,AICAを頭側にずらして錐体骨にテフロンで固定することで顔面痙攣が消失した。
また,REZ以外の血管圧迫として椎骨動脈(vertebral artery:VA)の関与も検討する必要がある。われわれの検討8)では,34%でVAが直接的あるいは間接的に関与し,MVDの際にVAの移動を経験している。VAの圧迫が直接的か,あるいはAICAや後下小脳動脈(PICA)を挟み込むように間接的に圧迫しているか,全体の血管配置を観察することが必要で,精度の高いプランニング画像が求められる。
■まとめ
画像機器の進歩によって,解剖学的なシミュレーションはますます高精度になってきた。画像支援によって,手術の状況認識と期待値の推定を向上させることができ,今後もさらなる発展が期待できる領域である。
*記事内容はご経験や知見による,ご本人のご意見や感想が含まれる場合があります。
●参考文献
1)Vogels, V., et al., Stroke, 52(10):e660-e674, 2021.
2)Friedman, J.A., et al., J. Neurosurg., 94(4):565-572, 2001.
3)Kim, B.M., et al., Am. J. Neuroradiol., 29(2):286-290, 2008.
4)Ryu, H., et al., J. Neurosurg., 88(3):605-609, 1998.
5)Campos-Benitez, M., et al., J. Neurosurg., 109(3):416-420, 2008.
6)Chang, W.S., et al., Acta. Neurochir., 152(12):2105-2111, 2010.
7)Nagashiro, S., et al., J. Neurosurg., 75(3):388-392, 1991.
8)Mikami, T., et al., Neurosurgical Review, 36(2):303-309, 2013.
一般的名称:全身用X線CT診断装置
販売名:CTスキャナ Aquilion Precision TSX-304A
認証番号:228ACBZX00019000
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