PIQE:超解像DLRがもたらすprecise imagingの可能性
檜垣 徹(広島大学大学院先進理工系科学研究科)
Session1 Canon高精細技術
2022-11-25
本講演では,CTにおける超解像の必要性と理論について述べた上で,キヤノンメディカルシステムズのDeep Learning Reconstruction(DLR)である超解像画像再構成“Precise IQ Engine(PIQE)”の原理と画質特性について報告する。
■CTの画像化プロセスと超解像
CTの画像化プロセスにおいて高い空間分解能を得るためには,X線焦点は限りなく小さい点で,検出器素子は無限に細かく,無限の密度を持ち,生データを忠実に画像化できる画像再構成法を用いることが理想である。しかし実際には,焦点サイズはある程度の大きさがあり,検出器素子も面積を持つためサンプリング間隔が粗くなり,画像再構成ではノイズ抑制のためにさまざまなフィルタを適用するため,画像にはボケが生じ空間分解能が劣化する。
このように画像化プロセスにおいて生じた空間分解能の劣化を元に戻そうとする技術の一つが超解像である。超解像処理とは,単純にマトリックスサイズを大きくするということではなく,空間分解能が劣化する前の画像が持っていた情報を推定し,空間分解能が劣化した画像から理想的な画像を復元する処理である。必ずしもマトリックスの増加を伴う必要はないが,出力画像を正しく表現するためにマトリックスの増加が必要になることもある。
■超解像DLR“PIQE”の原理
キヤノンメディカルシステムズの高精細CT「Aquilion Precision」では,「Aquilion ONE」などの通常解像度の画像と比べて非常に高精細な画像を得られる。このような高精細画像を日常臨床で使用することをめざし,Deep Convolutional Neural Network(DCNN)の応用とAquilion Precisionの高精細画像を教師画像に用いることに着想を得て開発されたのが,通常解像度のCT画像を超解像技術によって高精細画像に近づけるPIQEである。
高精細CTは,焦点サイズが0.4mm×0.5mmと通常解像度CTと比べて小さく,検出器素子の面積も通常解像度CTの1/4となっている。さらに,“Forward projected model-based Iterative Reconstruction SoluTion(FIRST)”や“Advanced intelligent Clear-IQ Engine(AiCE)”といった高空間分解能の画像再構成法を使用でき,空間分解能の観点からより理想に近い画像の取得が可能で,超解像の教師データに適していると言える。
PIQEではDCNNをAquilion Precisionで撮影したデータでトレーニングしているが,学習データ作成においては2つのポイントがある。1つは,位置ズレのない高精細と通常解像度の教師画像ペアを得るために,高精細データからシミュレーションによって仮想的に通常解像度データを作成している。2つ目は,作成したデータに対してノイズを付加することで,仮想的に低線量で撮影したような画像を作成している。これにより,さまざまなノイズレベルに対してトレーニングすることができ,ノイズ低減効果を高めている。
■超解像DLR“PIQE”の画質特性
PIQEの画質特性についてファントム検証を行った。PIQEは現在,Cardiacモードのみ使用可能であり,検証では3Dプリンタにて作成した冠動脈造影を模したファントムを使用した。冠動脈造影ファントムは左心室を模した半球状で,周囲に70%狭窄がある模擬冠動脈を配置し,これを胸部ファントムの胸郭内に置いて撮影した。
撮影には「Aquilion ONE / GENESIS Edition」を使用し,SD(標準偏差)=23HU,マトリックスサイズは512×512,再構成FOVは200mmとし,PIQE Cardiacの比較対象として,従来再構成法の“Adaptive Iterative Dose Reduction 3D(AIDR 3D)”(FC 14),FIRST Cardiac,AiCE Cardiacで画像を再構成した。画像の評価方法としては,均一領域のCT値のバラツキを表すSD,ノイズの周波数分布を表すNPS,空間分解能の特性であるtask-based modulation transfer function(T-MTF)を計測した。左心室内腔の均一な領域のCT値から計測するNPSは,ROIの大きさの制約により低周波側は計測できないが,おおよその傾向は評価できる。また,T-MTFは,左室内腔と心筋の境界のプロファイルカーブからエッジ法で計測している(⊿HU≒350HU)。
1.画像ノイズ
図1に画像ノイズの結果を示す。SD(図1 a)については,AIDR 3Dに比べ,空間分解能に特化したFIRSTはノイズが多くなり,ノイズ低減に優れたAiCEはノイズが低下したが,PIQEではAiCEよりもさらにノイズが低下している。
また,NPS(図1 b)については,一般的なノイズ低減を伴う画像再構成法は低周波側のノイズ成分が増加する傾向にあるが,PIQEでは低周波側がやや増加するものの分布が平坦で低周波ノイズも抑制できている。このことから,PIQEではノイズの粒状性が細かく,診断しやすい画像を得られることがわかる。
2.空間分解能
図2にT-MTFの計測結果を示す。従来画像再構成法の中ではFIRSTが最も空間分解能特性が優れているが,PIQEはそれを上回る特性を示した。また,PIQEの再構成FOVを100mmにしてピクセルサイズを小さくしたところ,さらに空間分解能特性が向上したことから,ナイキスト周波数の制約により512マトリックスではPIQEのポテンシャルを十分に発揮できていないことがわかる。実際の臨床では心臓全体をFOV 100mmで再構成できないため,1024マトリックスの画像再構成法の登場が期待される。
また,10% MTFを計測すると,AIDR 3Dの0.77に対し,PIQEのFOV 200mmが0.97,FOV 100mmでは1.24まで上昇する。1024マトリックスの画像を作成できるようになれば,非常に高いパフォーマンスを臨床で利用できるようになると考えられる。
3.ファントム画像の視覚評価
図3に,ファントムの冠動脈の模擬狭窄部分のcurved MPR(CPR)画像を示す。FIRST(図3 b)では空間分解能に優れた画像が,AiCE(c)では非常にノイズの少ない画像が得られているが,PIQE(d)では高空間分解能とノイズ抑制を両立した画像が得られており,狭窄部分の血管内腔を良好に視認できる。また,FOV 100mmにすることで,さらに空間分解能が向上する(図3 e)。また,従来画像再構成法では狭窄部分はパーシャルボリューム効果によりCT値がやや低下しているが,PIQEではCT値が低下することなく描出されている。
4.臨床画像
図4は70歳代,男性の冠動脈CT画像である。身長177cm,体重82kgとやや体格の大きい患者で,少し線量不足の撮影となったため,AIDR 3D(図4 a)やFIRST(b)ではノイズが多くなった。AiCE(図4 c)を用いることでノイズを良好に抑制することができるが,PIQE(d)ではさらにしっかりとノイズを抑制でき,かつ空間分解能も高い画像を得られている。
同症例のCPR画像でソフトプラークによる約50%狭窄がある部分を拡大すると,PIQEではほかの再構成法と比較して,内腔とプラークの境界が明瞭に描出されていることがわかる(図5)。また,右側に分枝が確認できるが,PIQEでは分枝からさらに分岐する細い血管(←)も描出されており,PIQEが微細血管の描出においても有用であることがわかる。
■まとめ
超解像DLRのPIQEは,高精細CTの画像を教師として学習したDCNNを用いた画像再構成法であり,高精細CTのAquilion Precisionを有するキヤノンメディカルシステムズだからこそ開発することができた画像再構成法と言える。
PIQEは,非常に高い空間分解能特性を示し,従来のどの画像再構成法よりも高いT-MTFの応答を示した。冠動脈の分枝のような1mm以下の細い血管も明瞭に描出することができ,臨床における診断能の向上に期待が持てる。今後,1024マトリックスの再構成が可能になれば,さらにポテンシャルを引き出せるだろう。また,ノイズ低減効果も非常に高く,低周波ノイズも良好に抑制するため,ノイズの粒状性が細かく観察しやすい画像を得ることができる。さらに,線量が不足するような症例においても高い画質を維持することができ,さまざまな臨床応用が期待される。
*記事内容はご経験や知見による,ご本人のご意見や感想が含まれる場合があります。
*AiCE,PIQEは画像再構成処理の設計段階でAI技術を用いており,本システム自体に自己学習機能は有しておりません。
一般的名称:全身用X線CT診断装置
販売名:CTスキャナ Aquilion ONE TSX-305A
認証番号:227ADBZX00178000
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