脳血管疾患に対する超高精細CT 
齊藤 邦昭(杏林大学医学部 脳神経外科学教室)
Session 3 : CT

2020-5-15


齊藤 邦昭(杏林大学医学部 脳神経外科学教室)

本講演では,脳血管疾患の外科手術に超高精細CT「Aquilion Precision」をどのように活用しているかを報告する。

Aquilion Precisionの特長と適応

Aquilion Precisionは,スライス厚0.25mmの高分解能検出器により高い空間分解能を実現し,高精細な画像を取得できる。脳血管疾患においては,従来のCTでは困難だった末梢血管までを明瞭に描出する。さらに,脳血管疾患の手術において重要な静脈の描出能も非常に高い。当院では2017年3月にAquilion Precisionを導入して以降,脳神経外科・脳卒中科において,2020年1月までに約950例の検査を施行している。このうち,脳血管疾患の検査は,脳卒中389件,動脈瘤術前118件,動脈瘤術後108件などとなっている。

Aquilion Precisionを用いた手術支援

1.未破裂脳動脈瘤
未破裂脳動脈瘤は,脳ドックなどのMRAで発見されることが多い。破裂率が高くなければ,通常,MRAによる経過観察を行う。手術が必要になった場合は,術前精査を行うが,MRAによる評価に加えて,従来は血管撮影がゴールドスタンダードとされてきた。しかし,3D-CTAの画質が向上したことから,血管撮影を省略することも可能になっている。
症例1は56歳,女性で,クモ膜下出血のクリッピング術後のフォローアップ中に前大脳動脈末梢の未破裂脳動脈瘤が拡大してきた。Aquilion Precisionの3D-CTAでは,血管撮影と同等に,三つ瘤状の動脈瘤が描出されている(図1)。術前計画では,アプローチする角度から血管や動脈瘤,その周囲の情報を確認することが重要であるが,Aquilion Precisionは,血管撮影よりも3D画像を再構成しやすい。実際のクリッピング術でも,三つ瘤状の動脈瘤が確認できた。術前に形状を把握できることは,正確な手技に寄与する。Aquilion Precisionは精度の高い3D画像を得られるため,血管撮影を省略しても手術に対応できると考える。

図1 症例1:前大脳動脈末梢の未破裂脳動脈瘤 a:3D-CTA b:血管撮影3D画像

図1 症例1:前大脳動脈末梢の未破裂脳動脈瘤
a:3D-CTA b:血管撮影3D画像

 

症例2は,61歳,女性の中大脳動脈の未破裂脳動脈瘤であるが,MRAと比較して,Aquilion Precisionでは微細な血管が描出されている(図2 a,b)。アプローチする角度から見ると,動脈瘤に張りつくように微細な血管が描出され,動脈瘤への母血管の癒着も観察できる。さらに,動脈瘤の先端のblebも明瞭に描出されている(図2 c)。手術では,癒着を剥離する際に動脈瘤が破裂し大出血を起こす可能性があるが,Aquilion Precisionによる術前の情報を基に,正確に手技を進めることができた。また,術後フォローアップでは,侵襲性の観点から血管撮影よりもCTの方が推奨されるが,従来のCTではクリップが太く描出されるなど精度に課題があった。しかし,Aquilion Precisionではシャープに描出されており,動脈瘤の残存も確認できる(図2 d)。このように,超高精細CTは,術後フォローアップにも有用である。

図2 症例2:中大脳動脈の未破裂脳動脈瘤 a:3D-MRA b:3D-CTA c:3D-CTA(拡大) d:3D-CTA(術後フォローアップ)

図2 症例2:中大脳動脈の未破裂脳動脈瘤
a:3D-MRA b:3D-CTA
c:3D-CTA(拡大) d:3D-CTA(術後フォローアップ)

 

図3は,症例1の別の動脈瘤の術後フォローアップである。MRAではクリップによるアーチファクトで周囲の確認ができないが,Aquilion Precisionの3D-CTAではクリップ周囲の血管が明瞭に描出され,根元に小さな動脈瘤があることもわかる。

図3 症例1の別の動脈瘤の術後フォローアップ a:MRA b:3D-CTA c:血管撮影3D画像

図3 症例1の別の動脈瘤の術後フォローアップ
a:MRA b:3D-CTA c:血管撮影3D画像

 

未破裂脳動脈瘤の手術では,中大脳動脈などから分枝する穿通枝を確認しながら手技を進めることも重要である。症例3は,58歳,女性の左内頸動脈–後交通動脈の未破裂脳動脈瘤(図4)であるが,Aquilion Precision(a)は血管撮影(b)と同等に,中大脳動脈から分枝する穿通枝を描出できている。
このように,Aquilion Precisionは未破裂脳動脈瘤の術前精査,術後確認,フォローアップに非常に有用である。

図4 症例3:左内頸動脈–後交通動脈の未破裂脳動脈瘤 a:3D-CTA b:血管撮影3D画像

図4 症例3:左内頸動脈–後交通動脈の未破裂脳動脈瘤
a:3D-CTA b:血管撮影3D画像

 

2.クモ膜下出血
動脈瘤の破裂によって起こるクモ膜下出血では,緊急の処置が必要となるため時間をかけて撮影できないが,診断が難しい症例について,Aquilion Precisionが有用だった症例を示す。
症例4は,52歳,男性のクモ膜下出血で,血管撮影を数回施行したが,破裂の原因となる動脈瘤を検出できないため治療できず,経過観察を行っていた。発症後4日目のMRAでも動脈瘤を指摘できず,8日目にAquilion Precisionを施行したところ,脳底動脈から分枝した後大脳動脈に膨張があり(△),これが破裂した動脈瘤であると診断がついた(図5)。本症例はコイル塞栓術を施行したが,血管撮影では血管の角度から動脈瘤が見えにくく,Aquilion Precisionの情報を基に塞栓できた。侵襲性の高い血管撮影を診断目的で複数回施行することは負担が大きいため,診断が困難な脳動脈瘤の検出も可能なAquilion Precisionは非常に有用である。

図5 症例4:クモ膜下出血

図5 症例4:クモ膜下出血

 

3.脳動静脈奇形(AVM)
AVMでは,出血後,あるいは出血予防のためAVM摘出術を施行する。症例5は,69歳,女性のAVMで,左後頭頭頂葉皮質下出血を発症した。AVM摘出術は,一般的な脳出血と異なり多くの動脈が入り込んでおり,手術中に大出血を起こす可能性があるため難易度が高い。血管撮影では内頸動脈系,椎骨動脈系から血流があり,nidusの存在を確認できた。Aquilion Precisionでも血管が明瞭に描出されており,前大脳動脈系,中大脳動脈系,後大脳動脈系のfeederからnidusへの血液の流入や,drainerも含めた位置関係を把握した上で手術が可能であった(図6)。手術では,feederを剥離し,クリップで血流を遮断した上でdrainerも遮断してからnidusを摘出するが,これらの手技を行うためには,Aquilion Precisionによる血管の情報が有用である。
このように,Aquilion Precisionによって,術前画像情報を基にfeederやdrainerを遮断し,nidusを摘出することが可能になり,手術の安全性が向上すると考えられる。

図6 症例5:脳動静脈奇形(AVM)

図6 症例5:脳動静脈奇形(AVM)

 

4.その他の疾患
その他の脳血管疾患としては,虚血性の血管障害がある。症例6は,55歳,男性の右中大脳動脈閉塞症である(図7)。脳梗塞を起こしているものの,救うべき脳の範囲が広いことから浅側頭動脈–中大脳動脈バイパス術を施行することとなった。従来CTのCTAに比べて,Aquilion PrecisionのCTAは微細な血管までも明瞭に描出している(図7 a,b)。また,Aquilion Precisionの3D-CTA(VR画像)では,脳表の動脈までも描出できており,術前に吻合する血管などの計画を立てることが可能である(図7 c)。

図7 症例6:右中大脳動脈閉塞症 a:従来のCTのCTA b:Aquilion PrecisionのCTA c:Aquilion PrecisionのVR画像で描出した脳表の動静脈 d:実際の手術で観察された脳表の動静脈

図7 症例6:右中大脳動脈閉塞症
a:従来のCTのCTA b:Aquilion PrecisionのCTA
c:Aquilion PrecisionのVR画像で描出した脳表の動静脈
d:実際の手術で観察された脳表の動静脈

 

症例7は,58歳,女性の頭蓋頸椎移行部の硬膜動静脈瘻で,MRIで頭蓋頸椎移行部に異常血管が認められた。シャントのポイントを確認するには血管撮影が必要だが,先に施行したAquilion Precisionでは,椎骨動脈からシャントする血管や,その血液が流入していく静脈を観察できる(図8)。

図8 症例7:頭蓋頸椎移行部の硬膜動静脈瘻 a:3D-CTA b:血管撮影3D画像

図8 症例7:頭蓋頸椎移行部の硬膜動静脈瘻
a:3D-CTA b:血管撮影3D画像

 

まとめ

超高精細CT Aquilion Precisionでは,脳血管の詳細な描出が可能となった。未破裂脳動脈瘤の術前精査や術後確認,フォローアップに非常に有用であり,臨床を変えるほどの役割を担うようになっている。また,脳動静脈奇形や硬膜動静脈瘻の精査においても,血管撮影と同等の画像を得られるようになり,診断や術前計画に役立っている。今後の診断や術前計画におけるモダリティの選択が変わる可能性を有している。ただし,画像再構成や画像処理には時間を要するため,急性期の疾患での適用が今後の課題である。

 

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