ZGOが切り拓く整形領域における次世代の臨床画像 
柿木 崇秀(京都大学医学部附属病院 放射線診断科)
Session 2 : MR

2020-5-15


柿木 崇秀(京都大学医学部附属病院 放射線診断科)

当院では2019年8月より,キヤノンメディカルシステムズ社の次世代高分解能3T MRI「Vantage Galan 3T / ZGO」(ZGO)が稼働している。本講演では,ZGOの整形領域における臨床応用として,AIを用いたノイズ除去再構成技術“Deep Learning Reconstruction(DLR)”(製品名:Advanced intelligent Clear-IQ Engine:AiCE)”,圧縮センシング(compressed sensing:CS)技術“Compressed SPEEDER”,ultrashort echo time(UTE)技術“UTE Multi Echo”の有用性と可能性について報告する。

DLRが実現する高分解能イメージング

整形領域においては,腱板断裂や関節唇損傷など,通常のMRIの分解能では病変検出や診断が難しい場合がある。また,損傷のパターンや詳細な部位を認識しやすくするためには,高分解能画像が必要となる。分解能を上げて加算回数を増やせば,SNRの高い高分解能画像が得られるが,撮像時間の延長が問題となる。また,サーフェイスコイルを用いれば高分解能撮像が可能となるが,FOVを絞った撮像となるため,サーフェイスコイルと同等,もしくはそれ以上の分解能でより広範囲を撮像できれば理想的である。
AiCEは,ディープラーニングを用いたノイズ除去再構成技術である。ノイズの多い入力画像をどのように計算すれば高品質な教師画像に近づくかを学習させ,Deep Convolutional Neural Network(DCNN)を構築し,そのDCNNを装置に搭載することで,新たに撮像した低SNR画像のノイズが除去され,SNRの高い画像として出力される。実際に,分解能を上げた1回加算の低SNR画像(図1 a)に対し,10回加算ではSNRは改善するものの撮像時間が大幅に延長する(図1 b)。しかし,1回加算の画像にAiCEを適用することで,同じ撮像時間で10回加算と同等のSNRが得られる(図1 c)。
一般的なスムージングフィルタでノイズを低減する場合,隣接するピクセルやボクセルの値を平均化するため,骨などの輪郭情報が除去されてしまい画像にボケが生じる。一方,AiCEは,高周波成分であるノイズのみを学習させることで,ノイズだけが選択的に除去され,コントラストや信号値は変動しない。
図2は脂肪抑制プロトン密度(PD)強調画像であるが,3mmスライス厚の画像(a)と比較し,1mmスライス厚でAiCEを適用した画像(b)では,SNRの改善に加え,スライス厚が薄くなったことで部分容積効果の影響が減少し,棘上筋腱の大結節付着部の関節面の部分断裂()がより明瞭となっている。さらにAiCEは,ノイズのみを学習していることから画像種に依存しないデノイズが可能であり,2D画像はもとより,3D画像への適用も可能である。

図1 AiCEによるデノイズの効果

図1 AiCEによるデノイズの効果

 

図2 脂肪抑制PD強調画像へのAiCEの適用(棘上筋腱関節面側の部分断裂)

図2 脂肪抑制PD強調画像へのAiCEの適用(棘上筋腱関節面側の部分断裂)

 

Compressed SPEEDERによる検査時間短縮および高分解能化

1.技術的特長と臨床的有用性
一般的に,高分解能撮像では撮像時間が延長するため,高速化技術は非常に重要である。Compressed SPEEDERはCSとparallel imaging(PI)を組み合わせた高速化技術である。PIで用いられるMulti sensitivity Mapは,コイル1チャンネルあたり2セット以上の感度マップを作成することで画像展開の精度を向上させている。これをCSの逐次計算にも用いることで,画像展開の精度がさらに向上し,より明瞭な画像が得られる。また,Compressed SPEEDERはエンコード方向を長軸方向に設定しても,従来のPI(SPEEDER)で問題となる折り返しアーチファクトが生じないため,整形領域の撮像には非常に相性が良い。図3はPD強調画像であるが,SPEEDER 1.5倍速(3分02秒)の画像(a)で認められた内側半月板の逸脱と水平断裂()が,Compressed SPEEDER3倍速(1分36秒)の画像(b)でも画質が劣化することなく同様に確認できる。
Compressed SPEEDERは2Dのfast spin echo(FSE)法に適用可能であることから,2D撮像を多用する整形領域MRIのトータルの撮像時間の短縮に貢献する。また,撮像時間が短縮する分,より高分解能条件に設定することも可能となる。図4のように,低SNRの画像にCompressed SPEEDERを適用するとノイズが増加するケースもあるが(b左),さらにAiCEを適用することで,SPEEDERを適用した画像(a)よりも撮像時間を短縮しつつSNRも担保され,関節唇損傷()がより明瞭に描出されている(b右)。

図3 PD強調画像におけるSPEEDER(a)とCompressed SPEEDER(b)の比較(内側半月板の逸脱・水平断裂)

図3 PD強調画像におけるSPEEDER(a)とCompressed SPEEDER(b)の比較
(内側半月板の逸脱・水平断裂)

 

図4 Compressed SPEEDERとAiCEの併用による脂肪抑制PD強調画像(関節唇損傷)

図4 Compressed SPEEDERとAiCEの併用による
脂肪抑制PD強調画像(関節唇損傷)

 

2.3D撮像への適用
Compressed SPEEDERは3D撮像にも適用可能である(W.I.P.)。例えば,膝のfast advanced spin echo(FASE)3D T2強調画像(0.5mm iso voxel)を3分48秒と,短時間で撮像できる。また,キヤノンメディカルシステムズ社の高速3D撮像技術“Fast 3D”は,k-spaceの充填方法を工夫し,かつPIを組み合わせることで,画質を担保しつつ高速化を実現している。
一方,3D画像では,内側半月板損傷や外側半月板の後根断裂などを描出しにくいという報告が散見される1),2)。その原因として,エコートレインの増加に伴うブラーリングや分解能の低さが影響していると考えられる。

3.整形領域で理想的なMR画像とは
MR画像の特徴を整理すると,2D画像は面内分解能が高く体動に強いが,スライス厚が厚く,部分容積効果の影響を受ける。また,3D画像はthin sliceで撮像でき,MPRで任意の方向から観察できるが,分解能の限界やブラーリングの影響,撮像時間が長い,体動に弱いなどのデメリットがある。これらを踏まえると,整形領域における理想的なMR画像は,「高分解能かつthin sliceの2D画像が短時間で撮像できること」と言える。そこで,実際にthin sliceの2D画像を撮像し,AiCEを適用したところ,3D画像よりも短時間で,よりシャープな画像が得られた。
図5は,脛骨骨壊死および大腿骨・脛骨の軟骨欠損の症例である。FASE3D脂肪抑制PD強調画像(図5 a)と比較して,AiCEを適用した1mmスライス厚のFSE2D脂肪抑制PD強調画像(図5 b)の方が,より短い撮像時間にもかかわらず骨壊死の形態や軟骨の欠損()が明瞭に描出されている。

図5 AiCE適用の2D thin slice画像による脛骨骨壊死と大腿骨・脛骨の軟骨欠損の評価

図5 AiCE適用の2D thin slice画像による脛骨骨壊死と
大腿骨・脛骨の軟骨欠損の評価

 

UTE Multi Echo(W.I.P.)による定量的評価の可能性

画像診断においては,定性画像による診断に加えて,定量値による評価が求められている。その理由として,定性画像では診断できない異常所見の検出の可能性や,病変の早期発見や予後改善の可能性,定性画像ではとらえられない病変の経時的変化を観察できる可能性が挙げられる。整形領域においては,0.5ms以下にTEを短縮して撮像するUTE技術を用いることで3),従来のシーケンスでは信号値が低く定量的評価が困難であったT2値の短い靭帯や腱なども,信号を検出し視覚化および定量的評価をすることが可能となった。
UTEシーケンスは,k-space中心から放射状にサンプリングし,RFのハーフパルス直後からの信号収集を行うことで,TEを大幅に短縮する。UTE Multi Echoは,1スキャンで複数TEのデータを収集可能であり,短い撮像時間でT2値のマップやプロットしたグラフを取得できる(図6)。
UTEの臨床応用として,膝蓋腱にROIを取り信号を計測したところ,正常の膝蓋腱よりも膝蓋腱症の方がT2値がやや高かったことが報告されている4)。UTE Multi Echoでは,複数TEから得られた信号値を用いて,mono-exponential decay model(1ボクセル内に1種類のみのT2値が見られると仮定)やbiexponential decay model〔1ボクセル内に2種類のT2値(short T2値とlong T2値)が見られると仮定〕で良好なフィッティングカーブが得られるほか,short T2値やlong T2値を求めることもできる5)

図6 UTE Multi EchoによるT2*マップおよびプロット図(W.I.P.)

図6 UTE Multi EchoによるT2*マップおよびプロット図(W.I.P.)

 

まとめ

AiCEによって,撮像時間が延長することなく高SNRの高分解能イメージングが可能となった。従来は困難だった2D 1mmスライス厚画像は,AiCEを用いることで現実的な時間で撮像可能となり,診断能の向上が期待できる。
Compressed SPEEDERを用いることで,画質が劣化することなく撮像時間を短縮でき,ルーチンの検査時間の短縮や高分解能化が可能となった。AiCE,Compressed SPEEDERのいずれも,2D/3Dの画像種を問わず適用可能である。Fast 3Dも,高速化のオプションとして有用である。
さらに,UTE Multi Echoによって腱や靭帯などの定量的診断が可能となり,定性画像では指摘できない異常所見をとらえられる可能性がある。

●参考文献
1) Subhas, N., et al., Am. J. Roentgenol., 197(2):442-450, 2011.
2) Kijowski, R., et al., Skeletal Radiol., 41(2):169-178, 2012.
3) Robson, M., et al., J. Comput. Assist. Tomogr., 27(6):825-826, 2003.
4) Kijowski, R., et al., J. Magn. Reson. Imaging, 46(5):1441-1447, 2017.
5) Juras, V., et al., Eur. Radiol., 23(10):2814-2822, 2013.

 

●そのほかのセミナーレポートはこちら(インナビ・アーカイブへ)


【関連コンテンツ】
TOP