Deep Learning Reconstruction AiCE(Advanced intelligent Clear-IQ Engine) 
秋野 成臣(キヤノンメディカルシステムズ株式会社CT事業部CT開発部システム開発担当)

2018-12-20


画像再構成技術の進化・歴史

キヤノンメディカルシステムズはこれまで,検査の質の向上,画質改善,被ばく低減に貢献したいとの志の下,CT開発に取り組んできました。ハードウエアとともに進化を続けてきた画像再構成技術は,画像ベースの量子ノイズ低減フィルタ(QDS)に始まり,Hybrid IRの“AIDR 3D”や“AIDR 3D Enhanced”,そしてMBIR(Model Based Iterative Reconstruction)の“FIRST”へと発展してきました(図1)。私は,AIDR 3Dの開発から携わってきましたが,先生方にご意見をいただきながら,一歩一歩,画質改善を進めてこられたと実感しています。
そして今回,AI技術の一つであるディープラーニングを用いたDeep Learning Reconstruction(DLR)である“AiCE(Advanced intelligent Clear-IQ Engine)”を開発しました。AiCEは,次の3つを開発コンセプトとしました。(1)従来のHybrid IRやMBIRでは困難だった“低コントラスト検出能の改善”,(2) 高いノイズ低減効果による“低線量領域での安定した画質改善効果”,(3) 通常の“MBIRよりも短時間での画像再構成”とワークフローの向上です。本講演では,AiCEの概要について紹介します。

図1 画像再構成技術の進化・歴史

図1 画像再構成技術の進化・歴史

 

AiCEのアルゴリズム

AiCEのアルゴリズムは,大きく2つに分けられます(図2)。一つは,収集されたデータに対してDeep Convolutional Neural Network(DCNN)を通して高画質を得る再構成プロセス,もう一つがAiCEで最も重要となるトレーニング・プロセスです。トレーニング・プロセスは開発時に実施され,そこで学習・設計されたDCNNが装置に組み込まれます。
トレーニング・プロセスには2つのポイントがあります。1つ目は,学習ではインプットデータをターゲットデータに近づけるようにDCNNを最適化すること,2つ目が,DCNNのトレーニング精度は学習データに大きく依存するため,膨大なデータ,そして,高品質なターゲットデータが求められることです。
トレーニングは,膨大なlow quality dataと,FIRSTにより再構成されたhigh quality dataを用いて行われます(図3)。まず,インプットデータであるlow quality dataを初期のDCNNに通過させ,最初の出力データを取得します。次に,この出力データをターゲットデータであるhigh quality dataと比較します。この過程で,FIRSTに組み込まれている各種モデルが学習成分として抽出され,抽出された学習成分をDCNNにフィードバックします。膨大なデータを用いてこの過程を繰り返し学習することで,DCNNを強化・最適化します。
トレーニング・プロセスにおける最も重要な要素は,ターゲットとして用いるhigh quality dataです。AiCEの開発では,再構成時間を制約せずにFIRSTを強化・改良し,1症例ごとに画像の最適化を行った高品質なデータをターゲットデータとして利用しています。
このように,開発時にトレーニングして生成されたDCNNをCT装置に組み込むことによって,装置で収集されたデータの高品質化を行い,画質改善を実現します。

図2 AiCEのアルゴリズム

図2 AiCEのアルゴリズム

 

図3 AiCEのトレーニング・プロセス

図3 AiCEのトレーニング・プロセス

 

AiCEの画質

AiCEによる画質改善の一例を図4に示します。Catphanファントムを超高精細CT「Aquilion Precision」のSHR(super high resolution)モードで撮影し,FBP(FC18)とAiCE(Body)の低コントラスト検出能を比較しました。AiCEにより画像ノイズが低減し,細かいコントラストまで確認することができます。

図4 AiCEによる低コントラスト検出能の改善

図4 AiCEによる低コントラスト検出能の改善

 

AiCEの今後の展開

AiCEは現在,体幹部,軟部組織向けのBodyパラメータが実装されていますが,さまざまな部位,領域への展開を検討しています。各部位ごとに最適な画質を提供できるように,Brain,Lung,Cardiac,Boneのパラメータの開発を進めており,今後発表される新たなバージョンに順次実装していく予定です(図5)。
キヤノンメディカルシステムズは,すべてのCT装置での被ばく低減をポリシーとしています。AiCEは,Aquilion Precisionでの製品化からスタートしましたが,現在,「Aquilion ONE/GENESIS Edition」への適用をめざして開発を進めています(2018年11月より国内販売を開始)。AiCEは今後,GPUやハードウエアの進化を踏まえながら,そのほかの機種への展開も検討していきます。

図5 さまざまな領域へのAiCEの展開

図5 さまざまな領域へのAiCEの展開

 

キヤノンメディカルシステムズはこれからも,臨床の先生方,そして,患者さんに貢献できる開発を行っていきます。


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