超高精細CT Aquilion Precisionの胸部における有用性について
森谷 浩史(大原綜合病院放射線科)
Session 2
2018-12-20
当院では,2018年1月の新病院棟開院と同時に,国内で10台目となる超高精細CT「Aquilion Precision」が稼働している。地域の一般病院がAquilion Precisionを導入した初めてのケースであり,common diseaseの診断におけるエビデンスの確立に向けて多くの検査を行っている。本講演では,Aquilion Precisionの地域一般病院における臨床実用や,肺結節および気管支における有用性,胸部単純X線写真との対比,地域連携への対応などについて述べる。
■地域一般病院における臨床実用
症例1は,51歳,男性,肺気腫である(図1)。従来CT(80列CT「Aquilion PRIME」)の過去画像(図1 b)と比較して,Aquilion Precisionでは気腫の壁や小葉内の気腫分布,肺野内でグラデーションを呈する気腫領域がきわめて明瞭に描出されており(図1 a),従来CTの画像とは歴然とした差があることがわかる。
症例2は,22歳,男性,脛骨高原骨折である(図2)。MRI(図2 a)と比較して,Aquilion Precisionでは骨梁の異常が明瞭に描出されており(図2 b),骨梁を基にした診断にきわめて有用である。
症例3は,78歳,男性,胃粘膜下腫瘍(消化管間質腫瘍)である(図3)。Aquilion PrecisionのSHR(super high resolution)モードのデータを,AIのDeep Learning Reconstructionである“AiCE”を用いて再構成した画像(図3 b)と,NR(normal resolution)モードの画像(図3 a)を比較したところ,SHR+AiCEでは胃壁の構造や胃の周囲の血管,腫瘍内の造影効果まで,きわめて鮮明に描出されていた。仮想内視鏡画像などの3D画像は,腫瘍の位置関係の把握に有用であり,Aquilion Precisionは腹部領域にも有用と考えられる。
当院では現在,胸部撮影においては,Aquilion Precisionでは拡大CT,320列ADCT「Aquilion ONE」では動態CTを撮影し,Aquilion PRIMEは救急専用に使用している。2018年7月に撮影した1200症例の内訳を見ると,約半数をAquilion Precisionで撮影しており,主な対象は心臓を除く大血管,胸部,腹部,骨領域である。肺と骨の微細構造を精緻に,かつ微妙な濃度勾配も明瞭に描出できているほか,腹部では血管や壁などの微細構造がきわめて良好に分離できている。
■肺結節の診断における有用性
肺野領域におけるAquilion Precisionの有用性については,従来CTとの比較において,既存構造および病変性状の描出が良好であることが報告されている1),2)。そこで,当院の日常臨床でも同様の画像が得られるか検討した。
症例4は,89歳,女性,肺腺癌疑いである(図4)。従来CT(Aquilion ONE:図4 a)と比較して,Aquilion Precisionでは結節の輪郭が明瞭であり,すりガラス濃度部分の範囲や内部の気管支透亮,充実濃度部分がないこと,全体として収束しており,スピキュレーションが認められることなどが非常にはっきりとわかる(図4 b)。
症例5は,83歳,女性,乳頭型腺癌である(図5)。Aquilion Precisionでは,すりガラス濃度部分の濃度および緻密さが不均一であることが確認できる(図5 b)。病理像では,病変の80%が乳頭型で,周囲の淡い部分がlepidic patternを呈しており,Aquilion Precisionの画像は病理像を反映していると言える。
Aquilion Precisionは,肺小結節の質的推定に威力を発揮しており,当院ではフォローアップしていた症例が方針決定に至る例が増加している。
■気管支の描出における有用性
1.気管支の描出能に関する基礎的検討
Aquilion Precisionの基礎的検討として,ブタ伸展固定肺を用いて読影実験を行った3)。ブタ伸展固定肺の2048マトリックス画像で描出された2mm,1mm,0.5mm外径気管支の計26本を評価気管支とし,ブタ伸展固定肺を標準体型および肥満体型のファントム内に設置して,従来CT(Aquilion ONE)およびAquilion Precisionで撮影した画像と比較したところ,Aquilion Precisionの方がはるかに良好に描出されていた。
さらに,1mm外径気管支について,従来CTとAquilion Precisionのそれぞれ1024マトリックス画像の描出能を比較したところ,Aquilion Precisionでは約8割が描出できていたのに対し,従来CTでは約4割であった。そのため,当院では,気管支の読影にはAquilion Precisionの1024マトリックス画像を用いている。
2.CT bronchus signの描出能の検討
近年,経気管支的生検はCT画像ガイド下に行われることが多いが,その際,病巣への到達率が向上するCT bronchus signが描出されているかどうかが重要となる。そこで,当院にて2018年1〜6月に原発性肺がん疑いとなった末梢肺野結節(16症例/24結節)について,Aquilion Precisionと従来CT(Aquilion ONE)の描出能を比較したところ,従来CTの25%に対し,Aquilion Precisionでは83%と,きわめて良好に描出されていた4)。一方,描出可能な気管支次数の平均値は,従来CTの5.4に対しAquilion Precisionでは6.7と,差はそれほど大きくなかった。つまり,これまで経気管支的生検で目標まで到達し得なかった大きな理由の一つは,気管支末梢が腫瘍に到達する直前の部分が描出できなかったためであると考えられる。
症例6は,59歳,女性,約9mmの肺腺癌である(図6)。Aquilion Precisionでは,画像をかなり拡大しても画質が大きく劣化することなく,結節の性状が明瞭に確認できる(図6 a)。また,気管支樹の3D画像も,従来CTと比較して描出能の差は歴然である(図7)。
■胸部単純X線写真との対比
症例7は,46歳,男性,肺腺癌である。胸部単純X線写真と,Aquilion Precisionの1024マトリックス画像から作成したsummation画像(加算投影画像)を比較した(図8)。Aquilion Precisionの画像は,1024マトリックスでも胸部単純X線写真と対比可能な解像度があることがわかる(図8 b)。
Aquilion Pecisionでは,さまざまな画像処理・解析が可能な最高解像度のCTデータが得られることから,2048マトリックス対応,かつガンマカーブの調整が可能な3Dワークステーションの登場が待たれる。
■地域連携への対応
当院では,動態CTと超高精細CTを用いて肺がん検診の二次精査や肺がん術前の包括的造影CTなどを行う特殊外来の開設,他院の呼吸器外科との装置の共同利用契約,大学との共同研究などの地域連携を行っている。その際の課題として,Aquilion Precisionの0.25mmスライス,1024マトリックスの高解像度データを連携先医療機関のワークステーションではMPR表示できない可能性が挙げられる。そのため,当院では現在,MPR作成可能な簡易ビューワ付きで画像を提供している。
■まとめ
Aquilion Precisionは,微細形態を忠実に再現できる精密計測装置であり,通常の撮影でも従来CTより格段に高解像度画像が得られるため,あらゆる領域で威力を発揮するCTであると考えている。
●参考文献
1)Kakinuma, R., et al., PLOS ONE, 10・12, e0145357, 2015.
2)Yanagawa, M., et al., Eur. Radiol., 28・12, 5060〜5068, 2018.
3)森谷浩史:超高精細CTの気管支描出能の基礎的評価. 第41回日本呼吸器内視鏡学会学術集会, 2018.
4)森谷浩史・他:超高精細CTによる末梢肺結節の到達気管支の検討. 第10回福島県肺癌研究会,2018.
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