DLR「AiCE」の物理特性の検証 
檜垣  徹(広島大学大学院医歯薬保健学研究科先進画像診断開発)
Session 1

*最後に講演動画を掲載

2018-12-20


檜垣  徹(広島大学大学院医歯薬保健学研究科先進画像診断開発)

本講演では,まず画像再構成技術の変遷を説明した後に,キヤノンメディカルシステムズが開発したDeep Learning  Reconstruction(DLR)である“AiCE(Advanced Intelligent Clear-IQ Engine)”の原理と物理特性について,MBIR(Model Based Iterative Reconstruction)の“FIRST”との比較を中心に報告する。

■画像再構成技術の変遷

FBPから始まったCTの画像再構成技術は,320列ADCT「Aquilion ONE」の登場で4Dスキャンが可能となり,低被ばく撮影の必要性が高まったことを受けて,Hybrid IRである“AIDR”や“AIDR 3D”“AIDR 3D Enhanced”が発表された。さらに,「Aquilion ONE / GENESIS Edition」では,より低被ばく,高画質化が追究され,MBIRのFIRSTが開発された。
FIRSTは優れたノイズ低減効果が得られていたが,2017年4月に上市された超高精細CT「Aquilion Precision」では新たな問題が生じている。超高精細CTのSHR(super high resolution)モードでは受光面が小さくなるため,通常の線量だとFBPではノイズが増加してしまう。MBIRでは,ノイズが低減されているものの粒状性が粗い画像となるため,ノイズと構造物との区別が難しくなる。つまり,MBIRは,高コントラスト領域において,低線量撮影では通常の線量と同等の画質が得られ,通常線量撮影では高い空間分解能を得られる。ただし,低コントラスト領域において線量が不足していると,ノイズを低減できるものの粒状性が粗また,MBIRは順投影と逆投影を繰り返し行うため時間を要する。反復計算の回数を増やすことや,詳細な物理モデルを組み込むことで高画質化を図れるものの,現状では臨床での実用性を踏まえ処理時間を5分程度としているために,低コントラスト領域の画質改善が不十分になっている。

■DLR“AiCE”の原理

MBIRの問題を解決する技術として開発されたのが,DLRのAiCEである。AiCEは,いわゆるディープラーニングの技術であるDeep Convolutional Neural Network(DCNN)を用いた再構成法である。AiCEは,ノイズを除去しつつも微細な構造を明瞭に描出することが可能である。DCNNによるノイズやアーチファクトの低減は,以前から画像処理分野で広く研究が進んでおり,畳み込みフィルタ(convolution filter)を組み合わせたニューラルネットワークによって,構造がボケることなくノイズを低減できる。畳み込みフィルタは,画像処理の基礎的な技術であり,3×3,5×5などのマトリックスで表現される。単一の畳み込みフィルタでは単純な効果しか得られないが,DCNNでは多数の畳み込みフィルタを組み合わせることにより,複雑な機能を実現している。
DLRのAiCEは,「画質を向上させる」「ノイズを低減させる」ことを目的としたDCNNを用いている(図1)。AiCEの学習プロセスは,まず入力画像を未学習の「画質を向上させるDCNN」で処理して出力画像を得る。この出力画像を目標とする高画質の教師画像と比較することで,誤差を算出できる。さらに,誤差を0にするために,DCNNに誤差をフィードバックして,畳み込みフィルタのパラメータを調整・再処理する。このプロセスを繰り返すことで誤差が0になり,高画質画像が出力される。教師画像には特殊なMBIRで長時間かけて再構成処理した高品質データを使用し,入力画像には低線量撮影,短時間で再構成処理した低品質データを用いている。トレーニング時点では学習プロセスを反復するため多くの時間を要するが,臨床では1回のプロセスでFIRSTの3~5倍の高速処理が可能であり,短時間で高画質の出力画像を得ることができる。

図1 DLR“AiCE”の学習・適用プロセス

図1 DLR“AiCE”の学習・適用プロセス

 

■DLRの物理特性

われわれは,ファントムを使用してDLRの物理特性の検証を行った。まず,画像のノイズ特性として,均一な領域でのCT値の標準偏差(standard deviation:SD)と,ノイズの周波数特性(noise power spectrum:NPS)の計測を行った。さらに,高コントラスト分解能(空間分解能)の指標として,空間周波数ごとの応答特性(modulation transfer function:MTF),低コントラスト分解能(検出能)の指標として,タスクベースの定量的な低コントラスト検出能(machine observer)の数値を計測した。

1.画像ノイズ
画像のノイズ特性については,外径200mmのファントムでの計測を行った(図2)。Hybrid IRのSDが10を下回る辺りがルーチン検査での線量になるが,低線量から通常線量まではDLRのノイズが最も低いという結果が得られ,通常線量から高線量まではMBIRの方が低かった(図2 a)。また,ノイズの周波数特性は,75mAsで計測した(図2 b)。NPSはノイズの粒状性を示す指標であり,低周波ノイズでは粒状性が粗く,高周波ノイズでは細かくなる。FBPでは,全体的にノイズが多く含まれており,Hybrid IRとMBIRは高周波ノイズを効果的に除去できているものの,低周波ノイズはFBPとあまり差がない。DLRは,高周波ノイズだけでなく低周波ノイズも効果的に抑制されており,粒状性の細かい画像が得られている。

図2 DLRにおける画像のノイズ特性 a:SD b:NPS

図2 DLRにおける画像のノイズ特性
a:SD b:NPS

 

2.高コントラスト分解能(空間分解能)
高コントラスト分解能(空間分解能)については,高周波域でMTFの数値が高いほど空間分解能が高いと言える。このことから,FBPやHybrid IRの空間分解能は,MBIRやDLRよりも低いことがわかる(図3)。また,MBIRとDLRとの比較では,高周波(高コントラスト)の空間分解能はMBIRの方が優れているという結果になった。

図3 DLRの高コントラスト分解能(空間分解能)特性

図3 DLRの高コントラスト分解能(空間分解能)特性

 

3.低コントラスト分解能(検出能)
一方,低コントラスト分解能(検出能)の検証では,ノイズの周波数特性や対象物のコントラスト,サイズを加味した視認性を定量的な指標として数値化した。この結果,低線量から通常線量域では,DLRの検出能が最も高いという結果が得られた(図4)。さらに,臨床では使用しない通常線量の2~3倍の高線量域では,MBIRの検出能がDLRよりも高くなった。これは,DLRの画像が教師画像を超えて高画質化できないことを示している。

図4 DLRの低コントラスト分解能(検出能)特性

図4 DLRの低コントラスト分解能(検出能)特性

 

4.小括
これらの結果からDLRの物理特性をまとめると,画像のノイズ特性として,SDは低線量域でDLRの値が低く,高線量域でMBIRの値が低くなり,NPSはDLRが粒状性の粗い低周波ノイズを効果的に低減できていた。また,高コントラスト分解能(空間分解能)については,DLRはFBPやHybrid IRよりも高い値になるが,高周波域ではMBIRの方が優れていた。低コントラスト分解能(検出能)は,低線量から通常の線量域においてDLRが最も高い値となったが,高線量域ではMBIRの値の方が高い結果となった。ファントム画像では,低コントラスト・低線量の場合,DLRが最もノイズが少なく粒状性も細かく,小さな構造物を視認できている(図5)。一方,高コントラスト,高線量のファントム画像では,MBIRの方が構造物の境界が明瞭で辺縁も滑らかになっていて,オーバーシュート,アンダーシュートがなく,高精度な画像を得られている(図6)。

図5 低コントラスト・低線量のファントム画像 a:FBP(FC13) b:Hybrid IR(FC13) c:MBIR(Body) d:DLR(Body)

図5 低コントラスト・低線量のファントム画像
a:FBP(FC13) b:Hybrid IR(FC13)
c:MBIR(Body) d:DLR(Body)

 

図6 高コントラスト・高線量のファントム画像 a:FBP(FC13) b:Hybrid IR(FC13) c:MBIR(Body) d:DLR(Body)

図6 高コントラスト・高線量のファントム画像
a:FBP(FC13) b:Hybrid IR(FC13)
c:MBIR(Body) d:DLR(Body)

 

■まとめ

DLRのAiCEの特長は,MBIRが苦手としている低コントラスト領域の画質を大幅に改善し,幅広い線量域の入力に対して安定して画質を改善できることである。これらのことから,高コスト(高線量・長い画像再構成時間)の画像を,簡易的に短時間で得る技術だと言える。
また,低コントラスト・低線量といったSNRが低い場合はDLRが有利で,高コントラスト・高線量でSNRが高い場合はMBIRの方が高画質となる特徴を踏まえて,使い分けを行うことが肝心と考える。

 

 

 

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