CT被ばく管理:画像診断管理加算3の背景と波及効果
村松 禎久(国立がん研究センター東病院放射線技術部)
Session 1
2018-12-20
2018年4月に行われた診療報酬改定では,「画像診断管理加算3」が新設された。CT,MRI,RIの撮像において,患者1人につき月1回,300点が算定できるもので,医療放射線の適正管理に向けた推進力になると考えられる。本講演では,画像診断管理加算3新設の背景と,その波及効果について概説し,医療放射線の適正管理の方法を考察する。
■画像診断管理加算3の施設基準
画像診断管理加算3の施設基準には非常に多くの項目があり,まず前提条件として,画像診断管理加算2の施設基準を満たしている必要がある。この段階でかなりハードルが高いと言えるが,そのほかの主なポイントとして,特定機能病院であること(2017年4月現在で85病院),さらには,関連学会の定める指針に基づいた適切な被ばく線量管理(患者単位および検査プロトコール単位での最適化)の実績があることが挙げられている。
関連学会の定める指針とは,「日本医学放射線学会のエックス線CT被ばく線量管理指針」と明記されている(厚生労働省保険局医療課の平成30年3月30日事務連絡)。6項目ある指針の主なポイントとして,被ばく線量の記録は線量レポートによる電子的記録を残す,撮影プロトコールはDose Notification Value(NV)を適正に設定する,被ばく線量管理に当たっては,診断参考レベル(Diagnostic Reference Level:DRL)と対比し撮影プロトコールを見直す,CT装置の品質管理として始業時に水ファントムスキャンによる日常点検を行うことが挙げられる。
■画像診断管理加算3の背景と波及効果
画像診断管理加算3が新設された背景には,2008年に米国で発生したCT perfusion撮影時のX線過剰照射事故がある。この原因は,組織体制の不備と,被ばく管理に対するガバナンスの欠如ということで,非常に大きな問題となった。その後,関係団体がICTを活用した被ばく管理機能の強化に取り組み,ACR-DIR(American College of Radiology-Dose Index Registry)が構築され,2011年から実施された。
ACR-DIRは米国のナショナルレジストリの一つで,放射線検査のうちCTを対象とした線量管理登録事業である。米国中の医療機関からDICOM規格に準拠した線量レポート「DICOM CT RDSR」が匿名化されてACRが管理するデータベースに保存され,この収集されたデータをACRが検査ごとに解析し,全米および各施設の統計量がフィードバックされる。まさに,ベンチマークを作るための取り組みである。
一方,わが国では2011年に東日本大震災に起因する福島第一原子力発電所事故が発生し,国民の放射線被ばくへの危機意識が高まり,放射線検査に対する不安の声が多く聞かれた。こうした状況を受けて,日本医学放射線学会(JRS)および関連学会・団体がさまざまな取り組みを行った。JRSは,各医療機関の日常臨床における実際のCT検査データを収集・解析し,最終的にDRLs2015の策定へとつながった。DRLs2015では,成人については標準体格を体重50〜60kg(冠動脈のみ50〜70kg)として,CTDIvol(mGy)とDLP(mGy・cm)の値がモダリティ別・部位別に設定された。なお,これらの値については今後,機器や手法の進歩などに伴い,定期的に見直すとされている。
画像診断管理加算3を波及させていくために,厚生労働省よりJRSの管理指針の励行に加えて,2018年6月にはCT装置の安全管理体制を確保するよう通知が出され(課長通知)1),さらに,医療放射線の適正管理に向けて医療法の施行規則の改正が検討されているなど2),段階的な動きが見られる。
■Hop:JRSの管理指針の励行
JRSの管理指針では,被ばく線量管理ソフトウエアにて現状の撮影プロトコールを検査別・患者別に分類表示して解析し,プロトコールにフィードバックする。また,水ファントムスキャンによる継続的なCT装置の日常点検を行う。
以下に,当院のデータを用いたプロトコール解析の具体例を示す。対象期間は2017年8月〜2018年7月の1年間,対象機種は「Aquilion ONE」および「Aquilion ONE / ViSION Edition」,症例数は2万6535例で,「Vitrea」に搭載されている被ばく線量管理ソフトウエアを使用した。当院で最も多く行われている「CAP w CE(胸部〜腹部〜骨盤の造影1相撮影)」プロトコールについて,Aquilion ONEのデータで解析を行った。DRLの値と比較するため,体重50〜59kgの1059例のデータを抽出し,CTDIvolおよびDLPの値を比較すると,どちらもDRLに近い値ではあるが,超えていないことがわかる(図1)。続いて,Aquilion ONEによるCAP w CEの全データ(2877例)の線量分布の箱ひげ図を見ると,75パーセンタイル値はCTDIvolが22.7mGy,DLPが1833mGy・cmであり,これを初期的なNVとする3)(図2)。しかしながら,論文上でも考察されているように,一定の体格以上はNVを超えることがほとんどであり,操作者はわずらわしさを感じることが予想される。対策として,NVの設定値については体格別に予測上限値を設定し,それを超える場合は注意喚起されるような仕組みを検討する必要があると考える。また,初期的なNVを,CTのスキャン条件設定を行う“エキスパートプラン”に組み込んで検査を行うことは現実的ではないと思われる。なお,キヤノンメディカルシステムズのCTとVitreaでは,データの流れが一方的ではなく,データの共有および双方向でのやり取りも可能であり(図3),今後のさらなる研究開発と臨床応用が期待される。
水ファントムスキャンに関しても,われわれは現在,ファントム評価の電子的記録と,JIS規格の不変性試験の管理基準に適合しているかどうかを自動判定するソフトウエア(RYUKYU-ISG社)の開発に取り組んでいる。これにより,業務の効率化を図っていきたいと考えている。
■Step:CT装置の安全管理体制の確保
CT装置の安全管理体制の確保については,以前から医療法施行規則で決められているが,今回の課長通知1)で保守点検計画の策定機器としてCTとMRIが明記された。CT装置の登録および検査従事者の研修や,装置の保守点検の計画・実施・記録・評価・報告・保存の実践が求められる。医療現場における負担増加が懸念されるが,われわれは非常にわかりやすい医療機器管理ソフトウエア(メディカルクリエイト社製「3mec」)を用いて管理を行っている。
■Jump:医療放射線の適正管理
2018年秋公布され,2020年に施行予定の新しい医療法施行規則には,「管理者が確保すべき安全管理の体制」に医療放射線の適正管理が追加規定されており,主な内容としては,医療被ばくの線量管理・線量記録を残すこと,管理体制の取れる組織づくり,施設単位・個人単位の線量評価などがある。この対象となるのはCTだけでなく,血管造影検査やRI検査なども含まれる。これらのうち,個人単位の線量評価とは,何をもって評価したことになるのかが問題となる。そこで,当院におけるAYA世代(15〜39歳)のがん罹患と妊娠の事例を紹介する。
症例は,42歳,女性,乳がん(ホルモン受容体陽性)である。術前CT検査として,上腹部単純およびCAP w CEの撮影を行った。ところが,その1週間後に妊娠が判明したため,高精度な胎児線量の推定が求められ,モンテカルロシミュレーション法による線量シミュレーションを行った4)。本検査における胎児の被ばく線量は合計39.3mGyであり,国際放射線防護委員会(ICRP)のPub. 84で8週以下の胎児に影響が出るとされる閾線量の100mGyよりも大幅に少ないことから,被ばくによる障害の可能性はないことを,自信を持ってデータとして提示できた(図4)。
なお,RI検査においては,放射性核種による内部被ばくと,PET/CTなどのCTによる外部被ばくを同時に管理する必要があることから,われわれは独自のソフトウエア(住友重機械工業社,RYUKYU-ISG社)の開発を進めている5)。
さらに,2つ目のDoseとして,造影剤履歴管理がある。非接触型の自動情報認識技術であるRFID(Radio Frequency Identification)で管理している施設もあるが,普及には課題も多く残されている。
■おわりに
DRLの策定と画像診断管理加算3の新設は,医療放射線の適正管理に向けた推進力になると考えられる。CT検査の正当化を前提に被ばく線量の最適化を図り,記録・評価・保存するシステムを構築するとともに,各医療機関の検査従事者がチームとなって体制整備の準備を進めていただきたい。
●参考文献
1)厚生労働省:医政地発0612第1号医政経発0612第1号通知. 平成30年6月12日.
http://www.jart.jp/news/ib0rgt0000004fo4-att/isei_0612_1.pdf
2)厚生労働省:第6回医療放射線の適正管理に関する検討会.
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000211244.html
3)篠﨑正史・他:X線CTにおけるDose Index RegistryシステムによるNotification Valueの決定過程. 日本放射線技術学会雑誌, 70・1, 11〜18, 2014.
4)Fujii, K., et al. : Organ Dose Evaluations Based on Monte Carlo Simulation for CT Examinations Using Tube Current Modulation. Radiat. Prot. Dosimetry, 174・3, 387〜394, 2017.
5)Yanagisawa, K., et al. : Development of new database software seamlessly integrating information concerning PET/CT tests. SNMMI 2018.
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