Area Detector CTが変えたもの(心臓領域) 
隈丸加奈子(順天堂大学医学部・大学院医学研究科 放射線医学教室放射線診断学講座)
Session 2

*最後に講演動画を掲載

2017-12-25


隈丸加奈子(順天堂大学医学部・大学院医学研究科 放射線医学教室放射線診断学講座)

本講演では,320列Area Detector CT(ADCT)「Aquilion ONE」が心臓CTにもたらした変化について,臨床面での有用性を中心に報告する。

1心拍撮影の有用性

ADCTの登場により,最も恩恵を受けているのは心臓であると思われる。ADCTでは1心拍で冠動脈全体の撮影が可能となり,大幅な被ばく低減,画質の向上,さらに,同一時相で均一性の取れた造影画像の取得が可能である。
当院の心臓CTではより低被ばくな撮影をめざし,低心拍(50bpm以下)な症例に対しては360°分の投影データを用いてSNRを向上させ,管電流を下げることで,被ばく線量を70%低減している。また,体動補正ソフトウエア“Advanced Patient Motion Correction(APMC)”を適用した症例(55bpm以下)では,管電流を50%低減することで低被ばく撮影となる。
症例1は,DLP 54.4mGy・cm,実効線量0.8mSvと,1mSv以下の被ばく線量で冠動脈の非石灰化プラークが明瞭に描出されており,ナプキンリングサインと思われるハイリスクプラークの同定も可能であった(図1)。

図1 症例1:低被ばく撮影における非石灰化プラークの描出

図1 症例1:低被ばく撮影における非石灰化プラークの描出

 

サブトラクションCTを用いた高度石灰化病変の評価

ADCTの1心拍撮影によってほぼ位置ズレのないデータが得られるようになり,かつ複数回の撮影でも被ばく線量が抑制できることから,サブトラクションが実臨床でも施行されるようになってきた。
一方,高度石灰化症例ではサブトラクション解析が困難で,心臓カテーテル検査の適応となることが多いが,症例2(図2)はサブトラクション画像と心臓カテーテル検査の画像が非常によく一致していた。このように,良好なサブトラクション画像では,心臓カテーテル検査の必要性の有無をCT Angiography(CTA)よりも容易に判断できるようになると期待している。

図2 症例2:サブトラクションCTによる高度石灰化病変の描出

図2 症例2:サブトラクションCTによる高度石灰化病変の描出

 

心臓評価は形態から機能へ

1.CT Perfusionの有用性
近年では,虚血性心疾患の予後予測や,経皮的冠動脈形成術(PCI),冠動脈バイパス術(CABG)といった治療適応の判断において,冠動脈内腔の形態評価はもとより,機能評価が重要であると言われている。ADCTの登場により冠血流・血圧,心筋の評価をCTで低侵襲に施行可能となった。なかでも,CT Perfusion(CTP)に関しては,北海道大学におけるADCTによる「包括的心臓プロトコール」がよく知られている。包括的心臓プロトコールでは,始めにカルシウムスコアを撮影し,ATP負荷CTPを80kV,120mAと低線量で行う。その後,安静時CTPを施行するが,この時,一時的に線量を上げることで高画質のCTAを得ることができる。トータルでも13mSv程度の被ばく線量で撮影が可能となっている。
症例3は,左回旋枝(LCX)近位部が完全閉塞しており,PCI前の負荷CTPでは側壁の部分に安静時には見られない血流の低下が認められ,虚血と診断された(図3 a)。PCI後のフォローアップのCTPでは虚血が消失しており(図3 b),さらに,冠血流予備能(CFR)も0.87から1.74まで改善していた。このように,定量的で客観的な治療効果判定も,CTPによって可能となった。

図3 症例3:CTPによるPCI前後の血流の変化(画像ご提供:北海道大学・真鍋徳子先生)

図3 症例3:CTPによるPCI前後の血流の変化
(画像ご提供:北海道大学・真鍋徳子先生)

 

2.CTによる冠血流・血圧の指標

1)TAG
ADCTにて冠動脈全体を1時相で撮影可能となったことで,造影剤の立ち上がりにタイミング良く撮影できれば,冠動脈の近位部から遠位部に至る内腔の濃度勾配は,速い血流では小さく,遅い血流では大きくなる。つまり,何らかの病変により血流が低下している血管では,造影効果の差が大きくなる。この現象から,TAG(transluminal attenuation gradient)は冠血流・血圧の指標になりうるとして,現在研究が進められている。特に,冠血流予備量比(fractional flow reserve:FFR)との相関について検討されており,TAG+CTAの方がCTA単独よりも,FFR低下の検出感度・特異度が高いとの報告もある1)

2)ESS
急性期の冠動脈疾患の原因とされる不安定プラークの形成と破綻の鍵となるのは,内皮細胞にかかる剪断応力(endothelial shear stress:ESS)の異常であると考えられている2)。shear stressが低い場所では,内皮細胞の一酸化窒素の酸性が低下し,LDLコレステロールが取り込まれて増加する。これにより,内皮細胞のアポトーシスの促進または炎症が誘発されるという機序が働き,不安定プラークが形成されるため,ESSを非侵襲的に測定することは,今後,虚血性心疾患の診療フローにおいて非常に重要となる。
ADCTによって再現された血管内腔の構造がきわめて正確であることから,CT画像からESSを算出する試みが検討されている3)。ESSは非常に重要なパラメータであるため,今後の技術開発に大きな期待を寄せている。

3)FFR-CT
現在,冠血流・血圧の指標として大きく注目され,一部実臨床でも応用されているのがFFR-CTである。FFR-CTは,一般的にはCT画像によって得られた血管内腔のデータに基づき,数値流体解析を用いて仮想的な血流から冠血流・血圧を推定し,FFRを算出する。一方,現在,当院で臨床研究を行っている東芝メディカルシステムズの“CT-FFR”(W.I.P.)は,流体構造連成解析を用いている4),5)
CT-FFRの解析はオンサイトで施行可能であり,CTAの撮影時に,通常よりも少し広い曝射域(心位相の70〜99%)のマルチフェーズのデータを用いて,最適な複数心位相を抽出し,冠動脈の断面積を測定する。この実測データを数値流体解析に生かすことで,より正確な患者固有の値を算出可能となる。流体構造連成解析では,一次元の数値流体解析モデルを用いているため解析時間が短く,通常のワークステーションでも計算可能である。
当院では,CT室にリサーチ用のワークステーションを設置し,CT撮影後すぐに同室内でCT-FFR解析を行っている。解析手順は,まずワークステーションに取り込んだCTAデータの複数心位相のうち,1位相のみを使用して,自動およびマニュアルにて血管内腔を抽出する。次に,抽出した血管内腔をほかの位相にも当てはめて計算することで,主要な三枝の任意の位置のCT-FFRの値が自動で算出される(図4)。ここまでに要する時間は,平均約1時間である。
CT-FFR解析にはマニュアルでの作業が含まれるため,当院にて再現性に関する検討を行った。非医療従事者と新人の診療放射線技師の2名が,20分の訓練後にCT-FFR解析を行い,さらに20分の追加訓練後に再度解析を行ったところ,追加訓練後の熟練解析者との相関係数は0.83,絶対差も0.03未満であり,短時間の訓練で非常に良好な値が得られた6)
また,CT-FFRの診断能について,当院の症例にて検討を行った。対象は,虚血性心疾患の既往がなく,中等度〜高度のCADリスクを有し,ADCTによる1心拍の冠動脈CTAにて30〜90%の狭窄を少なくとも1セグメントに認め,90日以内にカテーテルFFRが施行された血管径2mm未満の30血管,27症例である。CT-FFRとカテーテルFFRとの相関はr=0.7,平均絶対差は0.04と,十分な相関が得られた。
さらに,冠動脈CTAの狭窄ベースの判断との比較におけるCT-FFRの機能的狭窄の検出感度・特異度は,カットオフを0.8とすると,それぞれ91%,79%と,CT-FFRの方がカテーテルFFR低下の予測精度が良いという結果が得られた。CT-FFRによって機能的狭窄をより高精度に検出可能であり,将来的には不必要なカテーテル検査が削減できると考えられた。
症例4は,労作時の息切れを主訴に狭心症(三枝病変疑い)精査目的で当院を受診した。カテーテルFFRにてLADとLCXを測定した結果,LADは0.73と低下しており,CT-FFRでも0.62と低下していた(図5)。LCXもCTAにて狭窄が疑われたが,カテーテルFFRは0.93,CT-FFRも0.91と正常であった(図6)。本症例は,CT-FFRの診断能でカテーテルFFRの省略が可能な症例と言える。

図4 流体構造連成解析によるCT-FFR計算結果(W.I.P.)

図4 流体構造連成解析によるCT-FFR計算結果(W.I.P.)

 

図5 症例4:狭心症(三枝病変)疑い症例のLADのカテーテルFFRとCT-FFR(W.I.P.)

図5 症例4:狭心症(三枝病変)疑い症例のLADのカテーテルFFRとCT-FFR(W.I.P.)

 

図6 症例4のLCXのカテーテルFFRとCT-FFR(W.I.P.)

図6 症例4のLCXのカテーテルFFRとCT-FFR(W.I.P.)

 

まとめ

320列ADCTの登場により,高画質な冠動脈血管内腔画像が低被ばくで撮影可能となった。また,機能評価では,今後に大きく期待できる解析が多数登場しており,ADCTは虚血性心疾患の診断フローを大きく変えていく可能性があると考える。

●参考文献
1)Wong, D.T., et al., J. Am. Coll. Cardiol., 61・12, 1271〜1279, 2013.
2)Chatzizisis, Y. S., et al., J. Am. Coll. Cardiol., 49・25,2379〜2393, 2007
3)Rybicki, F.J., et al., Int. J. Cardiovasc., Imaging, 25, 289〜299, 2009.
4)Hirohata, K., et al., Proc of SPIE, Vol. 9412 941220-14.
5)Ko, B. S., et al., JACC Cardiovasc. Imaging, 10・6, 663〜673, 2017.
6)Ri, K., Kumamaru, K. K., et al., JCAT, 2017 Sep. 20.

 

 

 

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