Area Detector CTが変えたもの(IR & DE) 
檜垣  徹(広島大学大学院医歯薬保健学研究科 放射線診断学研究室)
Session 1

*最後に講演動画を掲載

2017-12-25


檜垣  徹(広島大学大学院医歯薬保健学研究科 放射線診断学研究室)

当施設では,第1世代の「Aquilion ONE」と第3世代の「Aquilion ONE/ViSION Edition」の2台の320列 ADCTが稼働しており,東芝メディカルシステムズとともに,画質に注目した共同研究を行っている。
本講演では,モデルベース逐次近似再構成“FIRST”とDual Energy CTの画質について述べる。

モデルベース逐次近似再構成 FIRST

1.画像再構成の基礎
CTでは,撮影に相当する順投影と画像再構成にあたる逆投影のプロセスにより,画像を取得する。360°から収集した投影データを逆投影することで断面画像を再構成できるが,画像にボケが生じることが課題であった。これを解決するために,再構成関数(フィルタ)を使用するFiltered Back Projection(FBP)法や,FBP法を基礎技術とした逐次近似応用画像再構成法“AIDR 3D”が用いられてきた。しかし,高い空間分解能と低い画像ノイズを両立できる再構成関数は存在せず,領域によって再構成関数を使い分ける必要があった。
一方,FIRSTはまったく異なるアルゴリズムを採用している。対象物体を撮影して元の生データ(サイノグラム)を得るところまでは同じだが,FIRSTではそこから,フィルタをかけずに逆投影,再度の順投影を行い,元の生データと差分して,一致しない不要な情報(ボケの成分など)を元の生データから差し引いて生データを更新するというプロセスを反復することで,正しい再構成画像を得る。
さらにFIRSTは,さまざまなモデルが組み込まれたmodel-based IRであり,モデルに基づいてノイズやアーチファクトを除去する処理が行われる。超低線量(0.3mGy)で撮影した肺野CTを比較すると,FIRSTではAIDR 3Dを凌駕するノイズ低減効果が期待できることがわかる(図1)。

図1 超低線量肺野CT(拡大画像)

図1 超低線量肺野CT(拡大画像)

 

2.空間分解能の向上
FIRSTは,ノイズが低減するだけでなく空間分解能も大きく向上する。
高コントラスト領域(骨)について,ファントムによるAIDR 3DとFIRSTの空間分解能評価を行った(図2)。AIDR 3Dの骨用関数(FC30,FC31)は,高周波強調の関数のためオーバーシュートやアンダーシュートが生じるが,FIRST(Bone)ではそれらのない自然な画像を得られ(図2 a),edge profile curveでも同様の違いが見られた(図2 b)。MTFを算出したところ,低周波寄りの50%MTFではFC31の描出能が高いが,20%,10%,5%と高周波領域になるほどFIRSTが高い描出能を示し,空間分解能の高さが認められる(図2 c)。
足関節の画像を比較すると,骨用関数のFC30(図3 a)ではシャープに描出されているが,スクリューや骨皮質の周囲にアンダーシュートが認められる。FC13(図3 b)では,アンダーシュートが生じず自然な画像にはなるがボケが強い。FIRST(Bone)(図3 c)では,アンダーシュートが生じることもなく,かつ骨梁まで明瞭に描出されることがわかる。
中コントラスト領域(CTA)についても,ファントムによるAIDR 3DとFIRSTの空間分解能評価を行った(図4)。AIDR 3DのCTA用の関数(FC14,FC15)とFIRST(Cardiac)を比較すると,FIRSTが最もシャープに描出され(図4 a),edge profile curveでも同様であった(図4 b)。MTFはいずれの周波数でも,FIRSTが最も高い描出能を示した(図4 c)。
実際の画像で,冠動脈CTAのAIDR 3D(FC14)とFIRST(Cardiac)を比較した(図5)。冠動脈の起始部,末梢2か所,ステント部のprofile curve(図5 b)を見ると,FIRST と比べてAIDR 3Dではピークが下がり,血管が細くなる末梢ほどその傾向が顕著になる。また,冠動脈に沿ってprofile curve(図5 c)を描くと,ステント部ではAIDR 3Dがブルーミングアーチファクトの影響により極端に高いCT値を示すのに対し,FIRSTでは自然なCT値となっている。末梢では,空間分解能の高いFIRSTの方が明瞭に描出され,起始部から末梢まで,FIRSTの方がより連続性のある描出となっているのがわかる。

図2 高コントラスト領域(骨)の空間分解能

図2 高コントラスト領域(骨)の空間分解能

 

図3 足関節CT

図3 足関節CT

 

図4 中コントラスト領域(CTA)の空間分解能

図4 中コントラスト領域(CTA)の空間分解能

 

図5 冠動脈CTA

図5 冠動脈CTA

 

3.線質硬化現象の補正
FIRSTのビームハードニングモデルでは,生データ上で三次元の高精度な線質硬化補正を行うことで,従来よりも正確な補正が可能である。高吸収な骨に囲まれた頭部でも,線質硬化現象によるアーチファクトを除去し,かつ高コントラストでノイズの少ない明瞭な画像を得ることができる。
急性期脳梗塞の症例では,FBP(図6 a)ではノイズが多くコントラストが低いため梗塞巣を認識することは難しいが,FIRST(Brain LCD)(図6 b)ではMRIの拡散強調画像(図6 c)の梗塞巣に一致して灰白質,白質のコントラスト低下が明瞭に認められる。

図6 頭部CT(急性期脳梗塞)

図6 頭部CT(急性期脳梗塞)

 

Dual Energy CT

Dual Energy CTは対象物を2つの異なるエネルギーで撮影することで,Iodine mapやBasis Material Analysis,Material Decomposition,電子密度画像,実効原子番号画像など,さまざまな画像を得られる。ここでは,仮想単色X線画像(Virtual Monochromatic X-ray Image)について画質をテーマに解説する。

1.仮想単色X線画像による画質向上
仮想単色X線画像の大きな特長の一つに線質硬化補正があり,これにより画質を改善することができる。X線が物体を通過することで低いエネルギーが吸収され,実効エネルギーが高エネルギー側にシフトすることで生じるダークバンドや,高吸収な物質が一列に並ぶ,あるいは高吸収な物質に囲まれた領域でCT値が不正確になるといったアーチファクトが生じるのが線質硬化現象である。
Dual Energy CTの仮想単色X線画像では,これらの線質硬化現象を大幅に改善することができる。ファントムによる検討では,Single Energy(120kV)で生じていたアーチファクトが,同じ線量で撮影した仮想単色X線画像(65keV)では除去できている(図7 a)。
また,肝臓ファントムでは,Single Energy(120kV)では認識できない結節が,仮想単色X線画像(65keV)では,線質硬化現象が補正されてX線エネルギーが低くなることで,ヨードのコントラストが上がり,描出能が向上する(図7 b)。肝臓ファントムに結節をランダムに配置した画像で読影実験を行った結果,Single Energy(120kV)と比べ,仮想単色X線画像(65keV)では検出能が有意に向上した。

図7 仮想単色X線画像による画質向上

図7 仮想単色X線画像による画質向上

 

2.新しい仮想単色X線画像(W.I.P.)
仮想単色X線画像は,低エネルギーにするほどヨードのコントラストが向上するが,ノイズが急激に増加するという問題がある。東芝メディカルシステムズでは,この問題を解決するため,ノイズ増加を抑制する処理を組み込んだ新しい仮想単色X線画像を開発中である(W.I.P.)。
従来の仮想単色X線画像と新しい仮想単色X線画像(共にAIDR 3D FC13,65keV)を比較すると,新しい仮想単色X線画像ではノイズレベルが低下していることがわかる(図8)。FC13は線質硬化補正のない関数であるが,新しい仮想単色X線画像では頭部領域においても線質硬化現象によるアーチファクトがほぼない画像を得ることができる。この新手法では,病変検出能向上や造影剤の減量が期待でき,今後のリリースが待たれる。

図8 新しい仮想単色X線画像(W.I.P.)

図8 新しい仮想単色X線画像(W.I.P.)

 

 

 

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