当社CT技術紹介
津島  総(東芝メディカルシステムズ株式会社 本社CT営業技術 兼 臨床アプリ研究担当)

2017-5-25


本シンポジウムのテーマである“Advanced Application”,すなわち高度な解析ツールは,当社CTにおいて部位別・技術別に30種類以上あり,特にArea Detector CT(ADCT)との組み合わせによって高い臨床価値や相乗効果をもたらす。本講演では,当社のAdvanced Applicationの中から,Dual EnergyとSURE Subtractionの特長を概説する。

Dual Energyの技術的特長

ADCTを用いたDual Energy撮影の特長は,寝台移動なしで160mmのボリュームデータを,電圧の切り替え時間を含めても,わずか1秒程度で収集が可能なことである(図1)。また,生データベースの解析ツールであるRaw Data Based Analysis(rDE)によって,解析結果や基礎画質にもメリットがもたらされる。

図1 当社Dual Energyの技術的特長

図1 当社Dual Energyの技術的特長

 

1.ビームハードニング補正
rDEのメリットの1つはビームハードニング補正(Beam Hardening Correction:BHC)である。当社のDual Energyでは2種類のエネルギーデータから2種類の基準物質を仮定し,各基準物質(水と骨,水とヨードなど)のカウント値に合わせたビームハードニング補正を行うことで,従来のBHC関数による補正よりも高いBHC効果が得られる。これにより,CT値シフトの抑制とCT値精度の向上が期待できる(図2)。

図2 rDEによる高精度なビームハードニング補正効果

図2 rDEによる高精度なビームハードニング補正効果

 

2.電子密度と実効原子番号
さらに,当社のDual Energyでは,電子密度と実効原子番号の値を算出することができる。立神先生らの報告によると,電子密度ファントムによる検証の結果,それらの誤差はそれぞれ1%,3%と非常に小さく,解析精度が高いことが示されている1)。今後,これらの数値を用いた臨床評価等,新たな診断の可能性が期待される。

3.Basis Material Analysis(BMA)
当社のDual Energyでは,さまざまな解析ツールの基となる基準物質画像の描出や,グラフ解析も可能である。対象物を水やヨードなど2種類の物質から成っていると仮定することで,2種のカウント値を用いた連立方程式からそれぞれの含有量を算出することができる。これにより,これまでCT値という一次元の軸で相対表示していたデータを,水含有量,ヨード含有量といった二次元の分布で表現でき,そこから水画像やヨード画像といった基準物質画像の描出や,CT値だけでは弁別困難であった物質の弁別や,特定の物質の強調が可能となる(図3)。

図3 BMAによる基準物質画像の描出とグラフ解析による物質弁別

図3 BMAによる基準物質画像の描出とグラフ解析による物質弁別

 

4.Material Decomposition
当社の解析ソフトは,ユーザーが解析対象に合わせて物質式や最適なヨード勾配の値を任意に入力できる仕様となっており,例えば,ヨードマップにおける非造影物質の座標設定や,ヨード以外の成分の定義なども調整可能である。これにより,対象部位に合わせた画像の強調表示や,ヨード以外の物質の強調についても検討や適用が可能となる(図4)。

図4 Material Decomposition解析

図4 Material Decomposition解析

 

5.金属アーチファクト低減
Dual Energy CTの意義の一つに,金属アーチファクト低減(Metal Artifact Reduction:MAR)効果がある。Dual Energyで得られた仮想単色X線画像のうち,高エネルギー側の画像を使用することで,主にビームハードニング由来の金属アーチファクトを低減できる(図5b)。一方,MARについては,Single Energyによる金属アーチファクト低減アルゴリズム“SEMAR”を用いたアプローチも可能であり(図5c),金属やアーチファクトの種類に合わせて最適なMAR手法を用いることが重要となる。

図5 高keV画像とSEMARによる金属アーチファクト低減

図5 高keV画像とSEMARによる金属アーチファクト低減

 

6.基準物質画像からのノイズ低減(W.I.P.)
一方,仮想単色X線画像における低エネルギー画像は,造影剤コントラストの強調に有用である。仮想単色X線画像の対象エネルギーを下げていくと,ヨードの線減弱特性により造影剤のCT値が上昇する。図6に示すデータでは,45keVの画像において120kV相当画像の約2倍にまでCT値が上昇している。この時,画像ノイズが問題となるが,われわれは現在,基準物質画像からの画質改善に取り組んでいる。これにより,低エネルギー側のみならず,すべてのkeV画像における画質改善が図れるとともに,将来のCTを見据えたさらなる技術として役立つものと考えている。
なお,ヨード造影剤のCT値上昇および使用造影剤量低減へのアプローチは,Dual Energyに限らず,低管電圧とFull IRの逐次近似再構成技術「FIRST」の組み合わせによるアプローチも推進している。
また,電子密度や実効原子番号,基準物質解析などの先端解析ツールを80列CTに展開することや,SEMAR,FIRSTとの併用,さらには,脂肪解析や骨髄浮腫解析など,新たなクリニカルアプリケーションツールの開発も進めている。

図6 基準物質画像からのノイズ低減(W.I.P.)

図6 基準物質画像からのノイズ低減(W.I.P.)

 

SURE Subtractionの技術的特長

SURE Subtractionは,非造影画像と造影画像のサブトラクションを行うにあたり,非線形位置合わせを行うことで,高精度なサブトラクション画像を得る技術である。ボリュームスキャンとヘリカルスキャンのどちらにも対応しており,頭部,頸部,肺,冠動脈など,対象部位に合わせた最適化がなされている(図7)。骨や石灰化,ステントなどを除去できるほか,骨とヨードの弁別能の高さや,得られる画像のコントラストの高さなどがポイントとなる。また,臨床目的や対象部位に合わせて,Dual EnergyとSURE Subtractionを使い分けることも重要である。

図7 非線形位置合わせのイメージ

図7 非線形位置合わせのイメージ

 

●参考文献
1)Tatsugami, F., Higaki, T., et al.:Measurement of electron density and effective atomic number by dual-energy scan using a 320-detector computed tomography scanner with raw data-based analysis ;
A phantom study. J. Comput. Assist. Tomogr., 38・6, 824〜827, 2014.


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