最新技術がもたらす胸部CTの新たな潮流 
大野 良治(神戸大学大学院 医学研究科 内科系講座 放射線医学分野 機能・画像診断学部門/先端生体医用画像研究センター)
Session<2>

2017-5-25


大野 良治

2000年以降に多列検出器型CT(Multi-detector row CT:MDCT)が臨床応用されており,その検出器の列数は数年単位で4列,16列,64列と4の倍数で進歩を遂げてきた。そして,2007年以降は,それまでのMDCTの概念を覆す320列面検出器型CT(Area-detector CT:ADCT)の臨床応用が,世界で初めて東芝メディカルシステムズ社によるAquilion ONEによってなされたことで,MDCTの概念は大きく進歩したと言っても過言ではない。ADCTは,160mmの高精細ボリュームデータを0.5秒以下の1回転で取得することが可能であり,従来のヘリカルCTによるMDCTの概念を根底から変えるCT装置であった。
当初は東芝メディカルシステムズ社のみの臨床応用であったが,現在はGE社がRevolution CTとしてADCT装置を市場に投入したことを鑑みても,東芝メディカルシステムズ社および「Aquilion ONE」の開発に携わったさまざまな先人たちの先見性には改めて敬意を表したい。併せて,過去10年間の研究成果によって,ADCTは形態のみならず,さまざまな機能評価が可能な新たなCTとして発展する可能性を秘めていると考える。
本講演においては,ADCTの最新技術がもたらす胸部CTの新たな潮流を解説する。

ADCTにおける被ばく低減技術の進歩に関して

近年臨床応用が進められているIterative Reconstruction(IR)法に関しては,投影データから画像を生成する逆投影と,画像から投影データを生成する順投影を繰り返し行うことにより,画像再構成を行う完全なIR法に基づくModel based IR法と,IR法を応用して種々の投影データ側での前処理や画像データ側での後処理に統計学的なモデルを利用して画像再構成を行うHybrid type IR法に大別される(図1)。
一般に,Hybrid type IR法に関してはFiltered Back Projection(FBP)法で行われる投影データ側の前処理と画像化後の後処理の中に統計学的な処理を加えていると考えられ,前処理と後処理の中で統計学的処理を各メーカーがどのように加えていくかを工夫することで,より高速・簡便にIR法を臨床応用したものと考えられる。本手法は,FBP法をベースに画像化されている部分を有する手法もあるようであり,画像化される過程でフィルタ補正逆投影がなされるため,再構成関数の特徴を残した画像となり,ノイズ低減効果はあるものの,各社によってその程度は差が認められる。本手法は,東芝メディカルシステムズ社ではAdaptive Iterative Dose Reduction using 3D Processing(AIDR 3D)として臨床応用されており,われわれの報告では標準線量CTと比して胸部CT所見を同等に評価するには,FBP法が約1/3レベルの被ばく線量を必要とするのに対して,AIDR 3Dを使用することにより約1/7レベルの被ばく線量で同等に診断可能であることも示唆され,再構成時間も短いことから日常臨床における被ばく線量低減に直接役立つことが示唆されている1)。また,併せて後述するDynamic Contrast-Enhanced Perfusion ADCTにおける被ばく線量低減を定量的血流解析などに影響を与えず行うことが可能であり,さまざまな機能画像診断をADCTにて行うための基本技術要素であることも知られている2)
また,東芝メディカルシステムズ社ではModel based IR法に関してもForward Projected Model-Based Iterative Reconstruction Solution(FIRST)の臨床応用が開始されている。本手法では,初めに収集した投影データから初期画像を作成し,次いで光学系モデルや統計モデルなどのモデルを考慮し,Forward Projectionにより投影データを作成し,収集データと比較して差分を初期画像にフィードバックし,画像を更新して,アーチファクトのないシャープな画像へと更新する。併せて,初期画像をAnatomical modelをベースに,よりノイズの少ない画像へと更新する。以上の「投影データ処理での更新情報」と「画像データ処理での更新情報」を総合的に判断し最適な画像へと更新し,これらの処理を繰り返して収束した段階で最終的な画像を作成することで,よりノイズ低減を可能にした低線量CT画像を作成することが可能であり,AIDR 3Dに比してさらなる低線量CTの臨床応用を可能にすると考えられる。本手法によって,標準線量CTの4%レベルの被ばくである10mAまで画質を担保しつつ, Computer-Aided Volumetryの精度を維持することが可能であり3),AIDR 3Dと併せて,さまざまな用途におけるADCT検査の被ばく低減を可能にする重要な技術要素になる可能性を秘めていると言っても過言ではないと確信する。

図1 各社におけるModel based IR法およびHybrid type IR法の一覧

図1 各社におけるModel based IR法およびHybrid type IR法の一覧

 

Dynamic CE-Perfusion ADCTによる機能診断の臨床応用

ADCTの臨床応用として,他のヘリカルスキャン方式を採用しているMDCTとの絶対的な差別化は,寝台移動を伴わず,0.5秒以下の回転で160mmの高精細ボリュームデータを用いた血行動態評価が可能であり,真の造影灌流CT検査(CE-perfusion CT)を低被ばくで中枢神経領域や心臓領域において施行することが可能になった。同様に,胸部領域においても160mmの高精細ボリュームデータの取得は肺結節の血行動態解析においては十分臨床応用可能な撮影手法であり,本手法はDynamic 造影灌流面検出器型CT(CE-perfusion ADCT)による肺結節の良・悪性鑑別診断法として,臨床応用が2011年以降から継続的に進められてきた。本手法を用いることにより,PET/CTに比してより正診率高く,良・悪性鑑別診断,非小細胞肺癌の保存的治療効果予測や再発予測などが可能であることが明らかにされるのみならず,Single-Input Maximum Slope法,Single-Input Patlak, Plot法やDual-Input Maximum Slope法などのさまざまな血行動態解析モデルが診断精度に影響することも明らかにされてきた4)〜8)
また,2008年のDynamic CT, Dynamic MRIおよびPETなどのMeta Analysisによる検討で,これらの手法における良・悪性結節鑑別診断法には有意差がないことが示唆されたが9),われわれの検討ではDynamic CE-perfusion ADCTを用いることにより,Dynamic MRI with ultra-short TEおよびPET/CTに比して,より診断能高く肺結節を診断することが可能であるということも知られている6)。さらに,このDynamic CE-perfusion ADCTをAIDR 3Dと併用することにより被ばく低減を行いながら複数ボリュームで行うことと,東芝メディカルシステムズ社と共同開発中のソフトウエアの臨床応用により,全肺Dynamic CE-perfusion ADCTをさまざまな疾患で臨床応用可能になるので,今後の呼吸器学,循環器学や放射線医学などのさまざまな発展に貢献することが期待されている(図2)。

図2 全肺Dynamic CE-perfusion ADCT

図2 全肺Dynamic CE-perfusion ADCT
現在,東芝メディカルシステムズ社と共同開発中のソフトウエアを使用することにより,全肺Perfusion CTがAquilion ONEで可能となる。

 

Xenon-Enhanced ADCTによる新たな肺機能診断法の確立と臨床応用

現在,Dual Energy CTを用いたXenon CTに対する臨床的有用性がDual Source CTを中心に指摘されているものの,Aquilion ONEにおいても2回転方式におけるDual Energy CTが可能である。しかし,われわれは,全肺Dynamic CE-perfusion ADCT開発に合わせて開発した非線形位置合わせを応用をすることによる差分画像でのXenon-Enhanced CTを,より被ばく低減を図りながら簡便に行う新たな手法として報告した10)
本手法は,Dual Energy CTやVentilation SPECT/CTと同様にXenon の造影効果によって肺内換気を画像化することが可能であり(図310),喫煙などに伴う肺機能障害や慢性閉塞性肺疾患(COPD)の重症度評価が可能であることが知られている。したがって,今後,本手法を形態診断と併せて行うことにより,現在まで明らかにされていないさまざまな換気障害を画像化することが可能であり,気道疾患やさまざまな呼吸疾患の病態生理を解明することも可能になり,新たな画像診断学を確立することも可能であろうと期待できる。

図3 喫煙に伴うCOPD患者におけるSubtraction ADCT(Sub-CT)およびDual Energy

図3 喫煙に伴うCOPD患者におけるSubtraction ADCT(Sub-CT)およびDual Energy
ADCT(DE-CT)によるXenon-Enhanced ADCTとKrypton SPECT/CT DE-CTと同様にSub-CTにて肺内換気を画像化することが可能であり,Xenonによる造影効果はSub-CTの方がDE-CTよりも高いため,局所換気の差を明瞭に描出でき,Krypton SPECT/CTとの換気不均等の一致率も高い。

 

結 語

本講演においては,最新技術がもたらす胸部CTの新たな潮流を解説した。ADCTは,当初は東芝メディカルシステムズ社のみが臨床応用した面検出器型CTであったが,現在では他社からも臨床応用されるとともに,多くの研究者によってその臨床的有用性が示唆されている。今後,ADCTは低線量CT技術との併用により,新たな形態および肺機能CTの臨床応用の可能性も示唆されている。本講演がAdvanced Application CT Symposium 2017に参加された聴衆およびインナービジョン読者の日常臨床の一助になれば幸いである。

〈謝辞〉
稿を終えるに当たり,画像提供および技術説明などでご協力いただきました東芝メディカルシステムズ社・杉原直樹氏,藤澤恭子氏ならびに藤井健二氏に深謝いたします。

●参考文献
1)Ohno, Y., Takenaka, D., Kanda, T., et al., Am. J. Roentgenol., 199・4, W477〜485, 2012.
2)Ohno, Y., Koyama, H., Fujisawa, Y., et al., Eur. J. Radiol., 85・1, 164〜175, 2016.
3)Ohno, Y., Yaguchi, A., Okazaki, T., et al., Eur. J. Radiol., 85・8, 1375〜1382, 2016.
4)Ohno, Y., Koyama, H., Matsumoto, K., et al., Radiology, 258・2, 599〜609, 2011.
5)Ohno, Y., Nishio, M., Koyama, H., et al., Am. J. Roentgenol., 200・6, W593〜602, 2013.
6)Ohno, Y., Nishio, M., Koyama, H., et al., Radiology, 274・2, 563〜575, 2015.
7)Ohno, Y., Koyama, H., Fujisawa, Y., et al., Eur. J. Radiol., 85・1, 176〜186, 2016.
8)Ohno, Y., Fujisawa, Y., Koyama, H., et al., Eur. J. Radiol., 86, 83〜91, 2017.
9)Cronin, P., Dwamena, B.A., Kelly, A.M., Carlos, R.C., Radiology, 246・3, 772〜782, 2008.
10)Ohno, Y., Yoshikawa, T., Takenaka, D., et al., Eur. J. Radiol., 86 : 41〜51, 2017.

 

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