FIRSTを用いた低管電圧撮影による低被ばくと造影剤低減の両立 
吉田 理佳(島根大学医学部附属病院 放射線科)
Session<2>

2017-5-25


吉田 理佳

腎機能低下患者に対するヨード造影剤の使用では,診断や治療に必要な情報を必要最少限の使用量で得ることが求められる。本講演では,当院で2016年から取り組んでいるFull IRの逐次近似画像再構成技術「FIRST」を用いた,低管電圧撮影による低被ばくと造影剤量低減を両立した造影CT検査について,症例を供覧して報告する。

腎障害患者とヨード造影剤の使用

日常臨床の中で,腎機能が低下している患者に対する造影CT検査については,造影剤腎症などのリスクと診断に必要な画質を得るための撮影プロトコールについて,悩みながら検査を行うことが少なくない。
腎障害患者に対するヨード造影剤の使用については,日本腎臓学会,日本医学放射線学会,日本循環器学会が共同で2012年に,『腎障害患者におけるヨード造影剤使用に関するガイドライン』を作成している1)。ガイドラインでは,冠動脈造影における腎機能低下患者と造影剤使用のリスクについて,腎機能が悪いほど,造影剤使用量が増加する(造影剤量/クレアチニンクリアランスの値が高い)と造影剤腎症の発症率や透析導入率が上がることが示され,造影剤投与量は必要最少限とすることが推奨(グレード:A)されている。造影CTにおいても,できるだけ少ない造影剤量で診断可能な画質を得ることが求められる。

低管電圧撮影とFIRSTによる造影剤量の低減

最近のCT装置では,120kVより管電圧を下げた低管電圧撮影が可能になってきた。低管電圧で撮影することで,ヨード造影剤のCT値の上昇や低コントラスト分解能の向上が期待できる。一方で,低管電圧撮影ではノイズが上昇し,120kVと同等のノイズで撮影するには高い管電流(mAs)が必要となるというデメリットもある。
2016年,当院にFull IR逐次近似画像再構成技術のFIRSTが導入された。FIRSTは,raw dataと初期画像の順投影から作成したraw dataの差異を画像に逆投影する処理を反復する画像再構成法で,ノイズやアーチファクトの低減など,従来の画像再構成法では得られなかった多くのメリットがある。FIRSTのメリットとして,(1) 被ばく線量の低減,(2) 空間分解能の向上,(3) 低コントラスト検出能の向上,(4) 対象部位に合わせた最適化パラメータの適応,(5) ワークフロー性を重視した再構成速度などが挙げられる。ワークフローに関しては,16cmのボリュームデータで約3分,25cmでは約6分で再構成が行え,検査の流れを妨げることのない運用が可能になっている。

FIRSTを用いた低管電圧撮影

低管電圧撮影とFIRSTによって,低被ばくと造影剤量低減を両立した撮影が可能になる。当院では,FIRSTを使用した腎機能低下患者に対する体幹部のプロトコールとして,Body Sharp Standard(AIDR Mild)で80kV(120kV),AEC:SD19/5mm(13/5mm)で撮影を行っている〔( )内は従来法〕。造影剤量は従来の60%(600mgl/kg→360mgl/kg),被ばく線量としては約半分(49.2±13.5%)に低減されている。
当院における上記のFIRSTの撮影プロトコールを使用した症例を供覧する。

●‌症例1:EVAR(腹部大動脈瘤ステントグラフト内挿術)術前
図1は,EVAR術前の体幹部造影CTで,80kV,造影剤量60%で撮影し,FBP,AIDR,FIRSTで再構成を行った。左上肢から注入した造影剤によって,FBP,AIDRでは周囲に強いアーチファクトが出ているが,FIRSTでは造影剤()だけでなく,開胸術後の胸骨の金属アーチファクト()も軽減され,周囲の構造も見やすくなっている。MIP画像(図2)でも,FIRSTでは造影剤のアーチファクトだけでなく肩関節によるアーチファクトも軽減されている。

図1 症例1:EVAR術前

図1 症例1:EVAR術前
FIRSTでは術前の造影剤によるアーチファクトが低減されている。

 

図2 症例1のMIP画像

図2 症例1のMIP画像
FIRSTでは上肢の造影剤や肩のアーチファクトが低減されている。

 

●症例2:EVAR術後
図3は,EVAR術後のステントの局所を拡大した画像だが,FIRSTでは60%の造影剤量にもかかわらず,ステントの編み目まで描出されている。同様にMIP画像(図4)でも,FIRSTではステントの状態がより鮮明に描出され,つなぎ目の状態まで確認できることから,ステント破損の評価にも有用と考えられる。

図3 症例2:EVAR術後

図3 症例2:EVAR術後
FIRSTでは留置されたステントの編み目が確認できる。

 

図4 症例2のMIP画像

図4 症例2のMIP画像
FIRSTではステントのつなぎ目が確認でき破損の評価が期待できる。

 

●症例3:高分化型HCC
図5は,高分化型肝細胞癌(HCC)の術前の画像だが,門脈優位相において肝右葉の淡い低濃度を示す腫瘤が,FIRSTではより明瞭に確認できる。

図5 症例3:高分化型HCC術前

図5 症例3:高分化型HCC術前

 

●症例4:胆管がん
図6は,胆管がんの経過観察を行っている症例である。化学療法を繰り返し行っている場合など,腎機能が低下することがあり,適正な造影剤の使用が求められる。造影CTで,FIRSTでは以前のAIDRに比べて60%の造影剤量,約半分の被ばく線量で,ほぼ同等の画像が得られている。

図6 症例4:胆管がんの経過観察

図6 症例4:胆管がんの経過観察

 

●症例5:内腸骨動脈瘤
内腸骨動脈瘤の経過観察のMIP画像(図7)だが,以前のAIDRに比べて,造影剤量は60%である。撮影時期が違うため,右内腸骨動脈瘤内の壁在血栓の様子は異なるが,造影剤量が少ないにもかかわらず,分枝はFIRSTの方がはっきりと確認できる。

図7 症例5:内腸骨動脈瘤の経過観察

図7 症例5:内腸骨動脈瘤の経過観察

 

FIRSTのパラメータによる比較

FIRSTには,さまざまな適応部位(Body,Body Sharp,Lung,Cardiac,Cardiac Sharp,Bone)と,強度(Mild,Standard,Strong)のパラメータが用意されている。図8は,胆管細胞がん術前の症例である。FBP,AIDRと比較してFIRSTでは,肝門部の病変の辺縁がよりはっきりと描出される。肝内の血管などの構造物も確認できる。これをMild,Standard,Strongと強度を変えて再構成すると,Strongでは内部がのっぺりした印象になるが,いずれも腫瘍の辺縁は明瞭で,病変の広がりも確認できた(図9)。

図8 FIRSTと従来法との比較:胆管細胞がん術前

図8 FIRSTと従来法との比較:胆管細胞がん術前

 

図9 図8の症例のFIRSTのパラメータによる比較

図9 図8の症例のFIRSTのパラメータによる比較
Body Sharp(体幹部:軟部組織)

 

まとめ

低管電圧撮影とFIRSTを組み合わせた撮影方法では,従来の画像再構成法と比べて約6割の造影剤量でほぼ同等の画質が得られ,空間分解能も向上している。また,MIP画像やVR画像でも末梢血管の描出能は改善し,低コントラスト検出能も向上している。さらに,今回採用した撮影プロトコールでは,造影剤量に加え,被ばく線量も半分程度まで低減できており,腎機能低下患者だけでなく小児の撮影も含め,今後の臨床での有用性が示された。

●参考文献
1)日本腎臓学会,日本医学放射線学会,日本循環器学会 編: 腎障害患者におけるヨード造影剤使用に関するガイドライン2012. 東京,東京医学社,2012.

 

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