腹部インターベンションにおけるDE物質弁別の有用性
濱本 耕平(自治医科大学附属さいたま医療センター 放射線科)
Session<1>
2017-5-25
本講演では,腹部インターベンション(IVR)領域におけるDual Energy CT(DECT)の有用性について報告する。当院は年間約550件のIVRを施行しており,そのうち1/4程度の症例がDECT解析の対象となると思われる。IVR領域におけるDECTの有用性としては,物質弁別,金属アーチファクトの低減,ビームハードニングアーチファクトの改善が挙げられる。今回はその中でも,物質弁別について,当院の使用経験や検討を基に紹介する。
IVR領域におけるDECT
IVR領域において物質弁別が必要な高吸収体としては,ヨード造影剤,リピオドール,ガドリニウム造影剤,石灰化(炭酸Ca),手術糸などの術後関連物質,ステントやコイルなどの金属がある。この中で,最も使用頻度が高いのがリピオドールである。リピオドールは,ヨード化ケシ油脂肪酸エチルエステルで38(w/w)%のヨードを含有しており,CT画像では高吸収に描出される。肝動脈化学塞栓術(TACE)のほか,リンパ管造影,経皮的胸管塞栓術,血管塞栓物質(NBCA)やエタノールの溶媒に使用されることが多い。
DECTによるリピオドールの弁別については,これまで海外も含めて研究発表が少なく,ほとんど臨床応用が進んでいないと考えられる。当院でも,実際にリンパ管造影後のリピオドール沈着について,DECTのヨード造影剤の抑制画像(仮想単色X線画像)を作成したが部分的にしか抑制されず,ヨード造影剤の特異的係数(DE係数)を用いたDECTでは,リピオドールの弁別は限定的であるという結果となった。
リピオドールのDE物質弁別の検討
そこで当院では,リピオドールの弁別を行うために,DE係数の算出を試みた。東芝メディカルシステムズ社の「Aquilion ONE/Global Standard Edition」を使用し,DECTの撮影条件を135kV/50mA,80kV/290mAに設定。異なる希釈倍率のリピオドールでファントムを3回撮影し,その平均値からDE係数を算出した。その結果,リピオドールのDE係数は0.62であった。なお,ヨード造影剤のDE係数は0.55である。
この結果に基づき,実際の症例でもリピオドールの弁別が可能であるかを検討した。症例1は70歳代,女性,腹部大動脈瘤(AAA)術後の乳び腹水症例であるが,リンパ管造影の透視画像や単純CT画像では漏出点を同定できなかった。単純CTのaxial画像では,腹腔内に高吸収体がありリピオドールの漏出が示唆されたが,既存の石灰化も複数あり鑑別が困難であった。そこでDECTを施行し,ヨード造影剤のDE係数を用いて仮想単純CTで解析すると,リピオドールが抑制されて,石灰化が抑制されていない画像が得られた。しかし,リピオドールの抑制は部分的であった。一方,リピオドールのDE係数で解析すると,リピオドールは全体的に抑制され,より高精度のリピオドール弁別が可能であった。さらに,リピオドールの漏出と石灰化を鑑別するために解析すると,リピオドールの漏出が疑われる部位は,抑制画像(図1b↓)では抑制され,強調画像(c↓)では強調されて描出された。一方,石灰化と思われる部位では抑制も強調もされていない(図1d〜f↓)。反対に,石灰化のDE係数で解析すると,リピオドールの漏出部位も抑制されるため,弁別が困難であった。
症例2は70歳代,男性,肝細胞がん(HCC)のTACE後の透視画像で,血管に沿って石灰化のような部位が認められ,CTAPで門脈周囲に高吸収体が描出された。前回のTACE後には描出されておらず,リピオドールのDE係数で解析したところ,門脈周囲にリピオドールの沈着が認められた(図2)。そこで,前回の透視画像を確認するとリピオドールの残存が確認でき,血管外にリピオドールが漏出して,それが経時的な変化で門脈周囲に広がっていたとわかった。このように,標的外部位のリピオドール沈着の同定にも,DE係数を用いた弁別が有用である。
リピオドールとヨード造影剤の弁別の検討
IVRでは,リピオドールのほかにヨード造影剤に混ぜたマイクロスフィア(DEB)を使うTACEも行われているため,治療効果判定でリピオドールとヨードを弁別できれば臨床的に有用である。症例3は,60歳代,男性で,HCCに対するTACEを施行した。初回のTACEではリピオドールを使用したが,2回目にはヨード造影剤を含浸したDEB-TACEを行った。DEB-TACE後CTでは,ヨード造影剤の沈着と見られる高吸収体が認められたため,DECTでリピオドールとヨード造影剤との弁別が可能か検討した結果,両者の弁別は困難であった(図3)。リピオドール,ヨード造影剤それぞれのDE係数で解析しても,両方が抑制されてしまっている。しかし,再発症例においてリピオドールの沈着により淡い造影効果が見にくくなるといったことがあるので,リピオドールとヨード造影剤の弁別は難しくはあるが臨床上重要である。
東芝メディカルシステムズのDECTは,閾値の設定を変えて,リピオドールとヨード造影剤の弁別を行うことができる。Leeらは,TACE後にリピオドールの沈着があった患者に対してDECTを施行し,肝実質,viable HCC,大動脈をcolor-coded iodine CTのウインドウ幅としてヨード造影剤の造影される範囲との閾値に設定することで,造影効果の区別が可能になったと報告した1)。当院でも同様の検討を行ったところ,閾値を設定したリピオドール抑制画像では,一部分のヨード造影剤も抑制されてしまっている(図4)。DECTでは適切な閾値の設定は必要であるが,それだけでは物質の弁別は限定的であるという結果となった。
ガドリニウム造影剤のDE物質弁別
当院では,ヨード造影剤に対するアナフィラキシーショック歴がある患者に対し,ガドリニウム造影剤によるTACEを施行している。症例4は60歳代,男性のHCCで,S4とS2に腫瘤があり,シスプラチン(CDDP)を動注し,ガドリニウム造影剤を含浸したゼラチンスポンジで塞栓した。TACE後の100keVの画像では,S4に淡い高吸収体が描出され,ガドリニウム造影剤による増強効果と思われる(図5a)。また,ガドリニウム造影剤のDE係数を算出して解析した強調画像(図5b)では強調,抑制画像(c)では抑制されていることから,リピオドール同様,物質弁別を行うことが可能であるという結果が得られた。
実効原子番号と電子密度による物質弁別
当院では,DECTの物質弁別について,実効原子番号(Effective Z)と電子密度(Electron Density)の検討も行った。当院で使用したリピオドール,ヨード造影剤,ガドリニウム造影剤について体外ファントムで解析を行った結果,実効原子番号と電子密度は図6のとおりとなった。実際に実効原子番号でリピオドールを弁別できるか検討したところ,リンパ管造影ではリピオドールの沈着を表しており,また,リンパ節のリピオドール沈着と石灰化,骨のそれぞれの実効原子番号を見ると,分離は可能だと思われる(図7)。一方,電子密度ではリピオドールと石灰化,骨のプロットが重なる部分があり,弁別は困難だと言える(図8)。
このことから実効原子番号によるリピオドール弁別は可能と思われたが,ROIが小さい小病変では測定が困難で,集積の程度により測定値にバラツキがあり,また,体内測定時のゴールドスタンダードが存在しないという問題がある。
まとめ
DE係数を用いた物質弁別は,IVR領域において有用なツールとなりうる。ただし,画像を評価するには,適切な閾値の設定が重要であり,実効原子番号や電子密度の有用性については,今後さらなる検討が必要である。
●参考文献
1)Lee, J.A., Jeong, W.K., Kim, Y., et al. : Dual-energy CT to detect recurrent HCC after TACE ; Initial experience of color-coded iodine CT imaging. Eur. J. Radiol., 82・4, 569~576. 2013.
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