rDEを用いたBasis Material解析の有用性
非造影胆石評価への応用
喜友名 一(日本医科大学付属病院 放射線科)
Session<1>

2017-5-25


喜友名 一

日本医科大学では現在,東芝メディカルシステムズ社とRaw Data Based Dual Energy CT(rDE)における,主にBasis Material解析(BMA)の共同研究を行っている。本講演では,共同研究の内容を踏まえ,Basis Material解析の原理や性能について述べ,臨床応用の試みについても触れることとする。

Basis Material解析とは何か

Dual Energy CTとは,X線吸収に関する情報を複数保持したmulti parameter CTで,従来のSingle Energy CTよりも詳細な物質弁別や定量化が可能である。rDEを用いた物質弁別の原理の中心となるのは質量減弱係数であり,Basis Material解析は,この質量減弱係数そのものを用いて行う。
従来のSingle Energy CTは,物質固有の質量減弱係数とその物質の密度の積の線減弱係数によって規定されており,異なる物質(質量減弱係数)でも密度によっては同様のCT値を示すため,その二者の分離が困難なことが経験される。一方,Dual Energy CTでは質量減弱係数そのものを拾うことができる。その際,ほかの2つの基準物質の質量減弱係数と係数を用いて表現される(図1)。この2つの基準物質の質量減弱係数が既知の場合,係数a,bが決定され,それが物質固有の値,つまり質量減弱係数として振る舞う。
図2aに実際の解析画面を示す。右下の再構成画像にROIを設定すると,左下の解析グラフに座標データとしてプロットされる。図2bは解析グラフの拡大図であり,横軸が水の減弱係数との割合,縦軸がヨードの減弱係数との割合を示す。また,それぞれの座標ごとにカウントが異なり,実際には三次元ヒストグラムである(図2c)。

図1 rDEを用いた物質弁別の原理

図1 rDEを用いた物質弁別の原理

 

図2 Basis Material解析の解析結果の見方

図2 Basis Material解析の解析結果の見方

 

Basis Material解析の性能

1.ファントムによるBasis Material解析の物質弁別能の検証
Basis Material解析の性能を見るために,ファントムを用いてSingle Energy CTで同等のX線吸収値(CT値)を示す物質の物質弁別機能評価を行った。CT値が100HU前後となるような4種類(ガドリニウム造影剤,砂糖水,食塩水,ヨード造影剤)のファントムを作製し,Single Energy CTにて120kVで撮影し再構成した。当然,CT値のみでの物質の弁別は困難であった。そこで,再構成画像上に同一サイズのROIを設定し,Basis Material解析を行ったところ,4種類の物質を明瞭に分離できた(図3)。さらに,Basis Material解析では,グラフ上でROIを設定すると,その質量減弱係数(座標)を持った物質を再構成画像上で色付け表示することができる(図4)。先ほどのプロットデータを基にグラフ上でROIを設定したところ,4種類の物質を分離することができた(図5)。
このように,Basis Material解析は,再構成画像と解析グラフの双方からアプローチ可能なアプリケーションである。

図3 再構成画像からのBasis Material解析

図3 再構成画像からのBasis Material解析

 

図4 Basis Material解析結果の再構成画像への反映

図4 Basis Material解析結果の再構成画像への反映

 

図5 Basis Material解析結果からの物質分離

図5 Basis Material解析結果からの物質分離

 

2.線量低下に伴うBasis Material解析の変化の検証
現時点で,すべてのrDE解析のアプリケーションは,図1の式が基になり計算されている。Basis Material解析はベクトル量に基づくデータ解析であるが,そのほかのrDEアプリケーションであるHU Spectral Curveや実効原子番号(Effective Z),電子密度(Electron Density)に関してはスカラー量に基づく解析である。そのため,ベクトル量のデータをスカラー量に変換していることから,データロスが生じ,解析への影響が生じている可能性があると考えられる。そこで,その解析アプリケーションごとの性能差を検証する手段の1つとして撮影線量を下げた際の物質の弁別能について,ファントムを用いて検討を行った。
Catphan 700ファントムの10種類のモジュール領域に対し総当たりで合計45組の物質間で,抽出したデータが統計上異なる物質と言えるかどうかの検証を行った。方法は,AECモードのSD設定を8〜25まで1段階ずつ落とし,設定ごとに10スキャン行い,それぞれの条件下でSingle Energy CTのCT値,実効原子番号,電子密度,Basis Material解析の解析結果を算出した。そして,Single Energy CTのCT値,実効原子番号,電子密度については二次元ヒストグラム解析のため,全モジュール間(45組)での多重比較検定(Tukey検定)を行い,Basis Material解析は三次元ヒストグラムのため多変量解析(Hotelling解析)を行った。
Single Energy CTのCT値による解析では,SD8では45組すべてを分離できたが,SD25では平均44.2組という結果であった。実効原子番号ではSD8で平均33.2組,SD25で平均28.4組,電子密度ではSD8で45組すべて,SD25で平均44.7組,Basis Material解析ではSD8,25共に45組すべてが分離できた。Basis Material解析のプロットデータを見ると,SD8〜25のいずれにおいても重複データは一切なく,明瞭に物質分離できていた(図6)。これは,スカラー量とベクトル量の情報量の違いによるものと考えられた。

図6 SD25におけるBasis Material解析結果

図6 SD25におけるBasis Material解析結果

 

Basis Material解析の臨床応用

現在,Basis Material解析ができるCT装置は東芝メディカルシステムズ社製の「Aquilion ONE」シリーズのみであり,CT装置の性質上,動きの少ない臓器がBasis Material解析の良い適応と考え,当院では非造影胆石評価への応用を検討している。ただし,症例数が十分ではないため,ここでは造影胆石における画像評価を示す。
まず,手術で摘出された純コレステロール結石をファントムに封入して撮影し,画像上で結石にROIを設定してBasis Material解析を行い,それを基にグラフ上にROIを設定して,このROIデータを臨床画像に反映させた。
症例1(図7)は混成石である。単純CT(図7a)にて,胆囊頸部に周辺石灰化と中心部にコレステロール成分を含むような結石が認められる。胆汁と結石の中心部のCT値差はおよそ2HUであった。CT胆道造影(DIC-CT:図7b)では胆囊内に造影剤が移行しており,Basis Material解析にはやや不適切であるが,前述の解析データを基にROIを置くと,結石の中心の部分が色付けされコレステロール成分と考えられた(c)。
症例2(図8)は胆泥およびコレステロール結石である。単純CT(図8a)では胆泥やコレステロール結石が不明瞭であった。DIC-CT(図8b)では胆泥が主の画像に見え,この時点では陰性結石の指摘は困難であった。Basis Material解析(図8c)を行ったところ,頸部に扁平な塊状に色付けされる部分が認められた()。超音波でも同様のサイズの結石が指摘され,所見が合致した。

図7 症例1:胆石(混成石)の画像評価

図7 症例1:胆石(混成石)の画像評価

図8 症例2:胆泥およびコレステロール結石の画像評価

図8 症例2:胆泥およびコレステロール結石の
画像評価

 

まとめ

各社がさまざまな方式のDual Energy CTを製品化しているが,Basis Material解析のように質量減弱係数を基に物質解析を行うアプリケーションは,私の知る限り現時点ではほかにない。すばらしいコンセプトの下に開発されたBasis Material解析を,われわれは今後も共同研究者として実臨床に生かすための研究を続けていきたい。

 

●そのほかのセミナーレポートはこちら(インナビ・アーカイブへ)


【関連コンテンツ】
TOP