Aquilion ONEを用いたEndoleak診断
井上 政則(慶應義塾大学医学部放射線科学教室)
Session 2
2016-12-22
EVARにおけるendoleak診断の重要性
従来,腹部大動脈瘤はYグラフトを用いた人工血管置換術が主な治療法であったが,ステントグラフトが開発されたことにより,現在ではEVARが第一選択となっている。鼠径部を数cm切開してステントグラフトを挿入するEVARは,侵襲性が低いことから急速に普及したものの,人工血管置換術と異なり合併症のリスクが高く,生涯にわたって画像診断によるフォローアップを行う必要があるという問題がある。
EVARの合併症としては,ステントグラフトの狭窄や移動による塞栓などがあり,特に問題となるのが,動脈瘤内に血液が流入するendoleakである。ステントグラフトの留置が成功しても20~40%でendoleakが発生するため,画像診断は重要な役割を果たす。従来,endoleakなどの合併症の診断はCTが第一選択であったが,最近ではtime-resolved MR angiographyが優れているという発表もあり,海外では造影超音波も良好な成績を上げているとの報告もある。また,腹部単純X線撮影も,ステントグラフトの移動やズレを容易に診断できることから有用である。
現状で合併症の診断のゴールドスタンダートとなっているCTは,CT angiography(CTA)による血管の評価以外にも,関係する臓器の異常や石灰化を高精度に検出する。しかし一方で,endoleakの診断については,CTAだけでは不十分であるとされている。endoleakは動的な病態のため,血流の動きや方向を把握する必要があるものの,静止画像であるCTAではそれらを描出することが困難だからである1)。
endoleakは大きく5typeあり,そのうち4typeが合併症として問題となる。typeⅠは,ステントグラフトの上側・下側と血管壁との圧着が不十分な状態のために起こるもの,またtypeⅡは,下腸間膜動脈や腰動脈の血流の逆流によるもの,typeⅢは,ステントグラフトの接合部から血液が漏出するものである。そして,typeⅣは,ステントグラフト自体を血液が透過して起こるもので,その後消失する。以上のことから,endoleakの診断ではtype分類が重要であり,その後の治療マネジメントにも大きく影響する。特に,typeⅠとtypeⅢは,大血管の血圧が動脈瘤にもかかり破裂するリスクがあるので,早急な再治療が必要となる。また,typeⅡのendoleakは,側副血行路から動脈瘤に血液が流れているものなので,原則,経過観察でよいが,瘤径が拡大している場合は,再度治療を行う。
4D-CTによるendoleakのtype分類
当院では,typeⅡおよびtypeⅠが疑われるハイリスクの40症例に対し,CTAと4D-CT(DynamicVolume-CTA:DV-CTA)によるendoleakのtype分類の比較研究を行った。
Aquilion ONEを用いた4D-CTの撮影プロトコールを検討し,最も高い時間分解能が得られる連続撮影は被ばくが問題となることから,最短で1.4秒の間歇スキャンが可能なDV-CTAを用いることとした。endoleakは,typeⅠとtypeⅢの場合,造影剤注入後すぐに到達するため高時間分解能での撮影が求められ,typeⅡの場合,側副血行路を通ってから描出されるので,それよりも低い時間分解能でよい。そこで,DV-CTAでは,これらの2つの血流を別々の時間分解能で撮影するために,模擬心電波形を用いてR波に同期させ,間歇スキャンをコントロールできるようにした。実際のプロトコールでは,typeⅠとtypeⅢの描出のために0.5秒間隔で15秒スキャンし,その後,typeⅡを描出するために1.4秒間隔で10秒スキャンする2フェーズで撮影を行った。
さらに,CTAはMIP画像,VR画像,アキシャル画像,DV-CTAはそれに「Ziostation2」(ザイオソフト社製)のムービーモードやcurved MPR画像を加えて放射線科医が評価し,併せてDLPと実効線量も検討した。その結果,40症例のうち5症例で,endoleakのtypeが変更となった(図1)。これは,DV-CTAで血流情報を得られるようになったからと言える。
図2は典型的なtypeⅡのendoleakで,DV-CTAでは腰動脈からendoleakに流入する血液が描出されている。curved MPR画像でも,血流の方向を確認できた(図2 b)。
CTAではsac(→)が腰動脈とつながっているというだけでtypeⅡと診断していたが(図3 a),DV-CTAでは血流が腰動脈から先に描出されるため逆流してsacに流れていることがわかり,確実に診断できる(図3 b)。また,typeⅡのendoleakでは,逆流してくる血管が1本とは限らず,下腸間膜動脈や腰動脈が複数つながっていて,それらの血管がすべて動脈瘤に逆流しているわけでもない。
図4 aのCTAのアキシャル画像では,endoleakに2本の腰動脈(→)がつながっているように見え,一見typeⅡと診断してしまう。しかし,その後,瘤径が拡大したためDV-CTAを施行したところ,ステントグラフトの下側の圧着が不十分で,そこから血流がsacに向かっているのが描出され,endoleakから2本の腰動脈へと
流出していた(図4 b)。このことから,typeⅠbのendoleakと診断された。typeⅡであれば腰動脈に塞栓術を施行するが,typeⅠbでは再度ステントグラフトを圧着するか,ステントを追加することになる。このように,type分類が正確にできることで,確実な治療が可能となる。
leak診断のピットフォール
図5は,1997年に人工血管置換術を施行したが,その後,再び動脈瘤が隆起し,2013年にDV-CTAを施行した症例である。DV-CTAによりYグラフトの近位側吻合部から血液が漏出しているのが認められ(図5 a),1か所の漏出であることからEVARを施行し,追加用ステントであるカフを留置した。しかし,術後のDV-CTAでは,アキシャル画像でカフの下側にleakができているのが認められた(図5 b)。さらに,別のところにもleakが描出されていることから外科的手術を行い,グラフトの破損部から血液の漏出を確認した。改めて,EVAR術前のDV-CTAを確認してみると,近位側吻合部だけでなく,遠位側からも血液が漏出しているのが描出されていた(図5 c→)。
図6は,腹部大動脈瘤に対するEVAR施行後にtypeⅡのendoleakが認められ,動脈瘤が拡大してきたことからDV-CTAを施行した症例である。DV-CTAでは,下腸間膜動脈の起始部から血液がsacに流れているように描出され,腰動脈からも同じようにsacへ流入している(図6 a)。しかし,下腸間膜動脈と腰動脈の血管造影では,下腸間膜動脈の起始部が細くなっており,sacも描出できなかった。これは,下腸間膜動脈の起始部ははじめから閉塞しており,実際にendoleakに関与していたのは腰動脈だけであった。DV-CTA画像だけでなく,アキシャル画像を詳細に検討することで,下腸間膜動脈の起始部が閉塞しているのを確認できた(図6 b)。
まとめ
endoleak診断において,DV-CTAは毎回施行する必要はないものの,CTAだけでは不足している情報を得ることができ,診断に迷う時や瘤径が拡大している場合には非常に有用である。特に,type分類はCTAだけでは困難であり,DV-CTAでの動態の観察は必須と言える。
●参考文献
1)Funaki, B., Birouti, N., Zangan, S.M., et al. : Evaluation and treatment of suspected type II endoleaks in patients with enlarging abdominal aortic aneurysms. J. Vasc. Interv. Radiol., 23・7, 866~872, 2012.
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