FIRST技術紹介 ─ Forward projected model-based Iterative Reconstruction SoluTion
津島 総(東芝メディカルシステムズ株式会社CT営業技術 兼 臨床アプリ研究担当)
2016-5-25
「FIRST」は,Full IR(逐次近似再構成)技術です(図1)。CTで収集したraw dataと初期画像の順投影から作成したraw dataの差異を画像に逆投影する処理を繰り返し,再構成関数を用いずに画像を作成します。このワークフローの中にいくつかのモデルを取り入れることで,従来の再構成では成し得なかったさまざまなメリットが得られます。例えば,焦点サイズや検出器マトリックスサイズを考慮したオプティクスモデルを適用することで,従来よりも精度の高いバックプロジェクションが可能となり,FBPよりも高い空間分解能を得ることができます。また,統計学的ノイズモデルを適用すれば,劇的なストリークアーチファクト改善効果が得られます。このようにFIRSTは,再構成関数からの脱却とモデルベースの投入によって,大幅な画質改善効果が期待できます。
FIRSTの特長をまとめると,(1) 被ばく線量の低減,(2) 空間分解能の向上,(3) 低コントラスト検出能の向上,(4) ワークフロー性を重視した再構成速度,(5) 対象部位に合わせた最適化パラメータの適用,となります。本講演では,この5つの特長についてご紹介します。
被ばく線量の低減
一般撮影はきわめて低被ばくなことから検診などで用いられますが,臓器の陰になる領域や淡い陰影の診断は困難です。2つの淡い模擬結節を封入した胸部ファントムを撮影すると,一般撮影では病変の指摘が困難であることがわかります(図2 a)。また,一般撮影と同等の被ばく線量で撮影し,FBPで再構成したCT画像では,強いノイズやアーチファクトにより読影は困難です(図2 b)。一方,同じデータをFIRSTで再構成すると,ストリークアーチファクトがほぼ完璧に除去され,模擬結節が明瞭に描出されます(図2 c←) 。このように,FIRSTは診断能を落とさずに,被ばく線量を大幅に低減できる可能性を有しています。
空間分解能の向上
ラダーファントムを撮影した画像では,高周波強調関数を用いたFBPよりもFIRSTの方がより細かいスリットを描出できています(図3)。FIRSTでは再構成関数を用いていないため,構造辺縁におけるCT値のオーバーシュート(↓)やアンダーシュートもなく,微細構造をより正しく,かつ高い分解能で描出できることがわかります。
低コントラスト検出能の向上
低コントラスト検出能の評価法はさまざまですが,FBPと比較した視覚評価では,FIRSTにてノイズやストリークアーチファクトを低減しつつ細かな粒状性を維持できていることがわかります。また,軟部組織の低コントラスト境界が明瞭化され,診断能の観点でメリットがもたらされます(図4)。
ワークフロー性を重視した再構成速度
Full IRの課題は演算量の多さですが,FIRSTでは専用ユニットを用いることで,この問題を克服しています。
1ボリューム(320列,160mm)あたり約3分,また,従来のFBPやAIDR 3Dと並列での再構成処理が可能なため,通常のルーチン検査にはストレスを与えずに処理を行うことが可能です。
対象部位に合わせた最適化パラメータの適用
FIRSTでは,Full IR内部のパラメータを部位別に最適化することで,臨床目的,対象部位に合わせた最適な調整パラメータの選択(図5)や,3種類の強度(Mild,Standard,Strong)からノイズ低減率の選択が可能です(図6)。
現時点でLung(肺野),Body〔軟部組織(ノイズ低減優位)〕,Body Sharp〔軟部組織(粒状性,先鋭度優位)〕,Cardiac(心臓全般),Cardiac Sharp〔心臓(冠動脈内腔,先鋭度優位)〕,Bone〔骨(四肢,耳小骨など)〕の6種類の部位別パラメータがあり,さらに頭部パラメータについても現在開発を進めています。頭部領域では,ビームハードニング対策,コーンビームアーチファクト対策,低コントラスト改善を目的として調整を進めています。
まとめ
以上,5つの特長が示すとおり,FIRSTのコンセプトは,さらなる被ばく低減と診断能の向上です。FIRSTが実臨床現場で役立つ技術として,今後さらなる改良,開発を進めてまいります。
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