全身領域におけるFIRSTの臨床応用
粟井 和夫(広島大学大学院医歯薬保健学研究院放射線診断学研究室)
Session 2
2016-5-25
現在,広島大学では,頭部アルゴリズムを新たに搭載したFIRSTの評価を行っている。本講演では現行のFIRSTの全身領域への臨床応用,そして,新しい頭部領域の臨床的有用性を示すとともに,FIRSTの物理評価の課題について述べる。
頭頸部CTにおけるFIRST
1.頭部CT
症例1(70歳代,男性)は,大動脈弁置換術後に左上下肢麻痺が出現し,発症後数時間でCTが撮影された症例である(図1)。FBPと比べAIDR 3Dではノイズが改善されているが,FIRSTでは中心溝辺りの白質・灰白質コントラストの消失が明瞭である。MRIの拡散強調画像では同じ位置に高信号が認められ,急性期の脳梗塞と診断されている。
症例2(70歳代,男性)は,左半身不全麻痺を発症後2日にCTを撮影した(図2)。スライス厚1mmでも,FIRSTでは右後頭葉の低吸収域が明瞭に描出されており,急性期脳梗塞などの診断に有用であると思われる。
FIRSTでは,強力なビームハードニング補正およびコーンビームのアーチファクト抑制により,非常に強いノイズ抑制効果を得られるようになった。また,1mm前後の薄層スライスでもコントラスト分解能が良好な画像が得られ,あたかもMRIのT1強調画像のような印象を受ける。FIRSTでは,acute strokeの診断能が向上する可能性が高く,当研究室でも今後も検証を行っていく予定である。
2.頸部CT
症例3(60歳代,男性)は,内頸動脈ステント留置後にCTを撮影した(図3)。FIRSTは,空間分解能が高く,ステントのメッシュ構造も明瞭に描出されている。当初,ステント内腔に見られる黒い線(↑)がアンダーシューティングか内膜の増生かの判断が難しかったが,超音波画像にて内膜の増生であることが確認された。現在われわれは,ステント留置例について超音波画像と比較する前向き研究にも取り組んでいるところである。
また,CTでは頸の肩口はストリークアーチファクトが非常に強く出るため,診断が困難となることもある。FIRSTでは,頸椎症術後の症例4に示すようにストリークアーチファクトが劇的に改善されている(図4)。
3.正常例の側頭骨
側頭骨についてFBPとFIRSTを比較すると,一見,FIRSTは鮮鋭さに欠けるように思えるが,FBPでは蝸牛や三半規管に小さな気泡のようなものが認められる(図5→)。図5は正常例で,実際には気泡状のものは存在しないと考えられることから,高吸収体に隣接して出現したアンダーシューティングであると判断でき,FIRSTの方が真実に近い画像であると考えられる。
胸部CTにおけるFIRST
1.肺がんCT
われわれは広島県三次市で低線量肺がんCT検診を実施している。
症例5(60歳代,男性)は,低線量CT検診で要精検となり,腺癌stage1Aと診断された(図6)。低線量CT検診データをFIRSTで再構成した画像と,精検時の通常線量CTのAIDR 3Dを比べると,空間分解能はほぼ同等であることがわかる。低線量CT検診は高ヘリカルピッチ(1.38)で撮影しているため,心臓のブレが少なく,通常線量CTよりもむしろ空間分解能が上がっている印象さえある。
FBPとFIRSTのNPSを比較すると,FIRSTでは0.2mm−1以上の高周波領域のノイズが著明に抑制されており,画質向上の要因の一つと考えられる。
症例6(60歳代,男性)では,MIP像による末梢血管の描出を,通常線量CTのAIDR 3Dと低線量CT検診のFIRSTで比較した(図7)。線量を約1/4に抑えても,FIRSTで再構成することで同等の空間分解能を得られることがわかる。
さらに,われわれは,超低線量CTのトライアルも行っており,超低線量(0.15mSv)撮影でもFIRSTを適用することで,低線量(1.5mSv)のAIDR 3Dと同等の検出能が得られるものと期待される。
2.冠動脈CT
冠動脈CTAについても,AIDR 3Dと比べてFIRSTでは空間分解能の向上が見られる。胸痛により冠動脈CTAを撮影した症例の右冠動脈内腔のCT値を測定したところ,AIDR 3Dは297HU,FIRSTは343HUと差異があった。血管ファントムによる空間分解能の検証では,3mm径という微細な模擬血管においてAIDR 3DよりもFIRSTの方が高い空間分解能が得られ,FIRSTではより正確なCT値を得ていると推測される。
腹部CTにおけるFIRST
1.高度肥満者のCT
症例7(50歳代,女性)は,BMI38.5の高度肥満で,胃の縮小手術のために受診した(図8)。高度肥満の場合,特に肝臓の上方辺りはストリークアーチファクトが強く出て診断が困難なことも多いが,AIDR 3D,さらにFIRSTでは,ストリークアーチファクトが強力に抑制されることがわかる。
2.低線量肝Perfusion CT
肝Perfusion CTでは線量抑制のために低管電圧で撮影しているが,ノイズが多く,FBPではPerfusion演算のエラーが起きやすいと考えられる。FIRSTでは強力にノイズやストリークアーチファクトを抑制することができ,Perfusion演算画像も真実に近いものが得られているものと思われる(図9)。
FIRSTに関する物理評価の課題
われわれは従来,画像を評価する際にはSD値が低いほど高画質であると判断してきたが,FIRSTにおいてこの評価法は適切だろうか。
一般的に病変の視認性(low contrast detectability)は,ノイズ,コントラスト,オブジェクトサイズ,SNR,CNRといった指標で評価されるが,これらの指標は線形画像であることが前提となっている。非線形画像(AIDR 3D,FIRST)では,境界が明瞭であったり,コントラストがついているものは,それを際立たせる処理が行われ,反対にコントラストのない肝臓などではノイズを抑制した均一な画像が作られる。そのため,human observer performance testやmodel observer performance testといった複雑な検証が必要となり,FIRSTにSNRやCNRなどの指標を単純に適用すると,評価を誤る可能性があることを肝に銘じなければならない。
まとめ
FIRSTは,(1) 空間分解能向上によるCT値の精度向上,(2) 高周波領域での著明なノイズ低減,(3) アーチファクトの劇的な低減,(4) 強力なビームハードニング補正効果,(5) 臓器や部位に応じた画像の最適化という特長を持ち,これらを高精度にバランス良く実現していると言える。FIRSTの進化を把握するためには,SNRやCNRなどで単純に評価するのではなく,FIRSTの特長を総合的に評価しなければならない。今後も進化し続けるFIRSTをいかに臨床に適用して,患者さんのために使いこなすかが求められている。
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