FIRSTは循環器疾患の診断にインパクトをもたらすか?
宇都宮大輔(熊本大学大学院生命科学研究部画像動態応用医学)
Session 2
2016-5-25
本講演では,最新の被ばく低減技術であるFull IRの「FIRST」が,循環器疾患における冠動脈CTAや心臓CTにもたらすインパクトについて,当院での使用経験も含めて報告する。
冠動脈CTAにおけるプラーク評価の意義
循環器疾患において,冠動脈CTAや心臓CTは欠かすことのできない重要な検査となっている。冠動脈CTAは従来,被ばく低減を図りつつ,冠動脈をいかに高精細に描出するかが大きな命題であった。それが最近では,冠動脈の狭窄の評価に加えて,狭窄がもたらす機能情報や予後・治療方針にかかわる情報を得るための検査へと移行してきている。
冠動脈プラークの評価は,狭窄度とともにプラークそのものを見ることが重要である。冠動脈CTAでは,ナプキンリングサインと言われるプラークの辺縁がリング状に造影される現象があり,ハイリスクのプラークとして注目されている。ナプキンリングサインは,造影剤に染まらない壊死性コアの周囲に血管増生や線維化が起きていることを示しているが,高画質の画像で注意深く見なければ見落としてしまう可能性がある。
2015年にJCCT誌に発表されたFerencikらの報告では,冠動脈CTAにおけるCT値の分布やボリュームの計測に関する検討を行い,急性冠症候群の診断には,プラークのボリュームやremodeling indexなどの非常に細かい数値を計測することが有用であるとしている1)。現在,当院では,医用画像処理ワークステーションの「Vitrea」を用いて,プラークの濃度分布やボリュームの自動計測を行っている。従来,CTの短軸像からこれらを計測するのはかなり煩雑で,現実的ではなかったが,ワークステーションの技術進歩により可能となってきた。
ただし,プラークのCT値は内腔の増強効果により変動することが指摘されており,造影剤の濃度を上げていくことによって,プラークのCT値も上昇してしまう。CT値が変動することは,プラークの性状評価を見誤ることにもなるので,注意が必要である。
FIRSTによるプラークの評価
当院では,FIRSTがプラークの評価にどのような影響を与えるのか検討を行った。冠動脈模擬ファントム(狭窄モデル:フヨー社製)に,CT値80HUのプラークを用い,造影剤を入れて25%,50%,75%狭窄の状態にして,周囲に水を張った容器の中に入れた。内腔のCT値を350HUと450HUに設定して撮影し,FBP,AIDR 3D,FIRST(Cardiac,Cardiac Sharp)で再構成を行った。
CT値350HUの場合では,FIRSTのCardiac Sharpが視覚的に内腔の濃度が高く,75%狭窄部も明瞭に確認できる(図1○)。また,25%狭窄の部分では,プラークの境界が明瞭に描出されていて,わずかな狭窄や小さなプラークでも検出できる可能性が示唆された(図1←)。プロファイルカーブを見ると,75%狭窄では,FIRSTのCardiac,Cardiac Sharp共に真値に近い高いCT値を示している(図2)。一方で,FBPやAIDR 3Dでは,200HU前後という低い値となっている。冠動脈CTAでは,内腔の狭窄を過大評価しやすいことが指摘されているが,狭窄部のCT値が正しく表現されていないことが一因となっている可能性があると思われる。FIRSTのCardiac,Cardiac SharpのCT値は,本来あるべきCT値を示していると言える。
さらに,50%狭窄の結果を見ると,FBPとAIDR 3DでもCT値が上昇しているが,真値より低いCT値であった。一方,FIRSTの Cardiac,Cardiac Sharpではほぼ正確なCT値を示していた。
また,450HUの場合,75%狭窄の部分は,FIRSTのCardiac Sharpでは多少ノイズが見られるが,内腔がはっきりと描出されており,CT値も正確に表現されていた。内腔のCT値が450HUと高いため,FBPやAIDR 3Dでは,その影響でプラークのCT値も高くなってしまうが,FIRSTのCardiac SharpではプラークのCT値は100HU弱に抑えられており,真値に近いCT値を呈した(図3)。50%狭窄では,FBPやAIDR 3D共にCT値が上昇してはいるが,FIRSTではCardiac,Cardiac Sharp共に450HUという本来の値が得られ,プラークの形状も正確に描出できていた。
FIRSTによるステント内腔評価
当院では,FIRSTによる冠動脈ステントの内腔評価についても検討した。図4は,3mm径の冠動脈ステントをFBPとAIDR 3D,FIRSTのCardiac,Cardiac Sharpで再構成したものである。FBPやAIDR 3Dはステント内腔の濃度が視覚的にも高くなっているが,FIRSTのCardiac,Cardiac Sharpではステント部と非ステント部の内腔濃度に大きな違いは見られない。プロファイルカーブでも,FBPやAIDR 3DはステントのCT値に影響され,ステント内腔のCT値が800HUまで上がってしまっている(図5)。
症例1は,心筋梗塞の既往があり,LADの中間部にステントを留置している。FBPとAIDR 3D,FIRSTのCardiac,Cardiac Sharpで再構成した画像を比較してみると,真のCT値は400HU前後だと思われるが,AIDR 3Dではステント内腔のCT値が500HU近くまで高くなっている。一方,FIRSTのCardiac,Cardiac Sharpは400HU前後であった(図6)。
FIRSTによる心筋ダメージの評価
心筋ダメージの評価は,遅延造影MRIがスタンダードであるが,当院ではFIRSTの適応も検討している。遅延造影画像を見ることで,心不全の重症度や心筋ダメージを非侵襲的に評価することができる。また,心筋の線維化や微小血管の機能障害も心不全の経過を左右する重要な因子であるが,遅延造影の有無を見ることで,冠動脈造影上で病変がなくても線維化や機能障害が起きていることを定量的に評価できる。
症例2は,心筋症が疑われ,動脈硬化と冠動脈狭窄を除外する目的で冠動脈CTAを施行し,検査の最後に遅延造影CTを追加した。300mA,80kVpの低被ばく撮影のため,FBPでは評価できず,AIDR 3Dでは心尖部にわずかに遅延造影が認められるが,FIRSTではさらに明瞭に描出されている(図7←)。心筋症患者の場合,ペースメーカーを埋め込んでいる患者も多くMRIが施行できないことがあり,遅延造影CTは臨床的意義が大きいと考える。今後も検討課題として取り組んでいきたい。
◎
冠動脈CTAにおいて,Full IRのFIRSTはCT値を正確に評価できるためプラークの質的診断に有用であり,プラークの境界を明瞭に描出し定量評価にも優れている。また,ステントの内腔を高精度に描出することが可能である。さらに,冠動脈CTAの後に遅延造影CTを追加することで,低被ばくでの心筋ダメージの評価ができるようになってきた。
●参考文献
1)Ferencik, M., Mayrhofer, T.,, Puchner, S.B., et al. : Computed tomography-based high-risk coronary plaque score to predict acute coronary syndrome among patients with acute chest pain ; Results from the ROMICAT II trial. J. Cardiovasc. Comput. Tomogr., 9・6, 538~545, 2015.
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