小児領域におけるFIRSTの臨床応用 ─ 小児循環器領域におけるFIRSTの可能性
宗内 淳(独立行政法人地域医療機能推進機構(JCHO)九州病院小児科)
Session 2
2016-5-25
当院の小児循環器の入院患者数は年間450〜500人で,年間150例の先天性心疾患手術を行っている。主に心臓カテーテル検査や心エコー図検査を行っているが,ADCTなどの登場でCTの診断能が向上したことで心臓CT検査も年々増加しており,年間約160件となっている。本講演では,小児心臓CTにおけるFull IRの被ばく低減技術である「FIRST」の臨床応用と今後の可能性について述べる。
小児心臓CT検査におけるFIRSTのメリット
小児心臓CTは,(1) 心拍数が速い,(2) 対象構造のサイズが小さい,(3) 複雑な病態の疾患が多いなどの問題があるが,微細な構造の観察や位置関係を把握するための有力な診断ツールである。
320列のADCTでは,短時間で広範囲の画像データが収集できることが利点だが,さらにFIRSTを適用することで,体重10kg以下の乳児の冠動脈やその分枝まで,非常に高い分解能で描出可能になる(図1)。図2は,冠動脈に瘤ができる川崎病の心臓CTだが,10年前の64列CTでは心拍数が成人並みになる8,9歳まで臨床診
断価値のある画像は撮影できなかった(図2a)。ADCTとFIRSTを使うことで,1歳でも図2bのような画像が得られ,両側の冠動脈に瘤が拡張していることが診断できた。
先天性心疾患に対するCT検査の役割
先天性心疾患の画像診断におけるCTの役割は,心臓外科手術やカテーテル治療に必要な形態情報の収集が挙げられる。特に小児の場合には,心奇形など複雑な構造を持つことから,体循環(動脈)と肺循環(静脈)の両方の血管形態の評価や,心臓の内部構造の把握など,多くの情報が必要となる。術前のシミュレーションの1つとして,複雑な構造を理解するために,CTデータを基に3Dプリンタで作成した三次元模型なども活用している。
従来は,複雑な血行動態における心血管構造を心臓CTにより描出するために,造影剤の注入レートを上げる方法や,タイミングをずらして濃度の違う造影剤を注入する“二重濃度造影剤法”などの工夫を行ってきた。しかし,小児に対して太い留置針が必要だったり,撮影のタイミングが難しいなどの課題があった。320列のADCTによって,広範囲かつ高速のダイナミックCT撮影が可能になり,さらにFIRSTを用いることで小児の心臓CTの適応が広がってきた。
FIRSTを生かす先天性心疾患の画像診断
1.主要体肺動脈側副血管(MAPCA)の診断
主要体肺動脈側副血管(MAPCA)は,肺動脈閉鎖性先天性心疾患において動脈管の発生がない場合に,本来は胎生初期に退縮する節間動脈が肺動脈へ血流を送る通路として遺残した病態である。MAPCAが発生している心疾患症例では,細かく発生している血管を統合する手術を,乳児期から成長に合わせて段階的に行う必要がある。心臓を含めた細かい血管の構造の把握のため繰り返しの検査が必要で,CTには高解像度と同時に被ばく線量の低減が求められる。
図3は,64列CT+従来法(a)とADCT+FIRST(b)の画像だが,bでは被ばく線量がDLP2462mGy・cm→148mGy・cmと1/16まで低減されている。実際の画像でも,MAPCAの細かい血管まで描出されていることがわかる(図4)。FIRSTを使うことで,さらに造影剤使用量の削減が図れる可能性があり検討中である。
2.フォンタン手術
フォンタン手術は,右室と左室の分割ができない複雑型心奇形に対する機能的修復術で,体循環からの静脈血を肺動脈にバイパスして肺に直接流す手技である。新生児期に肺動脈絞扼術あるいはBTシャント術を行い,1歳で上大動脈と肺動脈吻合手術(グレン手術)を経て3歳でフォンタン手術へ到達する。その間に心臓CTを行う機会も多く,被ばく線量の増加が問題となる。
小児の心疾患における積算被ばく線量は,心移植を伴う心筋症が最も多いが,フォンタン手術など単心室系の疾患もそれに次いで多くなっている。FIRSTによって被ばく線量を低減できることは,繰り返し検査が必要なフォンタン手術の患者にとってはメリットが大きく,図5のように高い描出能によって,人工血管や側副血管を流れる血流など複雑な病態を把握できる。
FIRST適用による今後の期待
FIRSTのこれからの小児循環器領域での臨床応用の可能性について述べる。
1つ目は,4DCTの活用である。心拍同期をせずに3秒ごとに連続撮影することで,造影剤が心臓から大動脈,肺静脈に広がっていく様子が観察できる。4DCTでは連続撮影が必要なことから被ばく線量が問題となるが,FIRSTを適用することで低線量撮影が可能になり,動態の観察やサブトラクションによって心臓だけを抽出したシネアンギオに類似した画像生成も期待される。
2つ目は,容量計測への応用である。心室容量計測は,現在,カテーテル検査のシネ画像から心室内腔をトレースし計算式から仮想的に求めているが,CTでは実際に造影剤が入っている部分を容積として計算することが可能になる。先天性心疾患の複雑な心臓病では心室の形も一様ではないことが多く,仮想的計算からCTによる実測的なボリューム計算が可能になることへの期待は大きい。実際に肺動脈閉鎖患者の左室拡張末期容積の計測結果をシネアンギオ,心エコーと比較したところ,同様の精度で計測が可能だった(図6)。
3つ目は,肺血管床の評価である。フォンタン手術が必要となる複雑心奇形の症例では,肺血管床の状態を把握することが必要だが,FIRSTを用いることで肺血管の細い分枝まで描出されることで,肺血管床のより正確な評価が可能になる(図7)。これによって,肺動脈コンプライアンスと肺血管抵抗の関係をより正確に把握することができ,手術の適応や時期について適切な判断が可能になると期待される。
まとめ
CTでは,これまで解剖学的な形態情報の収集がメインだったが,ADCTとFIRSTを組み合わせた画像情報から,今後はボリュームの計測など機能情報の取得も可能になることが期待される。被ばく線量や造影剤の低減とも合わせて,小児循環器領域でのFIRSTのさらなる活用の広がりに期待している。
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