整形外科領域を中心としたFIRSTの初期経験
城戸 康男(佐世保市立総合病院放射線科)
Session 1
2016-5-25
当院では現在,3台の東芝メディカルシステムズ社製のCT装置が稼働しており,「Aquilion 64」と「Aquilion ONE / ViSION Edition」2台をそれぞれ,日常診療と救急および夜間・休日の撮影用に使用している。2015年10月にはFull IRの「FIRST」を導入し,2台のAquilion ONEの画像再構成に用いている。本講演では,整形外科領域におけるFIRSTの初期経験を中心に,症例を供覧しながら報告する。
当院におけるFIRSTの運用
当院では,放射線科医や診療放射線技師の判断でFIRST画像を追加して運用している。FIRSTの画像再構成ユニットは日常診療用のAquilion ONE/ViSION Editionに搭載されたが,もう1台のAquilion ONE/ViSION Editionで撮影したraw dataを東芝プロトコル通信という方法で転送することで,2台ともFIRSTでの画像再構成が可能となっている。
整形外科領域の症例提示
●症例1:腰椎骨折
FIRSTではアンダーシュートが低減され,のっぺりした印象となるため,導入当初はAIDR 3Dとの見え方の違いに戸惑うこともあった(図1)。また,FIRSTでは,骨の表面がややザラザラとした画像となるものの,VR画像は分解能を保持したまま作成でき,CPR画像はウインドウ変更のみで脊髄など軟部組織の観察が容易となる(図2)。
●症例2:腓骨骨折
AIDR 3Dなど従来のCTでは,アンダーシュートにより骨折線が強調されるが,FIRSTではアンダーシュートがない分,当院でも慣れないうちは骨折線が見えづらいという意見があった(図3)。ただし,海綿骨内部の骨折線は,アンダーシュートが低減されたことで同定しやすくなっている(←)。
●症例3:踵骨骨折
図4では,AIDR 3Dで見られるアンダーシュートがFIRSTで低減している。このため,FIRSTでは海綿骨の骨折線(←)が同定しやすくなっている。
●症例4:海綿状血管腫
血管腫の粗大な骨梁が見えているが,FIRSTではパーシャルボリューム効果が低減され,ややきれいに描出されている(図5→)。
●症例5:骨転移
肩口のレベルはストリークアーチファクトが発生しやすいが,FIRSTでは低減している(図6)。転移性腫瘍の脊柱管内に軽度突出している部分(←)も,AIDR 3Dに比べてFIRSTでは辺縁がきれいに描出されている。
●症例6:大腿骨骨折
図7では,AIDR 3DとFIRSTの両方で骨折が認められ,その部分の骨髄の濃度が上昇しており出血が示唆される。やや近位側の画像(図8)を見ると,背側部の濃度上昇はAIDR 3Dでも確認できるが,腹側部についてははっきりしない。しかし,FIRSTでは骨髄の淡い濃度上昇が同定しやすくなっている(→)。これは,空間分解能の向上に伴いパーシャルボリューム効果が低減したためと考えられる。
骨髄の濃度上昇は,はっきりしたものであればAIDR 3DとFIRSTの描出能に差は見られないが,淡い濃度上昇ではFIRSTがより有用な可能性がある。
その他の領域でFIRSTが有用だった症例
●症例7:甲状腺腫瘍
AIDR 3Dでは肩口の辺りにストリークアーチファクトが認められるが,FIRSTでは低減され,甲状腺左葉の腫瘍内部の構造が明瞭に描出されている(図9)。
●症例8:交通外傷
本症例は上肢挙上困難であり,CTにて肘の付近に強いストリークアーチファクトが発生した。胸水が貯留しているものの,AIDR 3Dでは血性胸水かどうかの判断は困難であるが,FIRSTではアーチファクトがかなり低減し,胸水の濃度が評価しやすくなっている(図10)。
●症例9:菲薄化した腸管壁の描出
本症例は腸管が拡張し,腸管壁が菲薄化しており,AIDR 3Dでは壁の同定がしづらいが,FIRSTでは明瞭に描出されている(図11)。これにより,読影時の負担軽減と読影時間の短縮が図られ,きわめて有用であると実感している。
今後の展望
整形外科領域にFIRSTを用いることで,アンダーシュートが低減し骨を評価しやすくなるほか,ストリークアーチファクトの抑制は他領域も含め,診断にきわめて有用である。また,骨髄の脂肪髄内のわずかな吸収値の上昇をFIRSTで描出できれば,従来のCTでは指摘困難だった異常を指摘できるようになると期待している。
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