Area Detector CTを用いた小児画像診断
野澤久美子(神奈川県立こども医療センター 放射線科)
Session 2
2015-12-25
当センターは,2014年12月に64列CT「Aquilion 64」から320列ADCT「Aquilion ONE」に更新した。機種選定では被ばく低減を最も重視したが,使用開始から半年が経過し,Aquilion ONEの被ばく低減への貢献を実感している。
Aquilion 64では,管電圧を80,100,120kVから選択できたが,80kVは臨床では使用していなかった。Aquilion ONEでは,AIDR 3Dによる画質向上が期待でき,80kVも含めて管電圧を下げて検査を行っている。本講演では,小児CT検査におけるADCTの活用法について,症例画像を提示しつつ紹介する。
小児CT検査の特性と留意点
小児は成人と比べて,体格が小さい,余命が長い,放射線への感受性が高いという特性がある。また,ある程度の年齢にならなければ検査への協力を得られないことから抑制(固定,鎮静)が必要で,息止めが困難なため安静呼吸下での撮影が原則となる。さらに,心拍数や呼吸数が成人に比べて多いことも検査を難しくしている。先天性心疾患を持つ新生児患者では,心拍数が120〜130bpm,呼吸数が30回/分といった例も多く,撮影時間ができるだけ短いことが望まれる。そして,余命の長い小児では放射線の影響をできるだけ少なくするために,被ばく低減が求められる。
小児の画像検査を行う際の留意点として,安全に適切な検査を行うことと,検査被ばくの低減を心掛けることが挙げられる。
安全に検査を行うためには,体温調整が難しい新生児の保温・加温,鎮静時のモニタリングが非常に重要である。また,正確な診断のために適切な姿位で検査を行うことや,患児や保護者の不安感の軽減にも留意する必要がある。
被ばく低減にあたっては,まず検査の正当化と最適化を考えなければならない。本当にその検査が必要なのか,知りたい情報を得るのにCTが最適なのか,他のモダリティで代替できるかを考える必要がある。検査実施決定後は,ALARAの原則に基づき,必要十分な撮影条件を検討する。小児CT検査では,単相撮影で十分に情報を得られることが多いため,原則として単純あるいは造影の単相撮影を行う。
小児における320列ADCTの有用性
当センターでのCT検査の部位別内訳は,頭部46%,胸部20%,腹部15%,脊椎・四肢10%,頸部(聴器含む)9%となっている。造影CTのほとんどは体幹部の検査で,全検査の約30%である。
撮影中に動いてしまう患児では鎮静剤を使用している。保護者の強い希望により自然入眠で行うこともあるが,その際は固定具を使用している。使用している固定具は,陰圧をかけることで患児の体に合わせて固まるタイプで,痛みもなく動きを抑制できることから重宝している。
ADCTの特性と小児領域におけるメリットは,撮影の高速化と被ばく線量の低減である。ボリュームスキャンで最大16cmの範囲を撮影でき,それを超える場合には,80列ヘリカルスキャン撮影を基本とする。当センターでボリュームスキャンを行う部位は心大血管が最も多く,続いて聴器(4cm固定撮影)である。聴器撮影を行う患児の多くは聴力に障害があり過敏なため,寝台を動かさずに撮影できることは大きなメリットである。ほかにも,顔面頭蓋形成術前後や一部の胸部CTでADCTを用いている。
症例提示
1.鼓膜形成術前後の聴器CT
症例1は,6歳,男児,鼓膜欠損の症例である。図1に,鼓膜形成術前後の聴器CTのアキシャル画像を示す。64列CTでは120kVで撮影していたが(図1a),320列ADCTでは画質が向上したため100kVに下げて撮影している(図1b)。ノイズが少し多いようにも思われるが,小児聴器で評価する耳小骨の形態や連鎖,内耳の形態を十分に評価できる画像が得られている。線量を下げた撮影でも,基底回転の中隔,中回転と頂回転の分離,あぶみ骨の上部構造,あぶみ骨ときぬた骨の連鎖部といった微細な構造を観察可能で,CTDIvolで約1/5,DLPで約1/10まで線量が低減している。
2.先天性気管支閉鎖症
症例2は,胎児診断されていた先天性気管支閉鎖症の症例である。日齢3に施行された64列CTによる検査で緊急の手術は不要と判断され,8か月後に再度320列ADCTで検査を行っている(図2)。成長して構造が大きくなっていることもあるが,図2bでは画質が向上して非常に鮮鋭な画像を得られており,区域気管支までを十分に評価できる。呼吸による影響が多少あるが,肺血管や気管支の構造,葉間を評価することも可能である。
ADCTでは先天性肺疾患に多い分葉の異常を術前情報として取得でき,ボリュームスキャンにより横隔膜付近もボケのない鮮鋭な画像を低線量で得られるようになった。
3.複雑心奇形
症例3は,右心型単心室,総肺静脈還流異常,肺動脈閉鎖,動脈管開存で,左上大静脈,無脾症の複雑心奇形の患児である。日齢3に320列ADCTにて検査を行った。体重2.7kgと小さく,心拍数は130〜140bpm,呼吸数は30〜40回/分と高いが,鎮静剤を使って自然呼吸下で心電図同期を用いずに80kVで撮影を行い,術前に必要な解剖学的情報を得ることができた(図3)。
総肺静脈還流異常の修復術が行われたが,生後5か月時に肺静脈吻合部の狭窄が疑われ,ADCTでの検査が行われた(図4)。元画像では,左肺静脈と心房の吻合部に強度狭窄が認められ,右肺静脈はほとんど造影されていないことがわかる。この撮影でも心電図同期は用いていないが,ボリュームスキャンにより冠動脈がきれいに描出されている。
4.肝芽腫
当センターは小児がん拠点病院のため,腫瘍の患児が多く,診断や治療後の効果判定,再発の有無の確認などにCTを撮影する。以前から原則的に単相撮影とし,造影剤1.5mL/kgで撮影しているが,肝静脈や門脈を描出でき,検出能も十分であった。
症例4は,肝芽腫術後,化学療法後の患児で,64列CTと320列ADCTでヘリカルスキャンにて撮影している(図5)。管電圧はともに100kVで撮影しているが,ADCTでは撮影時間が短縮し,CTDIvol,DLPも低下していて,被ばく低減に大きく貢献していると実感できる。
これらの症例からわかるように,CT装置の性能が向上することで,撮影時間短縮,被ばく低減,画質向上,造影剤量減少など,小児検査において多くのメリットを得ることができる。
逐次近似画像再構成法「FIRST」への期待
最新の逐次近似画像再構成法FIRSTによる小児CT画像を紹介する。
症例5は,11歳,虫垂炎の症例で,広範な腹膜炎を併発し,複数箇所に膿瘍を形成している(図6)。膿瘍ドレナージ術後の再評価において,条件を下げてXYZ方向で管電流を変調させるVolume EC撮影を行った。通常SD10の設定をSD12とし,CTDIvolを2/3に低減して撮影した。AIDR 3DとFIRSTを比較すると,同じ撮影条件でありながら,FIRSTでは腸管と腸管の間の薄い壁が描出されており(→),血管構造の辺縁も明瞭に描出され(○)画質が向上している。腸管の動きによると思われるドレナージチューブ周辺のアーチファクトも軽減されており,大いに期待が持てる技術である。
まとめ
CTの画質向上により,従来よりも低線量で同等の画像を得られることは,小児医療において非常に有用である。よりいっそう小児に優しい検査ができるように,今後の技術開発に期待している。
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