冠動脈サブトラクションの臨床応用 
吉岡 邦浩(岩手医科大学 循環器放射線科)
<Clinical Benefit of Area Detector CT>

2014-10-24


吉岡 邦浩(岩手医科大学 循環器放射線科)

本講演では,320列ADCTによる冠動脈のサブトラクションCTに関して,撮影法,画像処理法,当院における初期使用経験について報告する。

冠動脈サブトラクションCTの撮影法

冠動脈サブトラクションCTには,RealPrep法とテスト注入法,2呼吸法という3つの撮影法がある(図1)。このうち,RealPrep法とテスト注入法は,1回の呼吸停止下に単純CTと造影CTを撮影するため,1呼吸法とも呼んでいる。

図1 冠動脈サブトラクションCTの撮影法

図1 冠動脈サブトラクションCTの撮影法

 

RealPrep法は通常のボーラストラッキング法を用いた撮影法だが,サブトラクションCTの際には,まず冠動脈の石灰化スコアを計測し,適応の有無を確認する。当院では,石灰化スコア400以上を適応としている。適応があると判断した場合には造影剤を注入して,1回の呼吸停止下で冠動脈に造影剤が到達する前にマスク処理を行うための単純CTを撮影し,その後RealPrepを用いて最適なタイミングで造影CTを撮影する(図2)。冠動脈のサブトラクションCTでは,このRealPrep法が最も簡便な撮影法であり,東芝メディカルシステムズ社も推奨している方法である。

図2 1呼吸法(RealPrep法)の撮影法

図2 1呼吸法(RealPrep法)の撮影法

 

図3はRealPrep法で撮影したサブトラクションCT画像であるが,左前下行枝(LAD)の基部の大きな石灰化が除去され,内腔がよく観察できる。RealPrep法は冠動脈のサブトラクションCTにおいて,最も成功率の高い撮影法だと言える。

図3 1呼吸法(RealPrep法)での冠動脈サブトラクション

図3 1呼吸法(RealPrep法)での冠動脈サブトラクション

 

同じく1呼吸法であるテスト注入法はRealPrep法と同様に,先に石灰化スコアを計測する。その次に造影剤のテスト注入を行い,撮影のタイミングを決定した上で,マスク処理のための単純CTを撮影し,さらに造影CTを撮影する(図4)。RealPrep法より最適なタイミングでの撮影が可能であり,例えば,弁逆流などで造影剤の染まりが遅延するような患者で,タイミングを計って撮影をしたい場合などに有用である。

図4 1呼吸法(テスト注入法)の撮影法

図4 1呼吸法(テスト注入法)の撮影法

 

一方2呼吸法は,1呼吸法と同様に石灰化スコアを計測するが,われわれの施設ではそれをマスク処理のための単純CTとして利用している。これを1回目の息止めで行い,その後に2回目の呼吸停止下でRealPrepを用いて通常の造影CTを撮影する(図5)。石灰化スコアの画像と造影CT画像をサブトラクションすると,撮影時間のズレからミスレジストレーション(位置ズレ)が発生する場合があるが,きれいなサブトラクション画像を得られることもある。

図5 2呼吸法(Caスキャンを単純CTとして利用)の撮影法

図5 2呼吸法(Caスキャンを単純CTとして利用)の撮影法

 

これらの撮影法の長所・短所をまとめると図6のようになる。ミスレジストレーションに関しては,RealPrep法とテスト注入法が有利である。操作性については,テスト注入法の場合,造影剤のテスト注入の手順が増える分煩雑であるが,RealPrep法と2呼吸法は通常の撮影と変わらないため容易である。呼吸停止時間は,RealPrep法とテスト注入法ともに25〜30秒であるが,2呼吸法は1回の息止めが10秒程度ですむという長所があり,息止めが困難な高齢者などに試みる意義がある。被ばくについては,マスク用の単純CTを撮影するRealPrep法とテスト注入法は不利であるが,石灰化スコアのデータでマスク処理を行う2呼吸法は,通常のCT Angiography(CTA)と同等の被ばく線量となる。また,撮影タイミングはテスト注入法が最も優れる。なお,被ばくについては,第1世代「Aquilion ONE」(0.35s/rot)では,FBP法と逐次近似画像再構成法ともに,造影CTと単純CTの2回の撮影で約5mSvであった。これが第2世代「Aquilion ONE/ViSION Edition」(0.275s/rot)では,さらなる低被ばく化が図られている。

図6 1呼吸法と2呼吸法の長所・短所

図6 1呼吸法と2呼吸法の長所・短所

 

冠動脈サブトラクションCTの画像処理法

冠動脈サブトラクションCTの画像処理法としては,剛性(Rigid)法と非剛性(Non-Rigid)法の2方式があり,ともに自動位置合わせを行う。
Rigid法では,単純CT画像と造影CT画像に描出された石灰化の位置を合わせてサブトラクションするときに,ズレを修正するために単純CT画像上の石灰化の移動・回転処理を行う(図7)。これにより,造影CT画像上の石灰化に位置を合わせ,ミスレジストレーションを防ぐ。このRigid法では,石灰化形状を変形することはない。

図7 Rigid法による自動位置合わせ

図7 Rigid法による自動位置合わせ

 

一方,Non-Rigid法は,位置ズレだけでなく石灰化の形状も変化している場合に,移動・回転だけでなく変形処理も行い,サブトラクションするというものである(図8)。Aquilion ONE/ViSION Editionに搭載されているソフトウエアは,この2つの方式を組み合わせてサブトラクションを行っている。

図8 Non-Rigid法による自動位置合わせ

図8 Non-Rigid法による自動位置合わせ

 

冠動脈サブトラクションCTの初期使用経験

当院では,第1世代Aquilion ONEを用い,石灰化スコア400以上,高度石灰化を有する55セグメントで,冠動脈サブトラクションCTの評価を行った1)。その結果,従来の冠動脈CTでは41.8%が評価不可能だったものがサブトラクションCTでは12.7%に低減でき,良好な成績を上げることができた。ただし,診断精度としては,特異度(48.7%→59%),陽性適中率(42.9%→48.4%)が若干向上した程度で,臨床使用には問題が残った。これは,0.35s/rotのガントリ回転速度,大焦点撮影,旧バージョンのソフトウエアが原因と考えられる。しかし,第2世代のAquilion ONE/ViSION Editionでは,ガントリ回転速度が0.275s/rotと高速化され,小焦点撮影と新バージョンのソフトウエアにより大幅に改善されると期待している。
また,冠動脈サブトラクションCTは,石灰化だけでなくステントの除去にも有用性が期待されている。

まとめ

冠動脈サブトラクションCTの開発は当初,われわれの施設と東芝メディカルシステムズ社の共同研究として始められたが,その後,国内では高瀬クリニックと藤田保健衛生大学,海外ではNIH,Rigs Hospital,Ceru Blanca(スペイン)が加わり,各施設の協力の下に開発が進められ,すでに臨床への提供が開始されている。今後は,より多くの施設が冠動脈サブトラクションCTを使用し,学会などの機会に使用経験をフィードバックして検討を重ねていくことが望ましいと考えている。

 

●参考文献
1) Tanaka, R., et al. : Improved evaluation of calcified segments on coronary CT angiography ; A feasibility study of coronary calcium subtraction. Int. J. Cardiovasc. Imaging, 29(Suppl. 2), 75〜81, 2013.

 

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