頭部領域の臨床応用
平井 俊範(熊本大学大学院生命科学研究部放射線診断学分野)
<Clinical Benefit of Area Detector CT>
2014-10-24
当院では,320列ADCT「Aquilion ONE/ViSION Edition」を用いて1分程度で頭部領域のDynamic Volume Scanを行い,造影CT,CT Angiography(CTA),CT Venography(CTV),Surface Anatomy Scan(SAS)の形態画像,およびCT Perfusion(CTP)や4D CTAの機能画像を取得している。頭部領域における320列ADCTは,脳血管障害への有用性はほぼ確立されているが,脳腫瘍についてはまだこれからと言える。そこで本講演では,脳腫瘍における臨床応用も含めて,Dynamic Volume Scanの有用性について解説する。
脳血管障害の臨床
1.脳動脈閉塞性疾患
症例1は30歳代,女性。出産後の複視,めまいにより受診し,MRIが施行された。MRAでは左椎骨動脈の信号が消失しており,低形成あるいは閉塞が疑われた。さらに,T2強調画像では左椎骨動脈が描出されているため閉塞が考えられた。そこで,血管情報を得るために320列ADCTでDynamic Volume Scanを行った。4D CTAでは,左椎骨動脈の閉塞と,脳底動脈からの逆行性の血流が描出された。骨とフュージョンしたVR像では,C2-C3のレベルで閉塞しており,周囲の骨と閉塞部位の位置関係が把握できる。血管造影も施行したが,4D CTAと同様の結果となり,血管造影を省略できるほど有用な情報を提供していると言える(図1)。
2.バイパス術後フォローアップ
症例2は70歳代,女性。内頸動脈瘤のトラッピング術と2か所のバイパス術を受けている。図2aは,バイパス術後のDynamic Volume Scanから作成したCTA+CTVである。黄色の部分が外頸動脈と中大脳動脈を結ぶhigh flow bypassで,その近傍に浅側頭動脈と中大脳動脈の末梢が吻合しているところも描出されている。4D CTAではバイパスの血流を観察することもでき,バイパス部から直接右の中大脳動脈が描出されている。
バイパス術後の評価で重要となるのは,hyperperfusionの有無である。Dynamic Volume Scanデータから作成したCTPは,脳血流量(CBF)でも左右差が見られないことから,hyperperfusionは起きていないと判断できる(図2b)。脳血流SPECTでも同様に,左右差は見られなかった。
脳腫瘍の臨床
1.脳実質外腫瘍
症例3は,40歳代,女性,髄膜腫。当院での髄膜腫に対する3T MRAの有用性の検討では,栄養血管をある程度同定でき,付着部の評価に有用であったが,欠点は血行動態の情報がないことや空間分解能が血管造影に劣ることであった。本症例ではDynamic Volume Scanを行い,CTA+CTVのfusion画像を作成した。病変部には2本の中硬膜動脈が描出されており,これらが栄養血管であると予測された。さらに,CTA+CTV+SASのfusion画像では,腫瘍に栄養血管が集中している箇所が明らかになり,MRIでは困難だった動脈と静脈,腫瘍の位置関係を把握できる。4D CTAでは,動脈相の早期に腫瘍に向かう中硬膜動脈の栄養血管が描出されている。また,複数の時相を合わせて最大値を投影するTime MIP法では微細な血管の描出能が向上し,腫瘍の質的診断や付着部の診断に役立つ可能性がある(図3)。
2.脳実質内腫瘍
症例4は,60歳代,女性で,膠芽腫と診断された。造影MRIのT1強調画像では右後頭部にリング状の増強効果が見られ,MRAでは非常に多くの血管が描出された。4D CTAでは,病変部に非常に高いvascularityが見られ,脳動静脈奇形(AVM)のような速い血流で,動脈相の早期の段階から静脈が描出されている。本症例でも,CTA+CTV,CTA+CTV+SASのfusion画像ともに,動脈と静脈,腫瘍の位置関係を把握できる(図4)。また,AVシャントがあるため,静脈部分が赤く描出されている。本症例は,これらの情報が役立ち,手術時に早期に動脈相を処置することで,腫瘍を全摘出することができた。
脳腫瘍の術前評価における320列ADCTの意義
脳腫瘍の術前評価では,MRIでかなり有用な情報が得られることが多い。そこで,われわれは320列ADCTによりMRIを上回る情報が得られるか検討した。
動脈の描出について,上記膠芽腫症例のMRAとCTAを比較したところ,MRAよりもCTAの方が微細な栄養血管の末梢まで描出できていた。また,静脈についてもCTVの方が優れていた。MRIのVR像とCTA+CTV+脳表画像(brain surface image:BSI)のfusion画像を比較したところ,fusion画像は手術におけるadditional informationのgrade 2の評価を脳神経外科医から受けている。
また,造影CTと造影MRIで腫瘍の位置情報を比較すると,コントラスト分解能に優れるMRIの方が有用性は高い。しかし,CTA+CTV+BSIでは腫瘍の表面にbridging veinが走行しており,脳実質外腫瘍ではないと診断できる情報が得られた。一方,MRIのVR像では,静脈と腫瘍の位置関係が不明であり,本症例ではCTの方が有用であった。
当院において,ADCTのDynamic Volume ScanとルーチンのMRI検査を施行した16例では,栄養血管の同定についてはほぼ同等であったものの,3例においてはCTの方が優れているという結果であった。静脈構造の把握についてはCTが優位であり,腫瘍の位置情報はMRIの方が良いという結果が得られた。Perfusionはr=0.92という高い相関があるが,CBV値はMRIの方が高くなっている。なお,出血を多く含む脳腫瘍症例1例において,MRIでは磁化率アーチファクトによりPerfusionを評価できなかった。
さらに,外科治療におけるMRIに対するCTの付加情報の有無については,16例中13例(81%)に付加情報があり,このうち5例が治療に有用な情報(additional information:grade 2)であったという結果になった。5例のうち4例は,富血管性腫瘍の切除に有用な血管情報が得られ,1例は脳実質内・脳実質外の鑑別に役立っている。
以上のことから,ADCTはMRIに対する付加情報があり,特に富血管性腫瘍における動静脈と腫瘍の位置関係が把握できるため,治療への有用性が高いと言える。
まとめ
AIDR 3D併用の320列ADCTは,1分程度のDynamic Volume Scanで形態・機能情報を低被ばくで得られ,脳血管障害や脳腫瘍の診断に有用である。今後は,より多くの症例での検討が必要と考える。