Dual Energy技術を用いた尿路結石の画像診断 
山口 聡(医療法人仁友会 北彩都病院 泌尿器科)
<Clinical Benefit of Aquilion PRIME>

2013-12-25


山口 聡

CT装置は尿路結石の診断にとって不可欠なツールである。さらに最近では,エネルギー(管電圧)の異なる2種類のX線源で撮影するDual Energy CTの登場によって,客観的なデータに基づく結石成分の質的診断が可能になってきた。
本講演では,Aquilion PRIMEにおけるDual Energy CTを用いた尿路結石成分の推定,およびその臨床的有用性について検討した研究を中心に報告する。

Dual Energy CTによる尿路結石成分推定と臨床的有用性の研究の背景

尿路結石は,腎臓結石,尿管結石,膀胱結石,尿道結石のカテゴリーに分かれ,その成分によって,シュウ酸カルシウムやリン酸カルシウムなどのカルシウム含有結石,リン酸マグネシウムアンモニウム結石,尿酸結石,先天性代謝異常のシスチンなどに分類される。本邦における結石の分析統計を見ると,カルシウム含有結石が約90%と圧倒的に多い。一方,尿酸結石は5%程度であるが,他の結石とは異なる治療法を選択できることから,正しい術前診断をつけることがきわめて重要である。そこで,尿酸結石とその他の結石をCTで区別できないかと考えた。
尿酸結石は放射線透過性であり,腹部単純撮影では描出されにくいことはよく知られているが,近年,Dual Energy技術を用いて,高電圧(135kV)と低電圧(80kV)撮影の2種類のCT値(HU)から,カルシウム含有結石と尿酸結石を客観的に区別できるようになった。そこでわれわれは,Dual Energy 技術を用いて尿路結石成分の推定を行い,その臨床的有用性について検討した。

尿路結石における従来のCTの位置づけ

尿路結石では,結石の存在診断とともに,結石の硬さの情報を得ることも非常に重要である。リン酸カルシウム,シュウ酸カルシウム(1水和物),シスチンなどの結石はきわめて硬いため,大きな結石では体外衝撃波結石破砕術(ESWL)単独では破砕困難であり,内視鏡手術や溶解療法の適用も考慮される。そこで,結石除去方法の決定前に,非造影CTのCT値により結石の組成を推定する。平均CT値が1000HUを超えていれば,ESWLでは破砕しにくい結石であると予想でき,次の治療法も検討しやすくなる。欧州泌尿器科学会のガイドライン(2013年版)においても,エビデンスレベルが高く,推奨されている方法である。

Dual Energy Scanによる物質弁別

異なる2種類のエネルギー(管電圧)でCT撮影を行い,物質固有のエネルギー透過性(物質吸収係数)の違いを利用して,物質を弁別し,さまざまな解析を行うのがDual Energy Scanである。例えば,尿酸結石では,高電圧(135kV)と低電圧(80kV)のCT値にはほとんど差がない。しかし,カルシウムが混じったカーボネートアパタイト結石では,80kVのCT値は135kVのおよそ2倍を示す。
尿路結石治療では,結石の成分によって治療戦略が異なるため,結石の物質弁別(material decomposition)が重要になってくる。Dual Energy Scanによって得られた異なる電圧のCT値をプロットすると,尿酸結石と非尿酸結石がそれぞれ特有の分布を示し,両者の分離が可能になる。
チョークファントムを135kVと80kVで撮影すると,135kVでは100HU,80kVでは120HUというCT値になる(図1)。軟部組織ではCT値に差は出ないが,造影剤は135kVで100HU,80kVで150HUとなる。135kVのCT値はいずれも100HUで同じだが,80kVでは異なることを基本概念として検討した。

図1 ファントムを用いたDual Energy解析

図1 ファントムを用いたDual Energy解析

 

Dual Energy Scanの臨床的意義

画像診断により,尿路結石の確定診断が可能になれば,化学溶解も治療の選択肢に加えることができる。例えば,高齢者や抗血栓療法が中止できない患者,重篤な合併症で積極的な結石除去療法を行えない患者の場合,尿アルカリ化薬での結石溶解療法の選択が可能になる。
そこでわれわれは,1169例・906結石を対象に,Aquilion PRIMEを用いてDual Energy Scanを施行し,in vivoで結石成分を推定し,摘出された実際の結石の赤外分光分析結果と比較する研究を行った。実際に排出された232結石の成分分析を実施し,分析率は約20%だった。以下に症例を提示する。

■症例1

腎臓の腹部単純撮影(KUB)では,わずかに淡く左腎孟結石が描出されている(図2)。Dual Energy Scanでは,135kVと80kVのCT値にはほとんど差がなく,尿酸結石であると推定された(図3)。

図2 症例1:腹部単純X線画像 わずかに淡く描出される左腎孟結石(←)

図2 症例1:腹部単純X線画像
わずかに淡く描出される左腎孟結石(

 

図3 症例1:Dual Energy Scanの解析結果

図3 症例1:Dual Energy Scanの解析結果

 

■症例2

腹部単純撮影(KUB)では,左下腎杯の結石が明瞭に描出されている(図4)。Dual Energy Scanでは80kVのCT値が高く,尿酸結石とは明らかに異なるパターンを示した(図5)。赤外分光分析の結果,症例2の結石成分はシュウ酸カルシウムであった。Dual Energy Scanでは,尿酸結石とカルシウム結石の物質弁別が可能であることが確認された。

図4 症例2:腹部単純X線画像 明瞭に描出される左腎杯結石(←)

図4 症例2:腹部単純X線画像
明瞭に描出される左腎杯結石(

 

図5 症例2:Dual Energy Scan解析結果

図5 症例2:Dual Energy Scan解析結果

 

Dual Energy Scanの撮影方法

Dual Energyは,135kVと80kVの管電圧を高速で切り替えてスキャンし,画像データを取得している(図6)。
実際の撮影方法は,まず腹部・骨盤部の単純CTを撮影し,結石の位置を確定してROIを設定する。次に,Dual Energyヘリカルスキャンを施行し,得られた2種類の管電圧のCT値を計算してグラフ表示する。あらかじめ確認されている尿酸結石のCT値のグラフ近くにプロットされれば,尿酸結石が疑われることになる。
検討の結果,排出された結石の8割以上(196/232)がシュウ酸カルシウムであり,尿酸結石は232結石中22結石だった。Dual Energyによる正診率は,シュウ酸カルシウムが88.3%,尿酸結石が81.8%であり,非常に高い陽性的中率であった(図7)。

図6 Dual Energy Scanのスキャン方法

図6 Dual Energy Scanのスキャン方法

 

図7 尿路結石の種類とDual Energy Scan正診率

図7 尿路結石の種類とDual Energy Scan正診率

 

Dual Energy Scanの問題点

Dual Energy 解析の標準物質として,カルシウム結石は炭酸カルシウムを使用している。Dual Energy解析のCT値の回帰直線として,高電圧CT値=1.060×低電圧CT値(尿酸),高電圧CT値=0.740×低電圧CT値(カルシウム結石)を定義していたが,尿路結石には炭酸カルシウムはきわめて稀であり,標準物質としてふさわしくないと言える。尿酸についても,実際の結石との差異も考えられる。したがって,一般的な結石の成分を用い,Dual Energy解析の代表的な標準直線の作成を試みた。

ex vivoでの尿路結石のDual Energy解析

赤外分光分析で成分がわかっている尿路結石(156結石)をサンプルチューブに入れた上で,ex vivoにDual Energy Scanを行い,2種類のCT値をプロット・解析した。最も典型的なシュウ酸カルシウム1水和物74結石では,標準のカルシウム結石とされる炭酸カルシウムよりCT値の差が大きいことが明らかとなり,標準直線の変更が必要と思われる(図8)。
また,尿酸結石ではほぼ同様な結果であり,非尿酸結石との差は著明であった。
リン酸マグネシウムアンモニウムやシスチンは,尿酸とシュウ酸カルシウムの中間の値を示した。
カーボネートアパタイトの混合結石では高電位と低電位のCT値の差が最も大きく,尿酸結石以外の結石との物質弁別の可能性が示唆された(図9)。
さまざまな種類の結石のDual Energy解析をまとめた結果,現在標準物質として用意されている炭酸カルシウムと実際の結石では,直線の傾きに違いがあることが明らかとなった(図10,11)。
また,最近臨床的に発見された,きわめて珍しい2,8-Dihydroxyadenine結石(DHA結石)のDual Energy解析の結果は,シュウ酸カルシウムでも尿酸でもない位置にプロットされた(図12)。尿路結石の診療にあたっては,このような例もあることを念頭に置いておく必要があろう。

図8 シュウ酸カルシウム1水和物のDual Energy 解析結果

図8 シュウ酸カルシウム1水和物のDual Energy 解析結果

 

図9 シュウ酸カルシウム+カーボネートアパタイト混合結石のDual Energy 解析結果

図9 シュウ酸カルシウム+カーボネートアパタイト混合結石の
Dual Energy 解析結果

 

図10 尿路結石の種類によるDual Energy 解析結果

図10 尿路結石の種類によるDual Energy 解析結果

 

図11 Dual Energy Scanによる尿路結石の物質弁別の可能性

図11 Dual Energy Scanによる尿路結石の物質弁別の可能性

 

図12 DHA結石のDual Energy 解析結果

図12 DHA結石のDual Energy 解析結果

 

まとめ

尿酸結石は,放射線透過性という特徴から臨床的に成分推定が行われてきたが,その判断は経験的な側面があった。しかし,Dual Energy Scanではより客観的な評価が可能となり,尿酸結石に対する結石溶解療法の適応決定などへの応用が期待される。各種カルシウム含有結石では,尿酸やシュウ酸カルシウムとも異なるDual Energy解析結果が示唆されている。尿酸や非尿酸結石以外にも物質弁別できる可能性があり,今後も研究を続けたいと考えている。


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