循環器領域の臨床応用 
石村理英子(国家公務員共済組合連合会 虎の門病院 循環器センター 内科)
<Clinical Benefit of Aquilion PRIME>

2013-12-25


石村理英子

虎の門病院のCT検査は年間約3万件にのぼり,うち心臓CTが312件,大血管領域が374件を占めている(2012年度実績)。2011年3月のAquilion PRIME導入以降,循環器領域の心大血管関連CTは全例Aquilion PRIMEで行っている。
本講演では,循環器領域におけるCTの臨床応用とその有用性について,実際の症例を提示しながら報告する。

冠動脈CTA

■Aquilion PRIMEにおける冠動脈CTA

冠動脈CTAにおけるAquilion PRIMEの優位性としては,第一にAIDR 3Dによる被ばく低減が挙げられる。さらに,拡張中期にのみX線を曝射する心電図同期フラッシュヘリカルスキャンを行うことにより被ばく量を低減できる。両方を併用することで,64列CTの半分程度にまで被ばく線量を抑えることができる(図1)。また,心電図同期フラッシュヘリカルスキャンは高速ヘリカルピッチを採用しており,4~5心拍での撮影が可能となったため,モーションアーチファクトも軽減される。
従来の64列CTと80列のAquilion PRIMEの冠動脈CTAを比較してみると,Aquilion PRIMEでは線量を落としているためノイズは少し増えるものの,ステントの構造やステント内腔の病変が明瞭に描出されていることがわかる(図2)。

図1 冠動脈CTAにおけるAquilion PRIMEの優位性

図1 冠動脈CTAにおけるAquilion PRIMEの優位性

 

図2 64列CTと80列Aquilion PRIMEの画像の比較

図2 64列CTと80列Aquilion PRIMEの画像の比較

 

■β遮断薬の使用の実際

心電図同期フラッシュヘリカルスキャンを使うには,脈拍数を65bpm未満で安定させる必要があり,当院ではβ遮断薬の使用を徹底させている。当院ではコスト面から,禁忌でない限りはメトプロロール20mgを検査1時間前に投与する。患者の飲み忘れや,前処置のオーダが入っていない場合は,検査室で超短時間作用型のランジオロールを投与する。冠動脈CTAの撮影フローチャートを図3に示す。
当院における心電図同期フラッシュヘリカルスキャンの実施率は,メトプロロールのみの時は74.3%だったが,ランジオロールの使用によって,84.3%まで上昇した。

図3 虎の門病院における冠動脈CTAの撮影フローチャート

図3 虎の門病院における冠動脈CTAの撮影フローチャート

 

■冠動脈CTAの位置づけ

日本循環器学会の『冠動脈病変の非侵襲的診断法に関するガイドライン』では,冠動脈CTAが推奨されているのは,運動負荷心電図で中程度リスクないし判定不能とされた症例のみであり,限定的な位置づけにとどまっている。
COURAGE trialでは,冠動脈狭窄に対するPCIと薬物治療の効果を比較したところ,両者には差がなかったと報告された1),2)。しかし,サブスタディにおいては,心筋シンチグラフィによる心筋虚血の証明と虚血の改善があれば,生命予後が改善することが証明されている。この結果から,労作性狭心症の診療にあたっては,単に冠動脈の狭窄を見つけるだけではなく,冠動脈狭窄と心筋虚血の両方がそろって初めて,積極的にPCIを行うという考え方に変わってきた。
また,急性心筋梗塞では,発症から治療までの時間をできるだけ短縮することが求められるため,梗塞が強く疑われる場合には,すぐにカテーテル検査を行うべきとされている。したがってCTAは,心筋梗塞の診断に苦慮するような場合に,陰性を証明するためのツールとして用いられる。
虚血性心疾患の診断ツールとしてのCTAの役割は限定的であるが,それ以外で有用性が高い適応は多い。当院では,CABG(冠動脈バイパス術)の術後評価に,冠動脈CTAを用いている。CABGの血管造影によるフォローアップはカテーテル手技が難しく,リスクも伴うことから,CTAの有用性は高いと言える。

■冠動脈CTAの活用:PCI術前評価の観点から

PCIの術前評価も,冠動脈CTAの良い適応である。以下,代表的な4項目について述べる。

1)左冠動脈主幹部病変(LMT)

病変がLADとLCXの両方にまたがる場合は,PCIの手技は煩雑になり,リスクも高まることから,当院では積極的にCABGを行っている。しかし,どちらか片方だけで済むのであれば,患者さんへの負担の少ないPCIを選択する。したがって,LADのプラークがLCXまで及んでいるかどうかの確認が重要となる。またPCIでは,入口部のどこまでプラークが及んでいるかによって手技が異なり,選択するガイディングカテーテルも異なるため,術前の治療計画にとってCTが有用となる。
症例1では,CTのcross section image(直交断面画像)からはLCXにはプラークがないことが確認されたため,PCIを選択した(図4)。しかし,プラークはほとんどLMT入口部まで及んでいることがわかったため,カテーテルを浮かせた状態でPCIを行えるガイディングカテーテルを選択して手術に臨むことができた。

図4 症例1:冠動脈主幹部病変のPCI術前評価

図4 症例1:冠動脈主幹部病変のPCI術前評価

 

2)プラークの性状評価

冠動脈CTAでは,プラークの性状を評価することが可能である。CT値とプラークの性状(硬さ)には相関があり,数値によってsoftプラーク(50HU以下),fibrousプラーク(50〜150HU),石灰化プラーク(500HU以上)に分けることができる。
softプラークの多い病変では,留置したステントが広がっているにもかかわらず血流が改善しない,いわゆるslow flowという合併症を起こす場合がある。これは非常に重篤な合併症であり,リスクが高い場合にはdistal protection deviceを用いる場合がある。特殊なデバイスであるため事前に準備しておく必要があり,プラークの性状についての術前の情報がきわめて重要となる。ただし,プラークのCT値はあくまで相対値であり,血管内腔の造影剤充填につれて変化することに注意が必要である。
症例2では,半月形のfibrousプラークと末梢の表面の石灰化,そして,近位部のfibrousプラークの一部に軟らかいスポットが確認された。血管内エコー(IVUS)でも,同様の所見が得られている(図5)。

図5 症例2:CT値によるプラークの性状評価(上段)とIVUS画像(下段)

図5 症例2:CT値によるプラークの性状評価(上段)とIVUS画像(下段)

 

3)石灰化病変の評価

PCIの術前では,石灰化の評価も重要である。石灰化の性状によっては,バルーンやステントのみでは拡張が不十分であり,石灰化部分を削るrotablatorが必要になることがある。これも,必ずしも施設に常備されているデバイスではなく,準備に時間がかかるため,事前の情報が不可欠である。
症例3のcross section imageを見ると,近位部のプラークは深在性の石灰化のみだが,中央は非常に厚く内腔を圧排している(図6)。また,遠位端はプラークの表面に乗った表在性の石灰化で,形状的にも内腔に突出している。これらの所見から,本症例はrotablatorの適応と判断した。

図6 症例3:CTAによる石灰化評価

図6 症例3:CTAによる石灰化評価

 

4)慢性閉塞性病変(CTO)

冠動脈CTAは慢性閉塞性病変に対する術前評価として有用性が高い。血管造影では閉塞した血管の末梢側の情報は得られないが,冠動脈CTAではどこまで閉塞しているか(閉塞長)がわかる。また,ガイドワイヤの経路のプランニングにも,冠動脈CTAの情報が重要である。
症例4の血管造影では,造影剤が入っていく腔が認められたが,仮に側副血管であった場合,バルーンを膨らませることでperforationを起こし,重篤な合併症が生じる可能性がある。近位部の造影部分をCTで観察すると,血管の外側に沿って降りていくかなり外側を走る腔であり,側副血管である可能性が高いと思われた(図7)。しかし,末梢側は血管の真ん中を通っており,真腔であることが確認できたため,ここにガイドワイヤを通してPCIを行うという治療計画を立てた(図8)。ガイドワイヤの通過後,血管内エコーで管の真腔を通過していることが確認され,冠動脈CTAによる術前評価の有用性が証明された。

図7 症例4:CTAのCPRによる側副血管の確認 血管造影(左)では末梢が描出されず閉塞長も不明。 真腔か側副血管か判別できない。

図7 症例4:CTAのCPRによる側副血管の確認
血管造影(左)では末梢が描出されず閉塞長も不明。
真腔か側副血管か判別できない。

 

図8 症例4:CTAによる真腔と側副血管の判定(CTO RCA ♯1)

図8 症例4:CTAによる真腔と側副血管の判定(CTO RCA ♯1)

 

下肢CTA

■撮影時の固定の工夫

下肢CTAの画質向上のため,当院では固定用のビーズクッションを用いている(図9)。ビーズクッションは空気を抜くとしっかりと固まって,下肢全体を固定できる。当院では,ボーラストラッキングのROIは膝に置いているため,ROIが動かないという利点もある。軌道同期サブトラクションを行っている施設でも有用と考える。

図9 下肢CTA撮影時の固定の工夫

図9 下肢CTA撮影時の固定の工夫

 

■MRAとの比較

MRAとCTAにはそれぞれ得意とする分野があり,使い分けが必要である(図10)。ステント部分のフォローアップはMRAよりCTAの方が有用性が高い。インターベンションの術前評価を行う場合,MRAではプラークの性状はわからないが,CTAのCPRではプラークの性状や石灰化の分布の情報が得られ,治療に必要なデバイスの選択に有用である。

図10 MRAとCTAの比較

図10 MRAとCTAの比較

 

■PTA術前評価

症例5は,左ABI低下が指摘された症例で,左CIA(総腸骨動脈)に強度の石灰化を伴う90%狭窄が認められる。硬い石灰化の中にCT値500HU程度の非常に軟らかい石灰化があることが確認されたため,本症例はバイパス術ではなくPTAを選択した(図11,12)。
石灰化プラークであっても,CT値が低ければバルーンで拡張することができる。PTAとバイパス術では患者さんの負担が大きく異なることから,プラークの性状評価はきわめて重要である。
浅大腿動脈(SFA)病変では,穿刺プランにも冠動脈CTAが有用である。穿刺部と病変部の間にどれくらいのマージンがとれるかによって,穿刺位置を同側とするか対側とするかが変わるため,重要なポイントとなる。
症例6では,病変部まで15cmのマージンがあることが確認できたため,同側からシースを挿入し,ステントを留置した。

図11 症例5:PTA術前の石灰化の評価 (左CIA石灰化病変)

図11 症例5:PTA術前の石灰化の評価
(左CIA石灰化病変)

 

図12 症例6:PTA術前(左)・術後(右)のCAG

図12 症例6:PTA術前(左)・術後(右)のCAG

 

まとめ

冠動脈においても下肢においても,CTAはインターベンションの術前評価としてきわめて豊富な情報をもたらす。目的に合わせて評価することで,治療の成功率や安全性を向上させることができる。さらに,治療方針の決定にも影響するため,CTAはきわめて有用性の高い検査であると言える。

 

●参考文献
1)Boden, W.E., et al. : Optimal Medical Therapy with or without PCI for Stable Coronary Disease. NEJM, 356(15), 1503-1516, 2007.
2)Shaw, L.J., et al. : Optimal Medical Therapy With or Without Percutaneous Coronary Intervention to Reduce Ischemic Burden ; Results From the Clinical Outcomes Utilizing Revascularization and Aggressive Drug Evaluation (COURAGE) Trial Nuclear Substudy. Circulation, 117, 1283-1291, 2008.


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