循環器領域の臨床応用
宇都宮大輔(熊本大学大学院生命科学研究部放射線医学)
<Clinical of Aquilion ONE/ViSION Edition>
2013-10-25
320列ADCTは,循環器領域への適応が高く評価されている。本講演では,心臓CTの現状に始まり,心臓CTの中でも中心となる冠動脈CTAの臨床を中心に,それ以外の弁や心筋の評価についても報告する。
心臓CTの現状
1.被ばく線量の低減
「Aquilion ONE/ViSION Edition」は,16cmのスキャン範囲や,0.275秒の高速スキャンが特長である。また,患者の状況に応じたスキャンの選択肢が広く,音声ROIにより適切なタイミングでスキャンできる。100kVと小焦点の撮影により,低被ばくと高分解能を両立できる点も有用な特長である。
当院では,80kVでのスキャン経験はないが,半数以上の症例で100kVを選択している。当院における心臓CT全体の実効線量の平均は5mSv前後である。冠動脈CTAにおいては,120kVの場合は2.6mSv,100kVを選択した場合は1.7mSv程度にまでX線被ばくを低減することができている。
欧米人では,100kVを選択できる症例は全体の30%に満たず,平均の実効線量も6mSv程度となることから,日本人の方が少ない被ばく線量で検査できると考えられる。
2.心臓CTの適応の検討
心臓CTのガイドラインに近いものとして,『Appropriate Use Criteria(AUC)2010』がある。2006年版のAUCと,2010年の改訂版とを比較すると,2006年版では心臓CTの良い適応とされた症例は41%だったが,2010年版では71%に増加している。心臓CTが適切と判断される状況が非常に増えていることがわかる。今後も,心臓CTの件数はさらに増え,臨床における重要性も増していくものと考えられる。
3.当院における音声ROIの活用
当院では,検査時に2つのROIを設けてスキャンタイミングを決定する音声ROIを用いている。一般に息止めをすると,4〜5秒後に心拍数が低下するが,これは心臓CTではメリットとなる。ただし,息止めから心拍数が安定するまでの4〜5秒を得る必要があり,音声ROIを利用することとなる。当院では造影剤が肺動脈に達した時点で息止めを開始することとしている。まず肺動脈に息止め用のROIを置き,上行大動脈にスキャン開始用のROIを設定する。肺動脈のCT値が100HUに達したところで,息止めの合図を始める。その4〜5秒後に,上行大動脈のCT値が300HUに上がったところでスキャンが開始される。このように音声ROIを使って,患者さんの状態と造影剤の到達が適切になったタイミングでスキャンしている。
冠動脈CTAの臨床
・症例1:60歳代,男性。LADに強い狭窄があり,心臓CTによって数年間フォローされているが,胸痛発作はなく安定している(図1)。
64列CTの画像と320列ADCTの画像を比較してみると,近位部の動きの少ない部分については64列CTでも確認できるが,320列ADCTでは,右冠動脈の遠位側の小さな点状の石灰化や,非石灰化の部分を伴う微細なプラークがきれいに描出されている(図2)。
・症例2:60歳代,男性。心拡大を指摘され,心筋血流SPECTで心尖部の虚血が疑われた。
心臓CTを施行したところ,LADに小さな石灰化プラークが認められたが,明らかな狭窄病変はなかった(図3)。シンチグラフィとCTの両方による被ばく線量の増加が気になる症例だったが,320列ADCTでは約1.7mSvでスキャン可能となり,安全かつ非侵襲的な経過管理を行うことができる。
・症例3:60歳代,男性。LADにステント留置の既往があり,フォロー中に非特異的な胸痛を訴えた。
不整脈があるため,100kV,R-R 30〜80%とし,念のために2beat scanして,得られたデータから最適な画像を取得することとした。LADの近位部から中間部にかけ,ステントとともに強い石灰化が描出されたものの,高速スキャンと安定した画像のcurved MPRで,ステント内腔には有意狭窄がないことを確認できた(図4)。実効線量は7.3mSvだが,64列CTによるヘリカルスキャンと比較すると,かなり少ない被ばく線量で確実に検査を行うことができた。
冠動脈CTA以外の心臓CT
・症例4:70歳代,女性。肺結節に対するCT下肺生検目的で当科を紹介され,胸部単純CTで左心房に腫瘍が指摘された。
まず,ボリウムデータから腫瘍の大きさを測定し,Vitreaワークステーションを使って容量などを計測する(図5)。本症例も収縮期と拡張期の画像が必要と考え,R-R 30〜80%のデータをスキャンした。収縮期と拡張期の画像を比較してみると,左房前壁と腫瘍の間に見られたストーク状の構造に再現性がなく,腫瘍の付着部は心房中隔の卵円孔近傍であることがわかった。比較的典型的な粘液腫であると診断することができる(図6)。
・症例5:70歳代,男性。当院では,大動脈弁閉鎖不全の術前に収縮期と拡張期の画像を作成し,大動脈弁の基部および冠動脈病変の合併についてチェックを行っている。
収縮期と拡張期で弁の状態を確認し,楕円形の弁輪部の径を測定する。弁輪部の短軸と長軸の計測は臨床的に不可欠となる。斜冠状断で弁輪径,Valsalva洞の径,sino-tubular junctionの径を測定し,外科医に提供している(図7)。
もちろん,同時に冠動脈病変の評価も可能である。本症例では重篤ではないものの,右冠動脈プラークの散在が確認された。
・症例6:70歳代,男性。糖尿病のフォロー中に,心エコーで左室躯出率(EF)の低下が指摘された。
冠動脈CTAで,LAD領域に境界域の狭窄病変が認められた。負荷心筋パーフュージョンCTでは,LAD領域に若干の低下域があるものの,重度ではないことがわかった(図8)。この患者は心筋シンチグラフィでも同様の所見であり,現在フォロー中である。
まとめ
Aquilion ONE/ViSION Editionの高速スキャンにより,安定して高画質な心臓CTを得ることができる。日本人では多くの患者において100kVでスキャン可能で,さらなる被ばく低減が期待できる。また,患者の状態に応じて適切なスキャンが選択できるため,よりリーズナブルに被ばく低減を実現できると考えられる。