セミナーレポート(キヤノンメディカルシステムズ)
画論26th The Best Image
Deep LearningがもたらすCT画質のquantum leap
粟井 和夫(広島大学大学院 医歯薬保健学研究科 放射線診断学研究室 教授)
放射線診断分野における人工知能(Artificial Intelligence:AI)の研究は急激に進歩している。特に近年,CTやMRIなどの画質向上を目的としたAI応用画像再構成としてDeep Learning Reconstruction(DLR)の開発が進められ,2018年4月,キヤノンメディカルシステムズ社からCTのDLRである“AiCE”が発表された。AiCEは,ノイズ低減,高コントラスト分解能,低コントラスト分解能に優れ,特に低〜通常線量の撮影では他の画像再構成法と比較して最も高画質が得られるほか,hybrid IRに匹敵する高速な画像処理が可能など,さまざまな利点がある。今後,DLRが画像再構成の標準オプションとなっていくことが期待される。
放射線診断分野においては現在,人工知能(Artificial Intelligence:AI)が活発に研究され,関連する論文が爆発的に増加している。特に,AI技術の一つであるdeep learningをCT画像再構成に用いることで,CTの画質の劇的な改善が可能となる。本講演では,deep learningを用いた画像再構成技術であるDeep Learning Reconstruction(DLR)の概略を述べた上で,実際の画像を提示しつつ,DLRの臨床的な能力(clinical capability)と,それを実証する物理特性に関する当院での検討結果を報告する。
DLRの概略
1.放射線診断分野におけるAIの現況
放射線診断分野におけるAIの現況について,学術文献検索サイトであるPubMedで検索し,放射線診断に関するAIの論文数の年次推移を見たところ,2016年頃から爆発的に増加していた。放射線領域のトップジャーナルである“Radiology”からも,2019年に“Radiology:Artificial Intelligence”が新たに創刊されることが決まっており,AIの研究は今後ますます盛んになっていくと考えられる。
放射線診断分野のAIについて,従来は病変検出や臓器の自動抽出,冠動脈自動抽出,病変性状評価と良悪性の鑑別,画像サブトラクションや位置合わせなどの診断支援に主に用いられていたが,最近ではAIを用いてCTやMRIの画質を改善するための試みがなされるようになった。画質改善は,以前からフィルタを用いた手法が行われているが,従来の単一フィルタを用いた画像処理では,ノイズを除去すると画像の鮮鋭度が低下し,鮮鋭度を上げようとするとノイズが増加するため,十分な画質改善効果が得られない。一方,近年,画像領域で多用されているdeep convolutional neural network(DCNN)は,畳み込みフィルタ(convolution filter)を多層に重ね,それを非線形に連結して画像処理を行うことで,畳み込みの組み合わせによって高度な機能を実現することができる。
2.DLRの概略
われわれは現在,このDCNNを応用してCTの画質を改善するDLR技術の開発に取り組んでいる。そこで,以下にDLRの肝となる学習の概略を述べる。
はじめに,インプット画像(y)としてhybrid IR(hybrid iterative reconstruction)で処理された画像と,教師画像(target image:f)としてMBIR(model based iterative reconstruction)で処理された画像を用意する。学習で最も重要となる教師画像には,通常実装されているMBIRよりもiteration回数が多く,通常は使用しないモデルを組み込んだAdvanced MBIR(A-MBIR)処理を行った,きわめて高画質な画像を使用している。この2つの画像をDCNNに入力する。
式(1)のRは,DCNNのパラメータ群Θのもとでインプット画像yを入力するとアウトプット画像が出力されることを示す。次に,アウトプット画像(fの上に^)と教師画像fを差分して,誤差画像(cost function)を作成する。
式(2)は,アウトプット画像(fの上に^)と教師画像fの誤差の二乗和を最小にすることでインプット画像を教師画像にするべく,DCNNの適切なパラメータを推定することを意味する。この誤差については,back propagationという方法を用いて各レイヤーに誤差を配分し,ADAM optimizerにてパラメータの最適化を図る。
例えば,誤差画像がゼロになると,アウトプット画像もきわめて明瞭に改善されることになる。
3.DLRの応用
上述のDLRの技術を応用し,キヤノンメディカルシステムズ社が開発した画像再構成技術が“AiCE(Advanced Intelligent Clear-IQ Engine)”である。
DLRの学習には,さまざまな撮影線量やFOVサイズの画像,あるいはノイズレベルを変えた画像など数十万パッチのデータが用いられた。AiCEによる現時点での実際の画像再構成時間は,同社のADCT装置「Aquilion ONE/GENESIS Edition」を用いて秒間21枚(71.2T FLOPS)を実現している。hybrid IRである“AIDR 3D”では秒間23枚,MBIRである“FIRST”では秒間2.8枚であり,AiCE はhybrid IRと同等の時間で高速な画像演算が可能である。
DLRのclinical capability
1.心臓CTにおける初期検討
心臓CTにてDLRの画像とFBP,hybrid IR,MBIRの画像を比較したところ,DLR(図1 d)ではMBIR(図1 c)と同等あるいはそれ以上の画質が得られていた。
また,心臓CTの初期検討として,hybrid IRとDLRにおけるノイズとcontrast to noise ratio(CNR)を比較したところ,上行大動脈,左心房,心室中隔のノイズはいずれもDLRの方が統計学的に有意に低く,また,左冠動脈主幹部と右冠動脈近位部のCNRも,DLRの方が統計学的に有意に高いという結果が得られた。放射線科医2名による視覚的評価においても,Score1(poor)〜Score4(excellent)で判定した結果,hybrid IRではScore3が最も多かったのに対し,DLRではScore4が最も多く,統計学的な有意差が認められた。
さらに,DLRは低線量CTと非常に相性が良いと考えている。そこで,低線量心臓CTの初期検討として,心機能評価のために心電図同期にてR-R間隔を1心拍連続撮影したデータを用いて,低線量(通常の20%の線量)および通常線量で撮影した拡張中期におけるhybrid IRとDLRの画像を比較した(図2)。通常線量のhybrid IR(図2 a)と比較し,20%線量のhybrid IR(図2 b)はノイズが多く,心室中隔の壁の画質も粗いが,DLR(図2 c)では20%線量であっても通常線量のhybrid IRと同等の画質が得られている。
2.腹部CTにおける初期検討
腹部CTについても初期検討1)を行った。図3は転移性肝腫瘍で,門脈のすぐ後ろに腫瘍があるが,hybrid IR(a)と比較してDLR(b)では,ノイズが大幅に低減されているにもかかわらず,腫瘍辺縁が明瞭に描出されている。
転移性肝腫瘍58症例を対象に,hybrid IRとDLRのノイズおよびCNRについて検討した。まずノイズ(SD)は,hybrid IRの19.2(12.1〜27.1)HUに対し,DLRでは12.8(6.9〜21.9)HUと低減しており,さらに両者の差分をとると,全症例でDLRの方がノイズが低減していた。対象症例にはさまざまな体型の患者が混在しているが,DLRでは体型を問わずノイズ低減が可能であることを示している。また,CNRはhybrid IRの1.9(0.1〜5.3)に対し,DLRでは2.5(0.2〜8.1)と有意に高く,やはりDLRでは全症例でCNRが向上していた。
3.胸部CTにおける初期検討
図4は,通常線量(8.6mGy)で撮影した胸部CT画像であるが,FBP(a)と比較しDLR(d)では画質が大幅に改善している。
図5は,低線量肺がんCT検診(1.5mGy)のデータを各再構成法で画像化し,一部を拡大したものである。FBP(図5 a)と比較して,hybrid IR(図5 b)やMBIR(図5 c)でも画質は向上しているが,DLR(図5 d)が最もノイズが低減している。
軟部条件では,その差がより明らかである。図6は,同じく低線量肺がんCT検診(1.5mGy)の画像であるが,MBIR(c)で強く見られるplastic appearanceが,DLR(d)ではしっかりと抑制されている。
胸膜の癒着を評価するための低線量4D胸部CT画像でも,DLRが最もノイズが少なく,明瞭である。
4.超高精細CTにおける初期検討
現在,当院で稼働している超高精細CT「Aquilion Precision」でもDLRの検討を行っている。
図7は,腹部の超高精細CT画像である。スライス厚が0.5mmのため,hybrid IR(図7 a)でもかなりノイズが強いが,DLR(図7 c)ではしっかりと抑制されている。
図8は,やや高線量で撮影した膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)の画像であるが,hybrid IR(a)と比較しDLR(b)ではノイズが著明に改善している。
超高精細CTにおけるDLRの検討として,hybrid IR,MBIR,DLRにおけるノイズとCNRを比較したところ,ノイズはDLRが有意に低かった。また,CNRについて,肝のdynamic CT動脈相および平衡相で検討したところ,DLRが著明に高かった。
Aquilion Precisionでは,きわめて高分解能な画像が得られるため,微小な尿路上皮癌の評価に有用であると考え,現在検討を行っている。図9は,Aquilion ONE/GENESIS EditionとAquilion PrecisionによるCT urography(CTU)の画像の一部を拡大したものであるが,超高分解能のAquilion Precision(b〜d)におけるDLR(d)ではノイズが非常に少なく,尿路上皮の評価がかなり正確に行えると考えている。
DLRの物理特性
1.ノイズ特性
各画像再構成法における線量とノイズ量の関係について,横軸を管電流時間積,縦軸を画像ノイズとして検討したところ,低〜通常線量ではDLRが最もノイズが低いが,通常〜高線量ではDLRよりもMBIRの方がノイズは低い傾向が見られた(図10)。また,管電流を300mA,200mA,100mAと変化させて線量とnoise power spectrum(NPS)の関係を見ると,特に再構成法ごとの違いが著明な100mAではFBPはノイズが全体に非常に強く,hybrid IRとMBIRも低周波領域でややノイズが強い傾向があるが,DLRは低周波領域のノイズ抑制がかなり強いことが確認できた(図11)。実際に,低線量で撮影したファントムの各再構成法による画像を比較すると,DLRは粒状性に優れ,小さい構造物が比較的視認しやすい傾向であった。
2.高コントラスト分解能(空間分解能)
次に,高コントラスト分解能の検討として,各画像再構成法によるMTFを比較したところ,MBIRとDLRはFBPやhybrid IRと比較して高いが,低周波領域ではDLRの方が高く,高周波領域ではMBIRの方が高かった(図12)。そこで,全体の20% MTFを比較すると,MBIRとDLRはほぼ重なっていることから,線量にかかわらず空間分解能は同等と考えられた。櫛状ファントムの画像を比較すると,DLRは粒状性に優れ,きわめて高分解能であった。
3.低コントラスト分解能(検出能)
腹部CTにおいては,低コントラスト分解能がきわめて重要であるため,定量的な評価法であるmachine observer試験で評価を行った。横軸を線量,縦軸をdetectability indexとして各再構成法を評価したところ,MBIRとDLRのdetectability indexはFBPやhybrid IRと比較して値が高く,低線量〜通常線量域ではDLRが最も高く,高線量域ではMBIRが最も高い値を示した。
4.物理特性のまとめ
画像のノイズ特性について,低線量域ではDLRが最もノイズ低減効果が高く,高線量域ではMBIRが最もノイズ低減効果が高い傾向であった。また,NPSに関しては,今までは抑制が難しいとされていた粒の粗い低周波ノイズを,DLRでは効果的に低減可能であることを示した。
高コントラスト分解能について,MBIRやDLRは,FBPやhybrid IRと比較して高い。また,低周波領域ではDLRの値が高いが,高周波領域ではMBIRの方が高い。
低コントラスト分解能について,低線量〜通常線量域ではDLRが最も優れており,高線量域ではMBIRが最も優れている。
まとめ
DLRは強力にノイズを低減できる上に,高い空間分解能を維持できる画像再構成法であり,低〜通常線量の撮影では最も高画質が得られる。体格が大きな患者でも高画質が得られる可能性があり,頑健な画像再構成法と考えられる。また,画像再構成時間は,Aquilion ONE/GENESIS Editionでのhybrid IRとほぼ同等であり,実用上まったく問題のない画像再構成速度を実現している。今後,DLRが画像再構成の標準オプションとなっていく可能性があると考えている。
●参考文献
1)Nakamura, Y., et al. : Improvement of diagnostic image quality of abdominal CT by using a deep learning based reconstruction ; Initial clinical trial targeting hepatic metastases. ECR 2018, SS-601a, 2018.
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開催:2018年12月16日(日) 会場:東京国際フォーラム
主催:キヤノンメディカルシステムズ株式会社