セミナーレポート(キヤノンメディカルシステムズ)

第80回日本医学放射線学会総会が2021年4月15日(木)〜18日(日)にパシフィコ横浜(神奈川県横浜市),4月28日(水)〜6月3日(木)にWebでハイブリッド開催された。4月16日(金)に行われたキヤノンメディカルシステムズ株式会社共催のランチョンセミナー2では,熊本大学大学院生命科学研究部放射線診断学講座教授の平井俊範氏が司会を務め,国際医療福祉大学放射線医学講座主任教授の桐生 茂氏と藤田医科大学医学部放射線医学教室臨床教授 / 同先端画像診断共同研究講座 講座長の大野良治氏が,「Change the standard:広がるMRIの可能性」をテーマに講演した。

2021年7月号

第80回日本医学放射線学会総会ランチョンセミナー2 Change the standard : 広がるMRIの可能性

MRI画質改善への新たなアプローチ

桐生  茂(国際医療福祉大学放射線医学講座)

MRIの画質改善への新しいアプローチとして,近年,Deep Learning Reconstruction(DLR)が注目されている。DLRは,ディープラーニングを用いたデノイズ(ノイズ除去)を主な目的とした画像再構成であり,従来のフィルタ処理と比較してSNRの高い画像を取得することができる。本講演では,キヤノンメディカルシステムズ社のDLRである“Advanced intelligent Clear-IQ Engine(AiCE)”の特長を概説した上で,われわれのDLRの研究の概要やDLRにより顕在化した課題について述べる。また,課題の解決策として,SPEEDER由来ノイズやモーションアーチファクトへの対策における新技術を紹介する。

DLRの概要

キヤノンメディカルシステムズでは,2019年にAiCEを3T MRIに初めて搭載し,現在では,3Tおよび1.5Tの製品に実装している。
AiCEには,大きく2つの特長がある1)。1つ目は,AiCEではノイズコントラストに重要な低周波成分を学習ネットワークから除外した状態で高周波成分のみを学習させ,最終的な画像に低周波成分を加えている。このため,コントラストに影響することなく,効率の良いノイズ除去が可能となる。2つ目に,AiCEでは活性化関数にsoft shrinkageを採用しており,画像のノイズ量に応じてsoft shrinkageの閾値を変えることで,ノイズ除去の強度を変更することができる。これらを組み合わせることで,さまざまな画像種において適切なノイズ除去を可能としている。

DLRの研究の概要

国際医療福祉大学成田病院では現在,診療には3Tの「Vantage Centurian」と1.5Tの「Vantage Orian」,健診には「Vantage Galan 3T / Focus Edition」とVantage Orian(いずれもキヤノンメディカルシステムズ社製)を用いており,すべてにAiCEが搭載されている。以下では,健診用の装置を用いて行ったAiCEに関するれわれの研究の一端を紹介する。
同一症例について,3Tと1.5Tの両方で脳のT2強調画像,FLAIR画像,拡散強調画像を撮像し,1.5Tの画像にはAiCEを適用したところ,3Tの画像と同等の画質が得られた。なかでも拡散強調画像では,3Tの画像(図1 a)にはairに起因する磁化率アーチファクトが目立つが,1.5Tの画像(図1 c)では目立たず,さらにAiCEを適用することで3Tと同等の画質となっている(図1 b)。SNRによる定量的評価および視覚評価においても,AiCEを適用した1.5Tの画像は3Tと同等の画質が得られるとの結果であった。
MRCPについても検討を行った。呼吸同期の3D-MRCP(図2 a),キヤノンメディカルシステムズの3D撮像高速化技術である“Fast 3D mode”を適用した呼吸停止下の3D-MRCP(図2 c),そこにさらにAiCEを適用した画像(図2 b)を比較したところ,視覚評価において,overall image qualityはAiCEを適用した画像が最も高い結果を示した。

図1 頭部の拡散強調画像における3T画像とAiCEを適用した1.5T画像の比較 (画像ご提供:国際医療福祉大学・田島 拓先生)

図1 頭部の拡散強調画像における3T画像とAiCEを適用した1.5T画像の比較
(画像ご提供:国際医療福祉大学・田島 拓先生)

 

図2 3D-MRCPにおけるAiCE適用の有無による画像比較 (画像ご提供:国際医療福祉大学・田島 拓先生)

図2 3D-MRCPにおけるAiCE適用の有無による画像比較
(画像ご提供:国際医療福祉大学・田島 拓先生)

 

DLRにより顕在化する課題と対策

DLRを用いることで高精度なノイズ除去が可能となり,画像が鮮明になることや,より強度の強いノイズ除去が可能となることが明らかとなってきた。一方,ノイズを除去することで,もともとあったアーチファクトが顕在化することが課題となっている。なかでも,パラレルイメージングにおけるSPEEDER由来ノイズ(g-factorノイズ)とモーションアーチファクトが問題となる。そこで,これらの課題の解決に向けた,キヤノンメディカルシステムズとの共同研究について紹介する。

1.SPEEDER由来ノイズ対策
前述のとおり,AiCEで採用されている活性化関数のsoft shrinkageでは,閾値を変えることでノイズ除去の強度を変更することができる1)。閾値は,g-factor mapのg-factorによって規定されているが,このg-factorとはSPEEDER由来のノイズの増幅度であり,g-factorが大きいとノイズが強くなる。従来のAiCEでは,画像全体の平均のg-factorをすべてのピクセルに用いていたため,SPEEDER由来ノイズが顕在化してしまっていた。しかし,新手法であるvariable soft shrinkageをAiCEに併用することで,g-factorが強い範囲のノイズをより強く除去するように閾値を調整できるようになり,画像全体で効率良く優れたノイズ除去が可能となった。
頭部のMRA(図3)では,オリジナル画像(a)で目立たなかったノイズがAiCEの適用により明瞭となったが(b),variable soft shrinkageを併用することでノイズが除去された良好な画像が得られた(c)。腹部MRI冠状断像(図4)でも同様に,variable soft shrinkageの併用によって,SPEEDER由来のg-factorノイズ()が低減されている(b)。

図3 Variable soft shrinkage によるSPEEDER由来ノイズの低減:頭部MRA

図3 Variable soft shrinkage によるSPEEDER由来ノイズの低減:頭部MRA

 

図4 Variable soft shrinkage によるSPEEDER由来ノイズの低減:腹部MRI

図4 Variable soft shrinkage によるSPEEDER由来ノイズの低減:腹部MRI

 

2.モーションアーチファクト対策
一般的なモーションアーチファクト対策の一つに,キヤノンメディカルシステムズの体動補正技術であるJET法がある。非常に有効な方法ではあるが,ある程度エコートレイン数の多い撮像が必要,コントラストが通常の画像と異なる,ストリークアーチファクトの発生,といった課題がある。
そこで,われわれは,iterative再構成を使用した新しい画像再構成法(motion artifact reduction:W.I.P.)を考案した。本法は,shot rejection,image estimation,motion estimationの3つの処理が含まれていることが特徴である。まずshot rejectionでは,動きの強いTRを選択して自動で除去する。次に,image estimationとmotion estimationでは,conjugate gradient SENSE(CG-SENSE)法を用いる。CG-SENSE法は,ある画像をiterativeに変化させ,収集画像との違いを最小にすることで元の画像を推定する技術である2)。基本的には,アンダーサンプリングされたデータを正しく画像化するために用いられる。そこに,体動はTRごとに異なるという仮定に基づいてmotion estimationにて求められた動き成分を加えることで,最終的にアンダーサンプリングの展開と体動補正を行うことが可能となる(図5)。
図6は頭部の冠状断像であるが,AiCEを適用した画像(b)では,オリジナル画像(a)よりもモーションアーチファクトが顕在化しているのに対し,CG-SENSE法をベースとしたmotion artifact reductionを併用するとアーチファクトが除去されている(c)。
このように,本法を用いることで,AiCEにより顕在化したアーチファクトを効率的に低減可能になると期待している。

図5 CG-SENSE法を用いたmotion artifact reductionの概要

図5 CG-SENSE法を用いたmotion artifact reductionの概要

 

図6 Motion artifact reductionによるアーチファクト除去

図6 Motion artifact reductionによるアーチファクト除去

 

* AiCEはノイズフィルタの設計段階でAIを用いた画像再構成です。
* 記事内容はご経験や知見による,ご本人のご意見や感想が含まれる場合があります。

●参考文献
1)Kidoh, M., et al., Magn. Reson. Med. Sci., 19(3):195-206, 2019.
2)Hestenes, M.R., et al., J. Res. Natl. Bur. Standards, 49 : 409-436, 1952.

一般的名称:超電導磁石式全身用MR装置
販売名:MR装置 Vantage Orian MRT-1550
認証番号:230ADBZX00021000

一般的名称:超電導磁石式全身用MR装置
販売名:MR装置 Vantage Galan 3T MRT-3020
認証番号:228ADBZX00066000

 

桐生  茂(Kiryu Shigeru)

桐生  茂(Kiryu Shigeru)
1994年 山梨医科大学卒業。東京大学医学部附属病院放射線科入局。NTT東日本関東病院,米国ハーバード大学ベスイスラエルディーコネスメディカルセンター留学,社会保険総合病院(現・JCHO東京山手メディカルセンター)を経て,2010年に東京大学医科学研究所附属病院放射線科准教授。2018年〜国際医療福祉大学放射線医学講座主任教授,国際遠隔放射線診断センター長。

 

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